溜まる不満②——リベルvs超強化ゴーレム——









 ゴーレムという言葉にざわめき出した生徒達


 上級ゴーレムは、Bランクでも上位の強さだ


 アルフレッドが、そんなゴーレムとリベルを戦わせようと言ったことで、まだリベルの強さを一部しか理解していない者達は驚いていた

 






 「アルフレッド、どういうつもり?」




 「百聞は一見に如かず――だよセシル。それに……私も報告書には目を通している。みんなリベル君のクラスメイトなんだから、どれだけ強いか見せてからハッキリ言った方がいいだろう。まぁ、

Sランクだという事は伏せてだけど……」






 


 生徒から遠ざけてこっそりと聞くセシルに、アルフレッドは準備運動のようなことをしているリベルを見ながら答えていた


 報告書に目を通して来たアルフレッドは、説明もせずにこのまま放置していては、皆の溜まる不満を止められないだろうと感じていた


 その為クラスメイトとなる皆に、リベルがどれくらい強いのかを皆に正確に言った方がいいとアルフレッドは考えたのだ




 まぁ、主に不満を感じていたのはメイナードだけだったのだが―…




 

 セシルはアルフレッドの意見を聞いて納得する


 どうせこのまま全てを隠し通すのは無理だろうと、セシルは自分でも思っていたのだ








 「そうね……リベル!準備はいい?」





 『もちろんだよ。何体でも蹴散らしてあげるから、いつでもかかって来るといいよ?ハァーッハッハッハ!』




 「戦うのは一体だけだからね?あと……あまり周りに被害を出しちゃダメよ?」

 




 『フフッ、分かってるよセシルさん。俺は手加減が得意なんだから、安心してくれていいよ?』






 (得意って……ハァー。それが全く安心出来ないのよ、リベル)






 セシルはやる気満々のリベルを見て、やはり全く安心出来なかった。心の底から大丈夫かと言う不安が湧いてくる



 すると生徒達は、逆にリベルの身を心配していたようで、セシルに近付いて来た






 

 「あ、あの、セシル様。確かにリベルは強かったですけど……上級ゴーレムは無理なんじゃ……」




 「確かに……学園長達は、リベルのことを過大評価しすぎなのでは?ソフィアはどう思う?」







 確かに強いが、自分に勝ったくらいの実力程度に認識していたアリスとリエンは、リベルが負けると考えていたのだ




 しかし――







 「……リベルは、前も全然本気を出してないと思う。もしかしたら……勝てるかも」




 「俺もそう思うぜ。リベルの拳なら、上級ゴーレムも敵じゃねーよ」



 「俺も同じ意見だ!!リベル君なら倒せそうな

予感がするよ!」







 リベルの力の一端でも感じていたソフィアと、壁を壊した瞬間を見ていたディーン達は違った意見のようだった



 ランダ達もリベルの力を正確に認識していた訳では無いが、上級ゴーレムになら勝てるのではないかと予想していたのだ



 もちろんセシルも、リベルが負けることなどはこれっぽっちも心配していない






 

 「二人とも、リベルなら大丈夫だから安心して」




 「そうだセシル。ついでに上級ゴーレムを強くしたらどうだい?身体強化や能力の向上を付与して……リベル君の力を見たらいいと思うんだがどうかな?もちろん全力じゃなくていいからさ」

 





 「……分かったわ。上級ゴーレム生成――[身体強化][加速][硬化]付与」





 (ついでに大きさも調整して……軽くして動きを速くしようかしら)






 セシルがゴーレムを生成していき、見た目や能力を調整する


 今まで皆が戦っていた中級までのゴーレムは、

セシルが魔力を使って生成していただけのただのゴーレムだった



 しかしこのゴーレムはセシルの魔力を沢山込め、様々な強化魔法を付与していくことで、普通の上級ゴーレムより更に強くなっていった



 これはもちろんセシルの技術があって出来る芸当で、完成したゴーレムはアーグと良い勝負をする程の力だった



 また、通常の上級ゴーレムは人間などより巨大だが、セシルがサイズを調整して人型のような形になっていた。このゴーレムは、パワーと耐久性だけのゴーレムとは実力が全く異なっていた







 「流石セシル。これはアーグと良い勝負なんじゃないか?いや、昔のアーグなら勝ったかもしれないけど、今のアーグは負けるかもしれないね」


 





 セシルとアルフレッドの会話を聞いていたアリス達は途中まで、何を言っているんだ――と思っていたが、完成したゴーレムを見て目を見開いていた


 

 そのゴーレムには魔力が漲っており、明らかに実力が違うことを全員が理解していたのだ



 そんなゴーレムを見たランダ達は先程とは違い、本当にリベルが勝てるのか分からなくなってしまっていた




 しかし、当の本人は全く気にしていない







 『おぉ、カッコいい!!それに、ちょっと強そうだね』




 

 (ちょっとって……まぁ、アルフレッドに勝ったなら大丈夫なんだろうけど…………少し私が操作しようかしら)



 


 「それじゃあリベル君。遠慮なくこのゴーレムを倒してくれたまえ。それでは、リベル君対ゴーレムの試合――開始!」






 

  ズドォーーン!!——






 アルフレッドの合図と同時に、訓練場へ衝撃が轟いた


 普通のゴーレムではあり得ないような速さで動いたゴーレムが、リベルに向かっていきなり拳で殴りかかったのだ



 しかしリベルは、衝撃で制服が靡いていただけで、自身は微動だにせず拳を掴んでいる







 『アハハハ!!いい攻撃じゃないか。だけど、

これでは俺には届かない――な!』






 リベルは拳を掴んだまま、もう片方の腕で殴りつけた


 拳が命中して吹き飛んだゴーレムは衝撃で地面を何度か転がったが、すぐに立ち上がり態勢を整えた


 殴られてヒビの入った胸部がすぐ治り、再びリベルへ向けて飛びかかっていく




 リベルは猛攻を続けるゴーレムの拳を、同じく拳を交え受けていた



 そしてその戦闘を見ている生徒は皆、目の前で繰り広げられている光景に驚愕していた。それは、無表情なソフィアでさえ明らかに驚いているのが分かる程だった



 皆あのゴーレムは自分達と隔絶した力の差があると理解していた為、そんなゴーレムと難なく打ち合っているリベルに驚いていたのだ


 





 (やっぱり、これじゃあ何とも感じていないみたいね……ならもう少し――)

 


 




 『あれ??なんか……強くなった?』



 




 余裕そうなリベルを見たセシルは、ゴーレムの強化を更に強めた

 

 動きが更に速くなり、攻撃も重くなる



 そのゴーレムとリベルの打ち合いは、訓練場全体に強烈な風が駆け巡る程だった






 

 「セシル。リベル君はまだ余裕そうだよ?」




 「わ、分かってるわよ!!」





 (もう少し――いや、もっと……)







 アルフレッドに言われたセシルが、また更に強化をした


 もはや今のアーグなど敵わない程の強さになっていたゴーレムは猛攻を続けるが、それでもリベルには一撃も当たらない






 『ハハハ!!こんなに殴り合ったのは久しぶりだ!もっと楽しませてくれ!』



 

 「……ああ言ってるけど?」





 「な、なによ!?うっさいわね!」


 




 (アンタ何もしてないくせに!……もう私が全部操作してやるわよ!)

 



 



 戦いが楽しければ――という条件を満たせばだが、リベルは結構好戦的な性格であった


 ゴーレムとの戦いで気分が高揚していたリベルは、既に少し口調が変わっていた



 そんな余裕そうに——楽しそうに戦うリベルを見て、セシルはゴーレムの動きを全て操作し出した



 ゴーレムは機械のような動きから一変、リベルと打ち合わず避けるなど、人間のような動きをし出した。そのゴーレムから放たれる、ランダが打ち合い続ければ拳が砕けそうな攻撃を、リベルはずっと真正面から受け続けていた






  

 『ハハッ、また硬くなった!随分斬り甲斐がありそうだな!!』






 そう言ったリベルは重い一撃を放ちゴーレムを吹き飛ばすと、その隙に剣を取り出した






 『来い——【宝剣アダム】』




 「おっ、出たよセシル。私が言っていたのはあの剣だ。さぁ、もうちょっと頑張って」




 「あーもう!!分かってるわよ!」


 


 (あれが例の剣……ってそれより、他人事だからって楽しんで見てんじゃないわよ!こっちは魔力

ガンガン使ってんのよ!!)




 



 吹き飛ばされたゴーレムは立ち上がり、リベルへ向けて全速力で突っ込んでいく


 力強く蹴られた地面は衝撃で砕け、その音が響く


 

 ゴーレムは拳を深く引いており、剣を構えるリベルに向けて全力の一撃を放つ気だった



 ゴーレムがリベルの前まで一瞬で接近し、拳を繰り出した刹那――



 



 『フゥー…――[ザン]』




 

 時間にしたらほんの一瞬、リベルが言葉が言い終わると同時に決着がついた



 リベルへ打ち込まれた拳は、学園の壁など容易くブチ破る程の威力を持っていた


 全盛期のアーグでもまともに受ければタダでは済まないような攻撃だったのだが、それがリベルに届くことはなかった



 リベルは自分に向かってくる拳とゴーレムを、

全てを細切りにしたのだ


 リベルの力――魔力に纏われた剣は刃こぼれすることも無く、セシルの魔法で強化されたゴーレムを容易く斬り刻んだ



 セシルとアルフレッドが驚くのは当然、生徒達も全員が目を見開いて驚愕していた



 何が起きたのか理解していたセシル達とは違い、目の前での光景があまり詳しく見えなかった生徒達。そんな生徒達からすれば、ゴーレムがリベルに向けて突撃したと思った途端細かくなって崩れ落ちたのだから、驚くのは無理のないことだった






 (う、うそでしょ…………もう頭が痛いわ)





 細片にされたゴーレムは既に、リベルの足元でただの岩となっていた


 頭を抱えたい程驚くセシルを他所に、戦闘を終えたリベルが満足そうに近付いて来る






 『中々斬り甲斐のある岩だったよセシルさん。

フフッ、それに周りへの被害はゼロ!いやー、手加減が上手くなり過ぎたかな?アーッハッハッハ!』






 セシル達の気持ちなど知らず、ただただ楽しそうな様子のリベル



 生徒達など、信じられないものを見るような目でリベルのことを見つめている






 「いやー、流石リベル君。あんな結果は予想してなかったけど、私はリベル君が勝つと思っていたよ」

 



 『フフフッ、当然だよアルフレッドさん。なんたって、俺は最強だからね。アーッハッハッハ!!』

 




 「す、凄いぞリベル君!!何が起きたのか分からなかったが、とにかく凄いのは分かったよ!」




 「……まさか、あんな化け物みたいなゴーレムまで倒せるなんてな」


 


 「な、なんなのよ今の……リベルがあんなに強かったなんて……」







 皆、戻って来たリベルに口を開き出す


 しかし全員、圧倒的な実力差を感じさせられたような気持ちになっていた





 「みんな、リベル君ならこれくらい当然の事だよ。なんたってリベル君は、私にも勝っているからね」





 「……え?」



 「は??」



 「……はい??」






 ディーン、ランダ、アリスだけでなく、アルフレッドの言葉に固まってしまった生徒達


 皆自分が聞き間違ったのではないかと思いながら、マジマジとアルフレッドの顔を見ている



 

 


 「あ、あのアルフレッド様……い、今なんて言ったんですか?」

 

 


 「ん?あー、だからね。私はリベル君に負けているんだよ。一対一の勝負で、完膚なきまでにね」




 「「えぇーー!?」」




 「え、うそ……」





 (ハァー…まぁ、そうなるわよね)






 アリスの質問に答えたことで、聞き間違いではなかったと理解した一同は声を揃えて驚いてしまった


衝撃の事実に、ソフィアまでも驚きで声を漏らしてしまっている




 

 

 「みんな驚くと思うけど、これは事実だよ。それに、リベル君は私が特別指定推薦で学園に呼んだんだ」

 



 「「と、特別指定推薦!?」」




 「そ、それってマグナ様と……」




 「あぁ、みんな知っている通り王族に出されているものだね。しかしこれは本来、身分や実力がな者に出される推薦だ。そして、リベル君の実力が特別なのはみんなもう分かっただろ?」






 皆驚きで声が出ず、ただひたすらに頭を回転させていたが、リベルの実力が特別だというのは今の戦いでしっかりと感じていた





 

 「別に隠していた訳じゃないんだけど、今まで黙っててごめんなさいね。みんなリベルには色々疑問があったと思うけど、アルフレッドの言う通り、私達がリベルに来てもらっているのよ。だから実力のあるリベルは、授業に出ても出なくてもいい自由出席だったの」





 (まぁ……それでもリベルは、いろいろ自由過ぎるけどね)

 



 

 セシルの言葉に耳を傾けながら、皆得意そうに胸を張っているリベルを見ていた



 そんな二人から語られた真実に驚くソフィア



 



 「リベル……Sランクのアルフレッドさんに勝つなんて……」






 Sランクだという事を隠しても、アルフレッドに勝ったという事実が皆に、リベルもSランクの実力を持っている事を連想させていた


 




 「そう言うことだから、みんな納得してくれた?

メイナードもこれからはあまり喧嘩しないでね」







 次々と聞かされる驚愕の事実に、メイナードは

反論どころか言葉も発せず思考が停止していた


 特別扱いのだったのではなく実際に特別扱いだったのだと理解してから、メイナードの思考は働きを止めていたのだ







 『フフッ、俺も寛大な心で今までのことは許してあげようじゃないか。それじゃあお腹すいたし、早くご飯食べに行こ?』

 



 「え、えぇ、そうね。それじゃあ時間は丁度だし、今日の授業はここまでにするわ。みんなこれからもリベルと仲良くしてね。困ったことあったら頼ってみたり――とかね」




 『まぁ、それは俺の気分次第だけどね?アハハハハ』





 「「…………」」







 未だ続く驚愕でみんなが言葉を発せずにいる中、ただ一人、ディーンだけが瞳を輝かせて興奮していた






 「うぉーー!!凄いぞリベル君。俺はこれから、リベル君を超えることを目指すとしよう!」



 




 そんなディーンの言葉に苦笑いしながら、セシルはリベルとアルフレッドと共に、ギルドへ向けて歩いて行った——




 

 *****




 次回、気の毒なダルフ

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