第3話 王女としての振る舞い
「姫様、何も姫様がそのようなことをしなくても」
侍女の制服を借ります、と言い出したエステルに対して、侍女長は当然の如く苦い顔で反対した。
エステルは、「いいえ、これは私がやるべきことです」と真っ向から反論し、譲らない。
「アベル殿下は、王族としての教育は受けているとは思いますが、年齢的にはまだまだこどもです。王女である私が『王族同士親交を深めましょう』と招待状を送り、お茶会に招いてもお困りになるだけかと思います。それよりも、ひとまず新しいお世話係として状況を見てきます」
「子どもといえど、他国の王子です。姫様は節度ある態度で接していただかなくては」
「それは、相手が衣食住事足りて、なんの憂いもなく大人並に会話ができる子どもの場合にはじめて言えることでは? 今のアベル王子は、生存が脅かされている状態なのではありませんか。私は、王女と王子ではなく、大人と子どもとして接するべきだと考えています」
すでに老齢に達し、引退も間近の侍女長と、エステルは真っ向からにらみ合う。
翠の瞳に強い意志を込めて、今一度、周囲の者に聞かせる意味でも毅然として言い放った。
「健康を損ない、命を落としてからでは遅いのです。国同士の状況、大人の思惑、王族としての振る舞い。私自身は十六歳です、何もわからない子どもではありません。それでもこの国の王女として言います。
エステルがここまで来る道すがら聞き集めた話を総合すると、アベルは本当に着の身着のまま部屋に立てこもってしまっているらしい。侍女や侍従が近づこうものなら、暴れて椅子を蹴倒したり、大声を出して逃げ回ったり、カーテンの影に入り込んで出て来ないという。
目を合わせて「心の声」を聞いても、得られた情報に相違はなく、アベルの現状がかなり逼迫したものであるのは知れた。
(殿下は、「毒見をしていないものは食べられない」「気を許せない相手の前で服を脱いで無防備な姿を晒すなどとんでもない」と主張されているそうですが、言い分はわかります。アベル殿下の従者は間者として王宮内で動き回られる恐れがある、と全員シュトレームに送り返されてしまっているということですし……。孤立無援だなんて、どれほど気が強くても内心はとても落ち込んでらっしゃるのでは)
エステルの決意が固く、絶対にアベルの元へ行くという意見を翻さないのを見て取ると、侍女長は「陛下に報告は上げますよ」と言って、折れた。
これ幸いとエステルは侍女の制服に袖を通し、厨房に下りるとバスケットに果物や焼き菓子をいっぱいに詰めてアベルの元へと向かった。
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