Chapter 2.

初めまして。白陽高校一年、宇佐美結々です。私は小さい頃からアイドルが好きで。先日他校のアイドル部の存在を知り、その活動に感銘を受け、私も始めたいと思いました。まだ正式な部とは認められていませんが、ライブ・動画配信やSNSでの活動等を通して、認めてもらえるよう頑張っていくつもりです。よろしくお願いします。


「──こんな感じで大丈夫かな?」

 二人だけの放課後の教室。雫ちゃんに自己紹介動画用の原稿を見てもらったら、苦々しい顔で『堅過ぎマスッ!』と却下された。

「そう、かな? 部活動だし、これくらいがちょうどいいんじゃ」

少々ショーショーお待ちクダサイッ! 私が書きマスッ!」

「う、うん。 お願い」

 あれから先生を納得させる方法を雫ちゃんと話し合ったけど。やっぱりアイドル活動しか思いつかなかった。

 他の部活みたいに大会や順位を競う場があれば、そこで結果を出して認めてもらえたかもしれない。でも、残念ながらそういうものはない。

 だから、実際にアイドル活動を──学校のみんなの前でライブを披露して『私達が本気』だと示す。

 その為には、まず私達の存在を知ってもらう必要がある。そこでアイドル部|(非公認)のSNSアカウントを作り、自己紹介動画を上げることにした。

「みなさーん、初めまして、宇佐美結々ですっ! 好きなものは、もちろんア〜イドルっ! 幼い頃から素晴らしいアイドルに憧れ、この胸には収まりきらぬ激しく熱かりしアイドル愛がたーっぷりありますっ! これからそれをどんどん、どーんどん形にしていくので見逃さないでくださいねっ! ……これでいいのかな?」

 わざわざ原稿を書いてくれたから、言われた通りあざとかわいい感じで読み上げてみたけども。

「ハイ! 完璧デス!」

「えっと、なんか私のキャラに合ってない気がするんだけど」

「そんなコトありマセン! 寧ろ、この程度では結々ユユさんのあふれる可愛さを伝えきれてないくらいデス!」

「えーと。 ほ、ほら。 私って素朴というか。 つつましいタイプだから。 解釈違い……的な?」

大丈夫ダイジョブデス! 私のプロデュース力を信じてクダサイっ!」

「あー……ちょっと待っててね」

 このままでは雫ちゃんのいきお……熱量に押し切られてしまいそうだったので、冷静な第三者の意見を求めて菊花にメッセージを送ったら『一年、宇佐美結々、よろしく』と、想像以上にクールな案をくれた。

「はは。 はぁ……」

 アイドル部設立は思ってたより前途多難かもしれない──と、出だしこそ不安だったけど。最終的には他校のアイドル部の自己紹介動画を参考にして何とか無難な内容で撮れた。

 でも、

「ハァイ、オッケェデス」

 やや膨れた頬に不満げな瞳、さらに追い討ちをかけるようにテンションの低い声。聞くまでもなくカメラマンさんはちょっと納得してないみたいで……。

 ごめんねッ! 自慢のプロデュース力はまた別の機会に頼るから。




 翌日、雫ちゃんがPCで作成してくれたアイドル部の宣伝ミニポスターを掲示板に貼ってから動画をアップした。すると、午前中の間にフォロワーが十四人も出来た!

 まぁ、大半がクラスメイトでよく分からないアカウントがチラホラいて……何もかもが上手くいってる訳じゃないけど。それでも一歩前進したのは間違いない。

 次は、

『失礼しました』

 お昼休み。雫ちゃんと声を揃え、職員室を後にする。

「…………」

「…………」

 廊下に出てすぐ雫ちゃんと顔を見合わせるも、お互いに言葉が出てこない。でも、それは仕方ないのないこと。だって、あんなにも。あんなにも……簡単にライブの許可をもらえるだなんて思ってなかったから‼︎

「雫ちゃん」

結々ユユさん」

『やったぁ!』

 あまりの嬉しさにピッタリ声が重なる。

 まだ始めたばかりで信用される要素は何一つないのに。月末の日曜日、体育館でライブをする許可をもらえた。

 きっと、そこまで簡単に許可してくれたのは私達を諦めさせる為の思惑があるんだと思う。でも、例えそうだとしてもパフォーマンスを披露出来る場を用意してくれたのがただ嬉しかった。



 ──だけど、喜んでばかりいられない。



 放課後、雫ちゃんにライブで披露する曲をどうするのかと聞かれたので真っ直ぐ彼女の瞳を見て伝えた。神姫命の『Mirage Strike.』を歌う、と。

「ッ‼︎ でも、それは……」

 私の事情を知る雫ちゃんはとても不安そう。そんな彼女ににっこりと笑顔を向ける。

 その方が言葉よりも伝わると思うから。



 選んだ理由は、三つある。

 一つめは、ライブをするからにはやっぱり来てほしい。でも、私のような素人じゃ人を集めれる魅力はない。だから、流行かつ話題性のある曲で少しでも興味を引く。それが悪い意味合いを含んでいても。

 二つめは、一つめと重なることだけど。どんな事情があってもライブを観に来てくれた人には楽しんでもらいたい。その為には誰もが知る曲を披露するのが一番だと思う。

 そして、最後は──もう逃げないと決めたから。

 今度こそ彼女に応えてみせる。例え、それがあの日の幻影相手でも。



 *



 ライブの日までおよそ二週間。

 残された僅かな時間を使って、私がするべきことは──。



「じゃあ、行ってくるね」

 雫ちゃんには少しの間待っててもらい、学校の外周を走る。

 何の捻りもないけど、まずは身体を鍛える。

 別に、そこまで体力・筋力が落ちてる訳じゃない。でも、今の自分の身体が最善の状態じゃないのは確か。だから、身体を動かして少しでも三ヶ月近くのブランクを取り戻す。



「ふぅ。 どうだった?」

「ここの振り付けなのデスガ。 曲とズレてマス」

「わっ、ホントだ」

 中庭でのダンスレッスン。雫ちゃんに動画を撮影してもらい、自分のダンスを見返す。そんなシンプルなことでも、やっぱり一人でやる時よりも成果を得れた。

「それとこの立ち位置だと表情ヒョージョーが──っ! …………」

「どうかした?」

 突然、悲しそうな顔をして黙り込んだ雫ちゃん。すぐさま彼女の視線の先へ目をやると、あからさまに私達を見て笑っている女生徒達がいた。多分『目立ちたいだけ』とか、『夢見過ぎ』とか言ってるんだろうなぁ。

「やはり場所、変えマセンカ?」

「ううん、ここでいいよ」

「どうしてデス? ここだと結々ユユさんが、バカにされて、しまいマス」

「ありがとう、雫ちゃん」

 今にも泣き出しそうな彼女に、にっこり笑顔を向けて。

「でもね、ここがいいんだ。 私達はここにいるって、知ってもらえるから」

「……結々ユユさん……」

「それに先生達に努力してるアピールが出来るかもだし。 なんてね! じゃ、もう一回やるから撮影よろしく!」

「デスッ!」

 うん。

 やっぱり、雫ちゃんは笑顔が一番! 笑っていてほしいな──。

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