side.雫
・side.雫
「雫はどうだった?」
私も
あの時から私も、
*
ともにアイドル活動をしようと
寧ろ、追いつく為なら何だってする。近道のない、気が遠くなる程の長い道のりだって構いませんでした。
『お疲れ様』
練習が終わる度に、その言葉を聞けて嬉しかった。
いつもそう思っていました。
──私にとって
だから、
過去のトラウマ。
あの時、ただ
きっと
『Be brave.』
あの言葉は
会って話をしよう。ちゃんと本人の口から気持ちを聞く。そして、私も言いたいコトを言う。それで私達の関係は終わり。
そう思っていたのに、
『あの時は、ごめん雫。 ごめ゛ん、うぅ、ごめ゛ん゛な゛ざぁ゛い゛ぃっ!』
号泣して謝る
『バカ。 今回だけデスカラネ』
『……え……。 じゃ、じゃあ』
『別に、許した訳ではありマセン。 ただもう一度友達になってみようと思っただけで。 それを忘れるなデス!』
その物言いに対して
──私の中でどんどん
『一緒に見ようよ! あのステージから見えるきらきらを!』
未熟な私が
そんな不安は
だって、私は
『ねぇ、君はどうしてステージに立つんだい? 結々と』
突然Shion様にそう尋ねられて、咄嗟に口にしたのは仲間だから。
仲間とともにステージに立ち、一緒に歌う。一緒に踊る。
それはとても素晴らしいコト。
けれど、
『
フェスの開催が迫り、詳細が発表されてほんの少しだけ怖くなりました。
大好きな
当然デス。
『あの、
『ん、何?』
なのに、私が参加して。
絶対に負けられないのに。本当に、私がいても。
『今日も部活、頑張りマショー!』
分からない。
だけど、今は誘ってくれた
分からなくたって。頑張って、前へ進むしかない。
『心配かけてごめんね。 ちょっと体調崩してて。 でも、大丈夫。 病気とかじゃないから』
授業中の居眠りと嘘。きっと
だから、私も。もっと頑張る。
雨が降っていようと走って、走って、走って、少しでも
そうじゃないと。
[隣の子いるの?]
動画へのコメントに傷つかなかった訳じゃない。でも、それは事実だから受け入れられました。下手な私が悪いと。
[別にどっちもいらないよ] [素人がちょっとバズって勘違いしてしまった結果がこれ] [この子、普通に痛々しいよね] [これホントに大丈夫? 今から当日が心配] [ハッキリ言って最悪 ここで現実を突きつけてあげるのがせめてもの優しさ]
けど、どうして。どうして私が下手なだけなのに、
私さえいなければ……?
現実を見て。
なら、どうして
何の為に? 誘ってくれたのは何故?
未熟な私が
恐らくそれは同好会の仲間だから。
『あ、ぁ……う……──わぁあああ゛あ゛ッ』
あの日の問い、Shion様の真意に気づいた時にはもう手遅れで。いくら涙を流したところで時間は巻き戻せない。
だから、せめて。
『私は……フェスには出ないデス』
これでいい。今は悲しくても、きっとこうして良かったと思える日が来るはずデス。
これから先、
いつも通り。平静を装って過ごす。
例え、放課後に『また、明日』と言って別れるのが、どんなにつらくても、悲しくても。
考えない。そう思っても家にいると
ふとした瞬間に
それが
なのに、
*
「──楽しくなかったデス」
嘘をついて傷つけても、これが原因で嫌われたとしても、こうするコトが正しい。
だから、私を切り捨ててクダサイ。
「雫」
唇を噛みしめ、覚悟を決める。
これが正しい、と自分に言い聞かせる。
どんな罵詈雑言も受け止めて、必ずや
「ありがとう」
「なっ。 何故、お礼を……?」
「雫が何を考えてそう言ったのかまでは分からないけれど。 私の為に言ってくれたのは分かるよ。 だから、ありがとう」
「……なんで……」
ズルい、デス。
そんな風に言われたら。そんな優しい笑顔を向けられたら。
「雫はどんな風に歌いたい?」
「え」
「ダンスはどう表現したい? どんなライブにしたい?」
「何、言って」
「私はもう間違えない。 もう独りよがりにならない。 今度はちゃんと話し合って私たちのライブをしようよ。 そうすれば、きっと」
トクン、と。
そんな瞳で見られたら、諦められなくなって。また
それだけは、絶対に。
「だ、ダメデスッ‼︎
「本当に"そうかな"」
「あ」
思わず間の抜けた声が出た。
何故なら、それは私たちの大好きなアイドルアニメの"主人公"──"皆の想いを結ぶ
「私は雫が誰よりも、何よりもアイドルが大好きだって知ってる。 つらくてもたくさん努力する雫を見てきた。 だから、分かるよ。 私たちが心を通じ合わせれば最高のライブが出来るって」
膝の上に乗せた手を握りしめ、悔しさに似た気持ちを何とか抑える。そして、不用意に傷つけないよう慎重に言葉を選んで『それでもデス』と言い放つ。
本当はニコッと微笑んでくれた
「またとない
いくら
「分かった。 残念だけど。 雫がそこまで言うなら、もう無理強いはしない。 私一人で出るよ」
あれ。
自分に失望して、自ら『フェスに出ない』と言っておきながら。
──それでいいのデスカ?
まだ時間はありマス。
諦めるには早いのでは。
……今さら迷うなんて。悲しいくらい意志が弱いデスネ。
「って、感じで。 どうしてもダメな時は諦めるつもりだった」
「へ」
「ごめんね。 こういう言い方はズルいし、また雫を傷つけるかもしれないって分かってるんだけど。 やっぱり、諦められないよ。 私、どうしても雫と一緒にステージに立ちたい。 今は実力がなくたって、私達なら絶対に乗り越えられるよ」
「どうしてデスカ。 どうして、こんな私と一緒に。 どうして、こんな私に……そこまで言ってくれるのデスカ」
「そんなの決まってるよ。 私は、雫も【大好き】だからだよ」
私、も。その大好きの意味は──。
「ぁ、ぁぁ」
今、私はどんな顔をしているのだろう。
どこか遠くを見つめるように。目を丸くして。ポカンと口を開けて。鼻も頬も真っ赤にして、ポロポロと大粒の涙を流しているのデショウカ。
「ッ‼︎ ゔぅっ」
「私は……
「うん」
「……楽しく……たの、しく……ぅ…………」
「うん、やろう。 楽しく」
「……デス……」
ポツン、と一粒の涙が私の肩へ。それは言うまでもなく嬉し涙、
この温もりは忘れない。これから先、ずっと。ずっと。
この気持ちを信じて、
すみません、
ありがとうございマス。こんな私を見捨てず、信じてくれて。
もう二度と諦めない。もう二度と離れない。約束デス。
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