epilogue.
「いってきまーす!」
玄関を出た瞬間。朝の陽射しがとても心地よく感じて、胸が躍った。
小動物が身を寄せ合うみたいに集まっている家・マンション。その合間を縫うように並ぶ電柱も、気持ち良さそうに野良猫が眠っている路地裏も、公園の古びた掲示板も、自販機も、坂道も。いつもと変わらない。
でも、どうしてだろ。今日は何だか走って学校へ行きたい気分だった。
駅へと続く交差点に差し掛かったその時。陽に照らされてキラキラ光る銀髪と見覚えのある後ろ姿が見えた。
すぐさま駆け寄り大きな声で『おっはよー‼︎』と挨拶をすると、彼女は──雫は満面の笑みで挨拶を返してくれた。
「今日は
「うん。 何か用事があったみたいで先に行っちゃった」
──あのフェスから数日が経った。
初めのうちは配信で見てくれていたクラスメイトが褒めてくれたり、近所の人達や他学年の先輩に声をかけられたりと、ちょっとした有名人になっていたけど。それも一時的なもので、私の日常は以前と同じ。学校でアイドル活動をする女子高生のまま。
「そういえば、読みましたカ?
フェスを大成功に導いた立役者として命さんは以前よりも人気が増し、色んなところでインタビューを受けていた。
あれから私は今まで以上に命さんのことを知りたいと思っている。だから、ちゃんと全部の記事に目を通そうとは思っているんだけど。
「え。 えーと、どれのことかな?」
連日記事が投稿されており、あまりの多さにそろそろ把握出来なくなってきていてる。
「これデス!」
雫のスマホの画面に表示されている記事のタイトルを見て、思わず足を止めてしまった。
「あ、ごめんね。 それなら今朝読んだよ」
「やはり、
雫には内緒だけど。そのことについては、すでに命さんの口から直接聞いていた──
*
『あの、一つ聞きたいことがあるんですけど。 いいですか?』
『何よ』
『私、【 】ってアイドルアニメがすごく好きで。 その。 命さんも、好きなのかなって』
『どうして、そう思うの?』
『実は歌の表現に悩んでいた時に見返して、主人公の子と命さんの歌い方が似てることに気づいて。 それで特典映像のリリイベを見て、もしかしたらって』
『……そうね、好きよ。 当然じゃない。 だって、あのアニメの主役を務め、【
*
「──なんかすごいよね。 思わぬ繋がりって本当にあるというか」
「まさに運命デスネ!」
「運命か。 確かに、そうかもしれない」
和奏さんの輝きが私を導いて、この未来に巡り合わせてくれた。なんてちょっとロマンチスト過ぎるよね。
また命さんに『そういう事を恥ずかしげもなく』って言われちゃうな。
「宇佐美結々」
そんなことを考えていると、この場にいないはずの彼女の声が聞こえて──え?
声のした方へ目をやると、そこには腕を組み、一軍を率いる将の如く堂々とたたずむ一人の女生徒がいた。
勝気な顔でダークブロンドの長髪を靡かせる彼女。その鋭く、強気な瞳を私はよく知っている。そして、彼女が身に纏うレトロな制服もよく知っていて。正直、彼女がここにいることよりも、そちらの方が気になって仕方なかった。
「み、命さん。 その格好は……?」
「一々聞かなくても分かるでしょ。 それより、そのさん付けやめてよ。 これからは同じ学校の同級生になるんだから」
「え。 同級? ねぇ、雫。 私のほっぺひねって」
「は、ハイデス」
ピリッとほっぺに痛みが走る。うん、ちゃんと痛い。
念の為、雫のほっぺもひねってみると、ちゃんと痛かったみたいで──しばらくの間、二人で顔を見合わせてから、手を繋ぎ、
『え。 ええぇぇぇぇぇっ⁉︎⁉︎』
重なる声はどこまでも遠くへ響いていくような気がした。
3rd&4th fin.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます