Chapter 3.
電車に揺られることおよそ一時間弱。やってきたのは、雫ちゃんの住む
「いぇいっ!」
スマホでパシャリと一枚!
残念ながら用事があって来れなかった菊花にメッセージアプリで、駅前広場での自撮りと『よっしゃー!』とはしゃぐネコのスタンプを送ると。
「うわぁ、既読無視かぁ」
まぁ、そうなるよね。
さて、改札を出たら教えてと言われていたので雫ちゃんに『着いたよ!』とメッセージを送信。すると、すぐに既読がついて可愛いパンダの了解スタンプが返ってきた。
今日は雫ちゃんの家にお世話になる予定だから、手荷物は旅行用のショルダーバッグが一つ。そんなに重い訳じゃないけど。どのくらい待つことになるのか分からないので、とりあえず近くのベンチで待っていようとしたその時。誰かに背中をつんつんと
すぐさま振り向くと──大きめの黄緑色のパーカーを着て、フードを目深に被り顔を隠している子がいた。
ミニスカートを穿いてるし、女の子だよね? ってことは。
「雫ちゃん?」
そう尋ねると少しだけフードが上がり『デス』という返事とともに、よく知るくりくりおめめが現れた。雫ちゃんは挨拶を済ませると、今すぐにでもこの場を離れたいのか。
「では、行きマショウ」
流れるように私の手を取り、早足で歩き出した。
どうしたんだろ。いつもより声が小さくて、なんか手汗もすごい。地元に友達を呼ぶのは初めてとか、何とかで緊張してるのかな。
「ねぇ、雫ちゃん」
「…………」
「雫ちゃーん」
名前を呼んでも返事がないので、右手で肩を軽くトントンと叩く。
「ほぇ、どうかシマシタカ?」
「コンビニ寄ってもいい?」
「コ、コンビニ、デスカ⁉︎ えと、ナ、何故?」
「お菓子とか、飲み物買おうと思って」
「
青ざめた顔でバツが悪そうな雫ちゃん。たかがコンビニに寄るだけなのに、どうしてそこまで嫌がるのかは分からない。
けれど、
「そっか。 なら、早く雫ちゃんの家行こっ!──」
駅から歩くこと十五分。新築かと思う程綺麗で庭付きの一戸建て、雫ちゃんの家に着いた。
「いらっしゃい」
初めて会った時の雫ちゃんを彷彿とさせる眩しい笑顔。玄関で出迎えてくれたのは、もちろん雫ちゃんのお母さん。彼女は女性にしてはやや身長が高く、銀色のロングストレートヘアーに瞳はキリッとしていて、鼻も高くカッコいい系の顔立ちをしていた。さらに、雫ちゃんと並べば同い年に見えてもおかしくない程若かった。
「いつも雫と仲良くしてくれてありがとうね」
「いえ、こちらこそ仲良くさせてもらってます。 これ、良かったら食べてください」
にっこり笑顔でお茶菓子の詰め合わせを渡すと、とても喜んでもらえた。
「あとでお茶と一緒に持っていくわね」
「マム、結構デスヨ。 自分で取りに来マスカラ。 さ、行きマショウ、
そのまま急かされるように玄関を後にして、二階の雫ちゃんの部屋へ。
「おぉ」
雫ちゃんの部屋は想像していたものとまるで違っていた。
場所を取るものは、ベッド、折りたたみ式のテーブル&ラグマット、テレビ・再生機器くらい。制服は壁にかけて、その他の生活必需品は小さめの棚・スチールラックとカラーボックス等を使って丁寧に収納してある。その整頓っぷりはお見事で部屋を広いと感じてしまう程だ。
てっきりアイドルのグッズやポスターがわんさかある部屋だと思っていたからびくっりしてしまった。一応、ベッドの上にアイドルの寝そべりぬいぐるみはあるけれども。それ以外は何も見当たらない。
と、思っていたその時。やけに自慢げな顔の雫ちゃんはクローゼットの前に立つと勢いよく
「ジャンジャジャーンッ‼︎‼︎」
「……おぉ」
その中は、まさに宝物庫。ぬいぐるみはもちろん、ちゃんと額縁に入ったポスター、ワイヤーネットやディスプレイケースで丁寧に飾られているストラップ・キーホルダー・缶バッジ。アイドル関連のBD・CDも小型の棚を活用してきちんと並べられており、他にもシャツや雑誌等、ありとあらゆるアイドルグッズが収められていた。
「すごいね。 これ」
整頓術もさることながら、アイドルへの愛がこれでもかと伝わってくる収集量だ。雫ちゃん曰く、おこづかいをやりくりしてどうしても欲しい物だけピックアップしているので将来的にはもっと増やしたいらしい。
特に、ライブのBDは中古じゃなくて新品を買いたいと。なんかすごい本気を感じた──。
「どれにシマスカ?」
「んー、そうだなぁ」
アイドルの歌やダンスを覚える為にMVを見ることはあるけど。ライブ映像はあまり見たことがないと言ったら、鑑賞会をすることになった。そして、リクエストを聞かれたものの、中々決められずに迷っている。
どれも魅力的だから雫ちゃんにおすすめを聞いて──ッ‼︎ あれは……。
つい手に取りそうになった。でも、ライブのBDじゃないからやめておいた。
「雫ちゃん的におすすめはどれ?」
「そうデスネ。 一番盛り上がれるのは『アクアスタイル』のサードライブでしょうカ」
「私も『Aqua style』好きだし、それにしよっか──」
飲み物やお菓子等、諸々の準備が整い、テレビの前へ座ったその時。隣でニコニコ顔をしている雫ちゃんにペンライトを手渡された。
「えっと。 これは?」
「もちろん振る為デス!」
「や、ペンライトがそういう物なのは分かるんだけど。 どうして今いるのかなぁって」
「ライブを観る時の必需品デスカラ!」
「へ、へぇ」
「安心してクダサイ! この広さがあれば振っても
立ち上がって元気よくペンライトを振り回す雫ちゃん。その姿はまさに熟練のアイドルオタクで、普段からは想像出来ないキレのある良い動きだった。
もしかして部屋がきちんと整理整頓されてるのってそういう理由なのかな……。
「家族にも今日は騒ぐかもと伝えてありマスカラ!」
「そっかぁ」
知らなかったな……ライブってBDで観る時も、ペンライト振るんだ……。
勉強になった。
──ペンライトを振り、全力で楽しむ雫ちゃん。その姿に頬が緩む。
「ラストのなっちゃんの独唱、めっちゃ良かったね! もうウルッてきちゃったよ〜」
「デス! このサプライズの為に頑張っていただいたと思うと……感謝感激デスッ‼︎」
「ね! それに
あの後、『Aqua style』の他にも『Coral☆Star』のライブBDを見て、その感想を言い合っていたその時。コン、コン、コンとノックが鳴り響いた。
雫ちゃんがドアを開けると、そこには……雫ちゃんがもう一人いたっ⁉︎⁉︎
って、そんな訳ないない。よく見たら雫ちゃんより背が低いし、髪型も長めのボブだし。もしかしなくても妹かな?
「マムが晩ご飯どうするって」
「
「分かった。 …………」
去り際、妹ちゃん(仮)がこちらをジーッと見つめてきたから会釈を返しておいたけれど。
「今の子って」
「妹の
「茜ちゃんって言うんだ。 雫ちゃんによく似てるね」
何だったんだろ。あの意味深というか、訴えかけてくるような
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