Prologue.

 ──大好きがパッと鮮やかに世界を描き換えていく。


 早朝の自室、まだスマホのアラームは鳴っていない。

「よしっ!」

 でも、すでにトレーニングウェアに着替え、諸々の身支度もバッチリ!

「いってきます」

 誰にも聞こえないような小さな声で挨拶をしてから玄関を出ると、夜にしては明るく、朝にしては暗い空が出迎えてくれた。それはまだどちらとも言えない中間の証。その中を全力で駆け抜ける。

「ビュゥゥゥンッ! ふふ」

 いつもよりご機嫌な風を感じる。

 胸の鼓動はドクン、ドクン、ダムダムと。いつもより元気。

 鎖から解き放たれたみたいに軽やかな足はついステップを踏んでしまう。タン、タン、クルッと。

 この間、眠れないからと走った時は水の中にいるみたいに体が重くて、息が苦しかったのに。今日はその真逆。

 行きたい場所がある。それを改めて自覚しただけで、こんなにも違うなんて──。



「おはようございます!」

 運動公園のランニングコースですれ違うお姉さんに、

「おはようございます!」

 おばあちゃんに、

「にひっ、おはよ!」

 ワンちゃんにも挨拶! みんな、いつもと変わらない。



 運動公園内の広場で練習動画を見ながらダンスレッスン。それは何か特別なことをしてる訳じゃないのに声が弾み、歌がリードしてくれてるみたいに身体が動いて、胸の奥から楽しいって気持ちが止めどなく溢れ出てくる。

「いぃ、よっしゃー!」

 思うがままに飛び跳ねた先には、ぱっちりと目を覚ました空が広がっていた。



 ──今はまだ私の中の大好きを見つめ直しただけ。

 自身のパフォーマンスで何を表現したいのかは分かっていない。でも、この大好きの先に私の表現したいもの、目指すアイドルがあるって信じてる。

 だから、もう立ち止まらない。迷いながら、戸惑いながらでも前へ進んでいく。大切なことを思い出させてくれた彼女と。雫ちゃんと一緒に。

 そして、いつかきっとあの輝くステージへ。



「……終わりデス、結々ユユさん……」



 あれ、あれぇ……⁇⁇ まだ。まだ何も始まってないのに……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る