各々の実力——リベルvsランダ、リエン、アリス——







 傍観しているダルフが役に立たない為、一人リベルを説得していたセシルは、なんとかリベルの説得に成功していた






 『それじゃあ素手で相手をしてあげよう!かかって来い!』

  




 (ハァー…。何とか納得してもらえたようね)






 ダルフに感心されていたセシルだが、手加減すると言っていたリベルがディーンに斬りかかろうとした時は、心臓が止まるほど驚いていた





 

 (……もしかしてリベル。殺さなきゃ手加減——とか考えてるわけじゃないわよね?)






 不意に頭に浮かんだ恐ろしい考えを、セシルは否定するように振り払った


 そんな事信じられないし、信じたくもなかった






 「そ、それじゃあ次やりたい人はいる?」

 




 (正直いなくていいんだけど……)





 「学園長!!私がこの者に、力の差を見せてやります!」






 先程まで食ってかかっていたメイナードが、リベルに視線を向けてそう言った


 リベルの力を見ても怒り――不満は収まらなかったようだ






 『さっき文句を言ってきた奴だね。フフッ、それなら是非力の差ってものを見せてみなよ』






 リベルはメイナードを見据えて腕を組んでいるが、挑発されて黙っていられなかったメイナードは間合いをとってリベルと向かい合うような形に移動した



 既にリベルが貴族ではないと見抜いていたメイナードは、リベルのことを所詮平民だと見下していたのだ


 




 「貴様!!平民の分際で、貴族である私を侮辱するのか!?」




 『え??君貴族なの?』




 「そうだ!わかったなら――」




 

 『前色々あったから、俺貴族のこと知ってるよ。なんかもう、貴族って言うより【奇族】だよね!

アハハハッ、君はかわいそうな一族なんだね〜』





 

 喋るメイナードを遮って、リベルがバカにするようなことを言い放った


 


   

   

 (リベル……それはちょっと……)





 「「ブフッ、フフフフ」」





  

 リベルの言葉を聞いていた生徒達の反応は様々だったが、ランダ、アリス、リエンが笑いを堪えきれずに吹き出してしまった


 

 そしてその様子を見たメイナードは、怒りと屈辱で顔がみるみる赤くなっていく





 

 「き、貴様!!この私を侮辱しているのか!?」



 

 『バカになんてしてないよ。ただ俺は憐れんでいるだけだよ。あぁ、本当かわいそうに!』



 

 

 「貴様ーー!!」






 オーバーリアクションで挑発しているリベルに、メイナードは振り回されてしまっている



 怒りに満ちた目で睨みつけているが、リベルは全く気にせず続けている



 目の前の目も当てられない光景に、セシルは頭が痛くなる想いだった


 




 (メイナードは平民を見下す所があるからリベルに突っかかるだろうとは思っていたけど……ハァー)






 「どうせ貴様なんて、さっきの素晴らしい剣のおかげで勝てただけだろ!武器のおかげで強いだけの平民風情が!!……だがまぁ、さっきの剣を差し出すならば許してやろう。平民風情には出来過ぎた武器だったからな」




  

 『……はぁ?またそれ??』




 「ッ!!メイナード!」


 




 冒険者ギルドでの事を聞いていたセシルは、メイナードの言葉を即座に止めにかかる



  



 『いいよ、セシルさん。……おいお前、もし俺に勝てたらさっきの剣をやるよ。かかって来い』






 が、うんざりだという様子のリベルに止められてしまった



 セシルが止めようとした事でダルフも思い出したように現在の状況のまずさに気付き、顔が強張こわばっている






 (ちょ、ちょっと。これ本当に大丈夫よね!?

アルフレッドが言ってた感じとは違う気がするし……リベルも素手だから、そこまで酷いことにはならないはず……よね?……どうしたら——)


 





 「平民風情が舐めるなよ!!私の技をくら――」




 『はいドーーン』



 「グハッ!!」



 「「!!」」

 



 


 セシルがどうしようか迷っていると、メイナードがいきなり技を繰り出そうとした


 だが一瞬で近づいたリベルに蹴飛ばされてしまい、技を出す前に吹き飛ばされてしまう



 それはセシルとダルフが驚いて固まり、止めることも出来ない間の一瞬の出来事だった



 

 蹴飛ばされたメイナードは吹き飛んで壁に直撃し、倒れている


 ダルフが駆け寄って行くが、激突した衝撃で既に意識は途絶えていた






 

 『あ〜ゴメンゴメン。遅すぎて蹴飛ばしちゃったよ。技の邪魔しちゃったかな?——って、もう聞いてないか』


 



  

 (……まぁ、生きてたのを喜びましょう)





 

 『そういえばさー。この国来てからよく武器、武器って言われるんだけど……なんかみんな勘違いしてないかな?武器は使われる物じゃなくて使う物だよ?みんなが凄いって思う武器を使ってる俺が……弱いわけないでしょ』







 

 気絶しているメイナード以外のみんなが、リベルの言葉に耳を傾けていた


 先程まで笑っていた者も、蹴飛ばされたメイナードを見て真剣な眼差しになっている



 セシルやダルフは見えていたが、Sクラスの生徒には動いているリベルをハッキリ見えた者などいなかった





 

 『そう言うことだから全員でかかって来なよ。

誰かが俺に一撃でも当てられたら勝ちでいいからさ!まさか……最初あんな事言ってたのにビビってないよね?』





 

 「……そこまで言われちゃあ、やらないわけにはいかないな」

 


 「……そうね。それに確かに強いみたいだけど、素手で一撃も受けないなんて傲慢なんじゃない?」


 

 「随分私達のこと舐めてるみたいね。私達だってSクラスなんだから」


   

 

 既に全員リベルが強いと理解していたが、それはあくまでランダ達目線での強さしか測れていなかった



 その為まだ全然勝てると思ったランダ達は、リベルの言葉に反応して戦闘準備を整えている


 それに自分達が言い出した反面、何もせず引き下がるというのはプライドが許さなかったのだ




 


 「学園長……大丈夫ですか?これ……」


 

 「……危ないと思ったらすぐ止めましょう」





 

 メイナードを運んで来たダルフが心配しているが、セシルも自信を持って頷けなかった


 そんなセシルの心情を察したのか、ダルフも苦い顔で引き下がっている



 二人が心配そうに眺めていると、ランダ達と向かい合っていたリベルがセシルに呼びかけてくる





 

 『セシルさん!!開始の合図お願い!』

 



 「……分かったわ。それじゃあ――始め!」

 





  

 セシルの合図と同時にランダ、アリス、リエンがリベルに挑んでいった

 


 ランダがリベルと拳で打ち合い、アリスとリエンが離れて魔法を撃っている



 三人で協力して一撃を入れようという構えだったが、それをしばらく続けても、リベルには全く当たる気配が無かった




 


 「クソッ!!どうなってんだ。おい!お前らちゃんと魔法当てろよ!」



  

 「うるさいわね、やってるわよ!」




 「ランダももう少し抑え込んで!」





 (もう少し勝負になると思ったんだけど……まぁ、しょうがないわよね)


 


 ランダが文句を言うが、アリスとリエンに言い返される



 リベルの先程の動きを見ての対策だった訳だが、リベルには全く通用していなかった



 正直セシルは、素手のリベルに一撃と言う条件ならもう少し勝負になると思っていた


 しかし先程のリベルの言葉――武器は使う物だと言う言葉に、セシルは認識を改める。セシル自身も、リベルの武器の方にばかり注目してしまっていたのだ




 それに戦いがここまで続いているのも、リベルが様子を見ながら受けに徹していたからだった


 リベルは全員の力を見ようと――採点しようとしていたのだ



 そんなリベルは現在、ランダの攻撃を捌きながら――ふーん。身体と拳を強化しながら戦ってるのか。威力はまぁまぁだけど手数が少ないし、当たらなきゃ意味ないよね――と考えている程の余裕であった


 

 アリスとリエンの攻撃も威力がなく、リベルはSクラスと言ってもこの程度か——と思っていたが、もしかしたランダがいるからかもしれないと状況を見抜いた

 


 そして正確にアリス達の配慮を見抜いたリベルは、同時にランダへの興味を失う

 



 

 

 『君はもういいや、終わりにしよっか』


 


 「クソ、舐めやがって……こうなったら俺が一撃をお見舞いしてやる!」






 リベルの舐めた様な言葉に、ランダは二人に頼らず自分でリベルを倒そうと思い、拳を構える



 


 「くらえ!――[裂破豪拳れっぱごうけん]」





 低級のゴーレムなら一撃で砕ける程力強く放たれた拳により、訓練場に衝撃音が駆け巡った



 が、結果はランダの望むものではなく、リベルはその拳を片手で受け止めていた


 

 



 「!!なんだと!?」



 

 『今のは中々よかったよ。速い突きで威力もあったね。しかーし!その程度の速さと威力は常に繰り出せないと先はない!不合格だ!!』






 掴まれた手を引き離そうとしていたランダだが、リベルに強く掴まれていてそれは叶わなかった


 

 必死に腕を引き離そうとしているランダに、

リベルが言葉が言い終わると同時に拳を放つ






 「グハッ!!」





 

 拳がランダの腹に深くメリ込み、その衝撃で飛ばされたランダは立ち上がることが出来ず、痛さの余り倒れ込んでしまった



 だがこの程度で済んだのは、セシルがランダに

魔法を掛け、吹き飛ばされた衝撃を抑えたからだ


 メイナードのようにならない為に、セシルも密かに頑張っていたのだ





 

 『さぁ、次はどっちがくる?』




 「ランダ!?クッ、その上から言ってる感じが

気に食わないわ!――[突風とっぷうの矢]」





 

 リエンの弓矢から放った矢に、風魔法を上乗せした速い攻撃がリベルに向かう


 木を貫けるようなその矢は、ランダがいなくなったことで先程よりも威力のある攻撃だったが、リベルは避けようとせずに立っている




 



 「これで私の勝ちよ!——って、え!?」




 『突風とっぷうの矢?名前間違ってない??これじゃあまだ微風そよかぜの矢だね。不合格』






 

 当たると確信したリエンが声を上げるが、胸に向けられたその攻撃を、リベルは易々と掴んでいた


 


 

 「は、はぁ!?なんで私の矢をそんな――」


 

 「リエン!!離れて!」



 「!!」



 『ん?』





 驚いていたリエンだが、アリスの意図を察して

素早くその場を離れる


 

 リエンが戦ってる間魔力を溜めていたアリスは、メラメラ燃えて宙に浮かぶ大きな火球を、棒立ちしているリベルに向けて放った




 


 

 「[火の球ファイヤーボール]!!」



 

 『あれ??なんかさっきより大きくない?』




 「当然よ!!ランダとリエンが戦ってる間に魔力を沢山込めたんだから!これで終わりにしてあげるわ!」






 魔法は魔力を込めれば大きくなるが、時間がかかる。そのため冒険者のパーティーでは、魔術師は後衛を任されることが多い



 アリスはランダがやられた時点で魔法を撃つのを止め、魔力を込めるという判断をしたのだ


 その瞬時の判断は流石Sクラスと言うもので、

先程ゴーレムを倒した時より十倍程大きな火球がリベルに迫っている



 しかし、リベルの心に焦りは微塵もない



 リベルは攻撃を向けられて尚、いつもなら武器で斬る場面をどうするか考えていただけだった


 そして今使えるのは自分の身体だけ


 結論は迷いもせずに導き出された


 




 『おい、拳で戦う奴!俺が本物の突きを見せてあげるから、ちゃんと見てたら?』




 「うぅ…… な、なんだと?」



 


 腹を抱えていたランダが、リベルに言われて起き上がった



 セシルやダルフも、リベルが何をする気なのか予想がつき、黙って見つめている






 『——ッ、ハ!!』





 

 拳を握りしめて構えたリベルが、勢いよく放った


 その力強く突き出された拳が起こした風圧がファイヤーボールを消し飛ばし、ランダのものとは比べ物にならない程の衝撃と風圧が、訓練場にいる皆を襲った






 『ハァーッハッハッハッ!見たか、今のが突きというものだ!それにしても、今の魔法は中々だったよ?まぁ不合格だけどね!』

 

 

 

 「今のがただの突きだと……ス、スゲェ威力だ!!まるで【】のようじゃねぇか!!」




 「なによそれ!?反則よ!!それに何が不合格なのよ!」






 【拳聖】――五人いるSSランクの一人だ


 ランダは昔見た【拳聖】に憧れていた為、リベルの突きを見て興奮していた。拳から繰り出される凄まじい攻撃で魔物を殲滅する【拳聖】を、ランダは一度だけ見たことがあったのだ




 一方アリスは自分の魔法が呆気なく消し飛ばされたことに驚き、文句を言っている



 納得出来ないアリスに、リベルは言い放つ——






『簡単だよ。俺にとって一撃になるかどうかが、合格の基準だよ』

 



 

 「はぁ!?どう言うことよ!?」




 『つまり!!さっきの君達の攻撃は、もし俺に当たったとしても全然効かないと言うことさ!ハァーッハッハッ』




 「は、はぁーー!?」

 

 

 


 リベルの選考基準は、極めて単純であった


 つまり言葉通り、ディーンやランダ、リエン、アリスの攻撃は、当たったとしても、リベルにとっては一撃になり得なかったのだ

 


 もし本気になったリベルなら、何回受けても平然と立っていられただろう


 しかし本人が強すぎる故に、アリス達で無くとも合格は凄く困難なものだった





 何故ならリベルはこの世界に来て、一度も本気を出していないのだから……






  

 『それで――そこの二人はやらないの?』




 

 そう言ったリベルの視線が、セシル達と観戦しているソフィアとマグナに向かった——





 


 

 

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