特別指定推薦





  


 騒動があった翌日——



 レインはアーグとアルフレッドと共に、ギルドの綺麗な客室にいた


その部屋は例え上客が来ても大丈夫な程の装飾で、大きなソファー型の椅子とテーブルが並べられている


 レインはアーグの斜め後ろから、二人の前に座り、テーブルに出されている料理を貪っていたリベルに目を向けていた






 『アハハハ。いやー、ついさっき目覚めてさ!

少し遅れたかな?――あっ、これおいしい』



 「そうか、リベル君の口に合ったみたいで良かったよ。それは腕利きの料理人に作ってもらったものだからね」

 




 美味しそうに食べているリベルは、昨日の事が嘘だと思う程の様子だった


そんな様子に昨日のことが夢では無いかと思ってしまうレインだが、今ここにこうして集まっていることにより、夢では無いと証明されていた


 アルフレッドの言葉でレインは、遅れて来たリベルの為に、料理を冷ますまいと頑張っていた料理人の姿を思い出す



 リベルは言葉通り、寝坊をしていたのだ





 

 (アルフレッドさんまでいるなんて……一体何の話をするのだろう)

 




 

 話をするからと連れて来られたレインだが、何の話をするかまでは聞かされていなかった


 少年であるリベルを前に座るメンツに、多少なりとも驚いていた


 しかしレインには、昨日の報告の方が更に驚きだった


 戦闘が終わって帰って来たアルフレッドが、リベルに負けた——と、ハッキリ言い放ったのだ


 これには聞いていたギルド職員全員が信じられず、目を見開き驚愕していた


 Sランク以上の者というのは、その称号だけで英雄のような存在だったのだ。そのSランクが少年に負けたなど、皆にはとても信じられない話だった


 だがアーグに肩を担がれて疲れた様子のアルフレッドが、その話の信憑性を高めていた


 これからギルドで、リベルと誰かを揉めさせるなと徹底されたのは、リベルには内緒の話であった


 




 『それで話って何?ご飯食べ終わったら帰ると思うよ?』



 

 「あぁ。まずアルフレッドより先に、俺から話す」




 

 

 モグモグ食べながら話すリベルに、アーグが話を切り出そうとした


 が、リベルは少し顔を歪めてアーグを一瞥する






 『え??アルフレッドさんからだけじゃないの?俺この人のこと好きじゃないんだよねー。この人嘘つきだし』



 「それに関しては、本当にすまなかった」





  

 そう言って頭を下げているアーグ


 レインは目の前の光景に驚くが、その理由については事前に聞いていた


 昨日の二次試験があると言った嘘が、何故だかリベルに見抜かれていたとアーグが言っていたのだ



 リベルが遅れていた間、彼には取り繕ったりせず、嘘をつかないで接した方がいいだろう――と、アルフレッドとアーグが二人で話していたのを、レインは聞いていた




 

 

 「リベル君、それについては私からも謝るよ。

アーグもFランクにして置けないような者が来たから、実力を確かめなければいけなかったんだ。

それにこの料理もアーグが手配してくれたんだよ?どうか許してもらえないだろうか」




 『ふーん…………いいよ。多分次はないからね』




 「あぁ、約束する」






 フォークを咥えながらアーグを見つめるリベル。嘘が判別出来るリベルからすると、嘘をつかれる事は決して気分の良いものではないのだ


何故嘘などを吐くのかも分からないリベルは、嘘を吐く者が自分に良くない事を思っているのだと判断し、嫌悪していた



 そんなリベルの金色の瞳で見つめられ、少し緊張していたアーグだが、アルフレッドの口添えもあり何とか許してもらえたようだ



 アーグは安心して息を吐き、話を続ける




 最初の話は、リベルをSランクに昇級したいという話だった


 登録して一日でSランクに昇級するという話に、レインは凄く驚いた。超スピード出世というものだろう

  


 他の者は妬んで文句を言うかもしれないが、アルフレッドに勝つリベルをSランクにしたいと言うアーグの意見も最もだったので、レインは納得している





 『Sランクになるとどうなるの?』


 

 「まずある程度優遇されるな。それに依頼の報酬も上がり、Aランクダンジョンまで一応入れるようになる」



 『ふーん、それならSランクになってもいいよ。フフッ、Sランク……ちょっとカッコいい響きだね!』


 

 「だがその代わり、国に危険が迫った時招集されたりするが――」


 

 『無理。それは俺の気分次第だね、アハハハ!』




 (気分次第……)




 高笑いしたリベルは、デザートを食べながら笑顔で否定していた


 だがレインはこんな様子の人達に心当たりがあり、アーグもアルフレッドもこれには苦笑いだった





 「まぁ……Sランク以上の奴らはみんな勝手だからな。呼ばれて全員が揃う訳じゃないし……まぁ、それは大丈夫だろう」





 

 Sランク以上の者達は基本、皆好きなように動いていた。莫大な富を得る者、気ままに放浪する者、更に己を高める者など、他にもそれぞれが自由に過ごしている


 SSランクの者ともなれば更に我が強く、招集に応じたことなど片手で数える程しかなかったのだ



 そういう所だけ見るとリベルも似ているかもしれない——などと思っていたレインである





 

 「そして二つ目の話は、リベルの持つオーガやゴブリンの死体を売ってもらえないかってことだ。

外傷も綺麗で、アイテムボックスがあるから状態もいい。そこらより高く買い取るから、どうだ?」



 『いいよ〜』


 

 「なら後で倉庫に死体を出していってくれ。報酬はお詫びと昇級祝いも含めて、ここにある金貨五十枚でどうだ?」




 

 アーグはテーブルに、ドッサリ硬貨の入った袋を置いた


 リベルはその袋を掴み上げ、マジマジと金貨を見ていた





 

 『金貨……ならこれで美味しいものいっぱい食べれる?』




 (食べ物って……)

 



 「あ、あぁ。食い物なら何でも食えるだろうな」



 

 『ふーん。……あ、そうだ。カレンさんの所に行こうかな。もう行っていい?』





  

 レインは金貨という大金を貰い、食べ物に興味が行ったリベルに苦笑いする。欲がないのかと思うと、最初話したリベルらしいと思い、微笑ましくなった


 だがそんなレインを他所に、既に料理を食べ終えていたリベルは、今にも帰りたそうだった


 リベルは早くカレンの所に行きたかったのだ




 


 「それじゃあアーグの話も終わったみたいだし、私からも一つ話があるんだ」



 『何?』




 アーグの話が終わり、今度はアルフレッドがリベルに話しかけた


 リベルの視線がアーグからアルフレッドに向かう



 一方レインも、アルフレッドの話というものには興味があった。アルフレッドがギルドまで来て、

アーグ以外の者に話など、普段はないことだった

  





 (アルフレッドさんの話……なんだろう)



 

 「リベル君、君にで学園に入学してほしいんだ」


 

 「!?」



 

 (特別指定推薦!?)




  

 アルフレッドの言葉に、レインは驚く。まるで言葉にならない声が出てしまったようだった


 しかしそれはアーグも同じで、隣に座るアルフレッドに、本気で言ってるのか!?とでも言うような目を向けていた

 


  



 「どうだろう」

  


 『え??特別指定推薦って何?』




(特別指定推薦…………それって確か……)


 




 ——この国には三種類の学園が存在する



 平民、一般の子供達が通う学園



 貴族の子供達が通う学園

   


 そして、身分に関係なく試験で優れている者が入れる学園だ


  

 現役のSランク冒険者二人が代表を務める、歴史に古くない学園




 それが『剣魔総合学園』だった




 レイン自身詳しくは知らなかったが、特別指定推薦とは王族などに出される、異例のようなものだと認識していた


 それが目の前でリベルに出されたことによって驚いていたのだ





 「そうだよ。これは身分や実力など、な者にしか出されない推薦だ。まぁ、今までは王族にしか出されていないんだけどね。実力で出されたのはリベル君が初めてだよ」






 レインがリベルに目を向けると、リベルは何やら考え込んでいる様子だった

 




 「それに毎日学園に通わなくても構わないよ?

Sランクなら冒険者の依頼を受けたり、ダンジョン攻略をしたい時もあるだろうからね。リベル君の気が向いた時に来る感じで良いい。どうだい?」





 『……学園って何するの?』




 

 だがリベルが悩んでいたのは、そもそもという場所が何をするのか分からなかったからだ。今まで普通の人とは違う人生を歩んでいたリベルは、学園という存在に触れて来なかった





 「知らないのかい?……学園は歳の近い者達と一緒に学び合い、競い合う場所だよ。それに、上のクラスでは授業でダンジョンに潜ったりもするしね」




 『……なんか楽しそう』





 レインがハッキリと分かるほど、リベルは興味を示している様子だった。そして上を見て、また何かを考え始める




 

 「どうだい?」




 『んーー……そうだね。自由なら入ってみようかな』





 リベルは椅子に寄りかかり、腕を組みながら承認した


 すると答えに満足したアルフレッドがポケットから何かを取り出し、テーブルに置く






 「それは良かった。ではこれを受け取ってくれ」



 『??なにこれ』


 

 「それは登録した相手と通信ができる魔法具なんだ。もう私とアーグは登録しているから、それでいつでも私達と連絡を取り合える。準備が出来たら私から連絡をしよう」


 

 

 『ふーん……オッケー。それじゃあ帰ろうかな』






 アルフレッドが差し出した魔法具の説明をした。マジマジと魔法具を見つめていたリベルだが聞き終えると、まるで興味を失った様に立ち上がった



 だがそんなリベルに、アルフレッドが声をかける






 

 「一つ気になったんだが……あのゴブリンも昨日の剣か籠手でやったのかい?」



 『いや??ゴブリンの時は囲まれてたから、

鎌で倒したけど?』






 アルフレッドとアーグの予想が、当たっていたと思うレイン 

 


 実はリベルが来る前、二人はリベルの素晴らしい武器についても話していたのだ


 そして途中で二人はある疑問を浮かべた


 それは、もしかしたら他にも武器があるのではないか――という疑問だった




 剣を使うのならば剣を持つのが当然だ。しかしリベルは剣と全く違う種類の武器を出してみせた


 ならばひょっとして、他の武器も所持しているのではないか?というのが二人が出した予想だった。そんなバカなと思っていたレインも、現在当たっていた事を思い知らされる






 「鎌か……どうやらリベル君は、武器を複数持っているようだね」



 

 『え??だって一つの武器しか使わないなんてつまらなくない?』





 (つまらないって……命が懸かってる戦いなのに)




 「フフッ、つまらないか。……昨日の私に勝った籠手は、君の中でどのくらいの武器なんだい?」





 レインがリベルの言葉に理解できないでいると、アルフレッドがそんな事を質問した  


 レインもそれは気になり、興味を含んだ三人の視線がリベルに向けられる




 すると、リベルは武器は他にもいくつか種類があること。気分と相手によって武器を変えること。

強さは大体全部同じだが、敵を殲滅する事に関して最強なのは他の二つだと言うことを、全く隠す様子もなく三人に教えてくれた


 

 しかし話を聞いていた三人は驚きを隠せなかった



 リベルの言う事全てに驚いたが、アルフレッドに勝利した武器より断然上の武器がある——ということが信じられなかったのだ





 「……そうか。どうやら、昨日は気を使ってもらったようだね。それでは長々と引き止めてすまなかった」




 『うん、またねー』






 そう言ってリベルは手を振りながら部屋から出ていった



 リベルが出ていった後、部屋の中は少しの間静寂に包まれていた






 「……アルフレッド、リベルの事をどう思う?」



 「……彼はまだまだ力を隠していそうだ。

……いや、恐らく出していないだけなんだろう。

そもそも、あんな武器を持っている本人が弱いはずないだろう?」



 「……そうだな」






 (それは……確かに。リベルさんはどうやってあの武器を……)





 アーグ達の会話を聞いていたレインも、同じくその意見に賛同していた


 そして一人で思考を巡らせていると、昨日聞き流していた会話を思い出す

 




 (あ、そういえば昨日……観賞用に作ったって言ってた気する。……え?……もしかして自分で作ったの?)





 一人真相に辿り着いたレインだが確信がない為、違うだろうと思い、自分の中に秘める事にした






 「……リベルを学園に呼んでも大丈夫なのか?」



 「彼は……怒らなければ普通の少年のようだからね。学園を楽しんでもらいたいのさ。……この国に執着を持ってもらえれば——とは考えているが……彼を利用するようなことは、しない方がいい気がするよ」




  


 このアルフレッドの判断は正しかった


 アルフレッドにリベルを利用するような気はなく、本心から学園に来てほしいと思っていたからこそ、リベルは興味を持ったのだ






 「だな、俺もそう思う」



 「それじゃあそろそろ私も戻ろうかな。準備や報告もあることだし」



 「そうか。またな、アルフレッド」




 「あぁ。またね」






 アルフレッドが退室した後、一人考え耽っているアーグに挨拶して、レインも退室した





  

 (それにしても……私がいる必要あったのかな?)




  

 ずっと黙って聞いていたレインはそんな事を考えながら、仕事に戻る為廊下を歩き出した——






  ***** 




 


 

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