衝突——アルフレッド——
(やはりこの少年――リベル君は只者ではないな)
連撃を躱され続けるアルフレッドはそう思い、リベルの評価を少し上げていた。ギルドで対面した時から既にただの少年では無いと見抜いていたアルフレッドだが、自身の想定よりも上であった事に気付いていた
リベルはアルフレッドの初撃を速いと称賛していたが、それはアルフレッドも同じだった
初撃——アルフレッドは本気で踏み込んだ訳ではなかったが、本当に腕を斬り落とす気で剣を振っていた。これで絶対決まるとはアルフレッドも思っていなかったが、薄皮一枚程度しか掠らないという結果には割と驚いていた
そして現在続けている連撃も、避けに徹しているリベルには事実擦りもしていなかった
(アーグが只者ではないと言った時点で強いとは思っていたが、まさかこれ程とは……確かにアーグでは勝てなそうだ。Sランクになれる実力は十分あるだろう)
——アルフレッドがギルドに来たのは、ポルティアからの普通ではない少年が入国したとの報告。そしてアーグから、ギルドにその少年らしき者が来たとの続く報告に気になり、興味を持った為だった
そしてアルフレッドは、ここに来たことが間違いではなかったと確信していた
『ハハッ!【戦闘】のアルフレッドだったか!?中々だな、褒めてやる』
「フッ、【閃光】だよ。それじゃあ準備運動はこのくらいにするとしよう」
『あぁ、そうしてくれ。これじゃあ怪我なんてできねぇからな』
Bランク以下ならまず当たり、Aランクでも全ては避けきれない様な連撃を、リベルは笑いながら避け続けていた。このままでは埒が明かないと判断したアルフレッドは、ギアを一気に上げる
「それじゃあ行くよ!《
一瞬の間にほぼ同時に放つ四連撃。低ランクの者なら何が起こったか分からず斬られるような攻撃が、リベルの四肢を狙って放たれた
その一瞬で放たれた攻撃はリベルの両腕を少し深く斬りつけたが、それはアルフレッドの望む結果ではなかった。その攻撃はアルフレッドが、リベルには貴重な
『ハハッ!名前くらいの速さはあるみたいだな!!』
「……まあね。それで、その傷でもまだ続けるかい?」
『当然だろ?それに傷なんてどこにあるんだ?』
「!!」
(先程斬った傷が消えている。……どう言うことだ?)
『それじゃあ俺も、そろそろ攻撃するとしよう』
訳が分からない状況に思考を巡らせていたアルフレッド。リベルの腕に深く斬り付けた筈の傷は、話している間に消えてしまっていた。何故だと混乱するアルフレッドに、リベルが斬られたはずの腕を回しながら近付いてくる
「素手のまま相手をする気かい?あの剣を出したらどうだい」
『いや、あの剣はもういい。お前にはこれで相手をしてやろう』
そう言ってリベルは手を
『
(な、なんだあれは……凄まじい力を感じるな)
取り出した
その肘まで纏う大きな籠手の指先には、太く鋭い爪が伸びている。腕から爪にかけて
先程の剣とは美しさの系統が違うが、
何せその武器は、例え素人が見ても分かるような迫力を持っていたのだ。くれると言うのならば、誰でも即座に受け取ってしまうような代物だ
「先程の剣もだが……とても素晴らしい武器じゃないか」
『だろ?お前は速さが自慢みたいだからこれで相手をしてやる。俺の武器は全て強いが、
「成程。つまり、私とスピード勝負をしようということか」
『まぁそういうことだ。それじゃあ……行くぞ?』
そう言ってアルフレッドに攻撃してくるリベルのスピードはとても速く、観戦しているアーグでさえ全ては見えていないのではないかと言うほどのものだった
リベルはまるで四方八方から攻撃をするように、アルフレッドの周囲を縦横無尽に駆け回り、斬りつけている。アルフレッドは油断するとすぐ当たってしまうような攻撃をなんとか捌いていたが、体の至る所に斬り傷ができていた
完全に傷が消えているリベルと比べるれば、どちらが優勢かは明らかだった
『ハハハッ!結構耐えるじゃないか。なら、この速さはどうだ!?』
攻撃がさらに速く、重たいものになった
アルフレッドは身体強化魔法を最大に掛け、更に集中して捌く。なんとか時折反撃を混ぜていたが、リベルには擦りもしない。アルフレッドの剣はまるで残像を斬るかの様に空を斬ってしまう。その様子を観戦していたアーグは目を見開き、呼吸を忘れる程に驚いていた
Sランクのアルフレッドが少年に押されている—
それは実際見なければ誰も信じられない様な内容なのだ
「すごい速さじゃないか。君も【閃光】の名前が似合うんじゃないか?」
『ハハッ!俺がそんなので収まる訳ないだろ。俺は、最強なんだからな!!』
自分より強い者を見たことがないリベルは自信満々にそう豪語していた。リベルの推測による考えなどではなく、今まで実際にいなかったのだ
(クッ、身体強化魔法を最大限掛けているのにこれか!これはどうしたことか……)
『それじゃあそろそろ終わりにするか。腹も減ったしな』
アルフレッドがこの状況を打破する方法を考えていると、そう言ったリベルは猛攻を止めた。だがアルフレッドの前方に戻ったリベルは身体を屈ませ、全身に力を入れていた
その様子を見て即座にまずいと察知するアルフレッド。頭の中ではSランク冒険者の勘によって、危険だという警報がガンガンなっていた
唐突に嫌な予感を感じたアルフレッドは、瞬時に気を引き締めてリベルを見据える——が、消えた
『
ズバババン!——
「グワッ!!」
風と肉を切る様な音が、ほんの一瞬響く
物凄い……それこそ、アーグには全く見えない程の速さで突進して攻撃したリベル
その攻撃によって全身が派手に斬り裂かれ、更には右腕を切断されたアルフレッドは苦痛の声を上げていた
その様子をアーグは混乱して見ている。アーグからすると、風を切るような音が聞こえた直後、既にアルフレッドの腕が宙を舞っているような状況だった
だが何が起きたかは分からないが、その結果が光景として見えていたアーグは、声をかけながら急いでアルフレッドに駆け寄って行った
『フッ、両腕落とそうと思ったんだが、よく防いだな』
「クッ!……」
(なんて速さだ!!)
嫌な予感を感じたアルフレッドは即座に、全力を出して防御をしていたのだ。だが結果はこの通り
アルフレッドが一瞬全力を出しても、その攻撃を防ぎ切る事は出来なかった。アルフレッドは斬られた腕を押さえながらも立っていたが、その顔は痛みに耐えており、既に剣を持つ手は地面に落ちている
『トドメだ!黒――』
「そ、そこまでだ!!」
だが見るからに致命傷のアルフレッドに、更に追撃をしようとしたリベル
『あ??まだ左腕残ってるだろ。これじゃあ致命傷にならねぇよ』
「ハハハ、リベル君。私もここまでにしてもらいたいな。これ以上やったら
リベルの認識のズレに驚いて言葉を失うアーグと、腕を失いながらもリベルに笑いかけるアルフレッド
アーグが声を上げて止めなければどうなっていたか……それは誰にも分からない。まさにリベルの気分次第になっただろう
だがアルフレッドとの戦闘を意外と楽しめていたリベルは既に気分が良く、アルフレッドの言う通り戦いを終わらせた
満足気味のリベルは笑いながら武器をアイテムボックスに戻している
そんな様子に一安心したアーグはアルフレッドの容態を再び確かめる
「アルフレッド!大丈夫か!?」
「あぁ、
アーグがアルフレッドに目を向けると、既に
その性能と即効性は、
『そのくらい大丈夫でしょ、それより俺はお腹減ったしもう帰るね』
アルフレッドの怪我をそのくらいと言うリベルの口調は柔らかく、瞳の色も元に戻っていた
「リベル君、明日の昼にまたギルドに来てくれるかい?話をしたいんだが」
『んー……美味しい料理食べさせてくれるならいいよ』
「了解した。ではご馳走を用意して待ってるよ」
『本当!?なら絶対行くよ!またね明日ね』
手を振って帰って行くリベルからは、先程までの恐ろしい様子など一切感じさせないものだった
リベルの中では既に、ゲルダ達に溜められた負の感情は消えている
リベルという少年は自由に気分のまま行動し、その感情が過ぎればもうそれまでだ
その為、ゲルダ達にはもう何も感じていたかった
ゲルダ達のことは嫌いだろうが、また何かしない限りはそれ程気にしないだろう
その様子を安心しながら見送ったアーグは、重傷を負っていたアルフレッドの心配をする
「……まさかお前がやられるとはな」
「あぁ、アーグ。私は……勘違いをしていたよ」
「勘違い?」
アルフレッドは、リベルが出て行った扉を疲れた顔で見つめながら話している。
「あぁ。私は彼に、Sランクくらいの実力があると思っていたんだ」
「そうだな。俺もだ」
「しかし、それは間違っていたよ。彼はまだ力を隠している……おそらく、SSランクとも戦えるだろう」
SSランクという言葉に驚くアーグ
世界に五人しかいないSSランク冒険者は、全員がSランクとは比べられない程の実力者だった
アルフレッドの言葉にアーグは、リベルが六人目のSSランク冒険者になるかもしれないのかと思い、頭を悩ませる
「それで明日何の話をする気だ?俺も話はしようと思っていたが……お前も話すのか?」
「あぁ、彼とは敵対しないのが得策だろうからね。彼さえ良ければ学園に誘おうと思うんだ」
「!?」
「私ともう一人のSランク冒険者が代表を務める、『剣魔総合学園』にね」
埃を払いながらそう答えるアルフレッド。だがアーグは
だがそれよりアーグは、気丈に振る舞ってるが体調が良くなさそうなアルフレッドに肩を貸す。アルフレッドは少しフラッとしてから体重の半分程をアーグに委ね、二人でギルドに戻って行った——
*****
リベル 昔の呼称[???]
《 判明プロフィール》
能力 (武器を使った技ではない)
[真実の眼]
武器 : 【宝剣アダム】【黒双龍砲】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます