第12話 別れ、そして出会いへ

 幽閉は翌日一日中、深夜まで続いた。

 ドアが開かれたときは、ふたりとも飲まず食わずでぐったりしており、動きは鈍かった。


 姿を見せたのはルークで、もたついたエステルの隙をついてアベルの腕をひっつかみ、引きずるように部屋の外に連れ出した。

 エステルが追いかけるも、武装した兵たちに阻まれ、アベルのもとまでたどり着くことはかなわず。

 結局、これが少年のアベルとの別れとなった。あまりにもあっけなく。


 もはや人質としての価値がないと判断されたアベルは、エステルと顔を合わせることもなく国へと送り帰されたのだ。

 出立の前にルークと何か話し合っていたと、ひとからは伝え聞くものの、エステルの能力をもってしても心を失ったルークの内心を知ることはできず。二人の間で交わされた会話はわからず仕舞いだった。


 戦争は、そこから十年以上の年月、続いた。


 敵国シュトレームの軍将にアベルの名が現れたのは彼が十歳のとき。以降アベルは将としてバルテルスの軍と交戦を繰り返しつつ――やがて、王の退位に伴い、シュトレーム王として即位した。兄王子たちはすべて戦場で命を落としていた。

 即位当時、アベルは弱冠十六歳。


 シュトレームの新王「冷徹王」が立ってから、戦況は移り変わる。

 中立国にて積極的に会談の場が設けられるようになった。そこから約二年かけて、平和的な終戦へ向けて断続的に話し合いがなされた。

 その終幕。

 バルテルスはシュトレーム側から政略結婚の提案を受ける。


 バルテルスの未婚の王女エステルを、アベル王の王妃として迎えたい、と。



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