気の毒なダルフ


 








 時間は少し遡り、リベルが学園に初めて来た翌日——




 Sクラスの教室に向かうダルフは、何もしていないのに既に気分が疲れていた



 いつも通り授業に向かうだけの筈だが、リベルという生徒一人がいるだけで緊張してしまっていたのだ




 ダルフは昨日、リベルに壊された壁を他の教師達と直してからセシルに報告書を出していた


 入学初日から問題を起こしてしまったリベルが待つクラスに行くと思うと、ダルフは不安になった


 Sクラスの教室が近づくにつれてその不安が更に高まっていく



 ダルフはその事を考えているだけで体調不良になりそうだったが、教室の前に着いたダルフは覚悟を決めて入って行った——






 「あー、みんなおはよう。今日は実技もあるが、座学がメインになる。各自頑張って――」

 



 「ダルフ先生。リベルがいませんが、何故ですか?」





 

 ダルフが今日の授業について説明していると、

リエンに遮られた



 ダルフはリエンの言葉で教室を見渡し、リベルがいない事に気付く





 (…………それは俺が聞きたいくらいだ、リエン。いや、確か来ても来なくてもいいってセシルさんが……だが初日から来ないとは。……まさか、

何か問題が起きた訳じゃないよな?)







 昨日リベルに寮の説明を忘れていたせいで壁を壊されてしまったダルフは、また何かあったのではないかと心配になってしまう






 「確かに!!今日はリベル君の姿を見ていないですね。俺は早く、またリベル君の力を見たいです!」

 



 「あぁ、昨日のは本当に凄かった。怒られちまったが、それを帳消しに出来るくらいだったな」




 「昨日の揺れはリベルが壁を壊したからなんでしょ??……なんか悔しいわね」




 「それより聞いてよリエン!昨日リベルが私の部屋に入って来たのよ!?ダルフ先生が部屋を教えてなかったせいで!」





 

 ダルフの心配など他所に、生徒達が騒ぎ出す



 ディーンとランダは、ダルフが来る前に昨日のリベルのことを皆に話していたのだ


 昨日学園にいた生徒達が皆感じたであろう揺れはリベルによるものだと、二人は説明していた




 

 「アリス、昨日は本当悪かったって。それでリベルがいない理由だが……何かあったかもしれないから少し寮に行ってくる。みんな教室で待ってるように」




 「座学が短くなるんじゃねーか?ハハ、リベルのおかげだな」




 「何言ってるのよ!座学で知識をつけるのも大事でしょ!?全く、これだから戦闘バカは……」




 「クッ!俺も剣を振りたいが……確かに知識は大切だ。ハッ!!つまりこれは、忍耐力も鍛えられる精神の鍛錬だと言うことか!」

 



 


 ダルフが教室を出ようとすると、騒がしさが増していた


 各自好きなように喋り、言い合ったりしている



 ダルフは一言、他のクラスに迷惑をかけないようにしろよ――と言って教室を出て行った



 黙って待っていろ——なんて言っても無駄なことは、既に分かっていたのだ





 (はぁ……リベルは何をしているんだろうな――って)





 「学園長じゃないですか。どうしてここに……

リベルの様子見ですか?」



 「そうです。座学は今日が初めてだろうから心配してたんですけど……何か問題でも?」

 



 「問題と言うかその…………実はリベルがまだ来てないんですよね。何かあったらまずいので、一応部屋に行ってみようかと思った所でして……」

 





 

 ダルフの様子から何かを感じ取ったのか質問してくるセシルに、ダルフは言いにくそうに頭を掻きながら説明した



 すると——






 「そ、そうですか。それじゃあ、その間私が座学を教えてますので、リベルのことはよろしくお願いしますね」


 


 「え!?そ、それなら逆でもいいんじゃ――」

 

 


 「い、いえ。私はリベルの部屋が分からないので授業を教えてますよ。頑張ってください、ダルフ先生」






 セシルはダルフに言い聞かせるように説明した後、早足で教室に入って行った



 押し付けられたと思ったダルフだが、文句は言えない




 セシルが入った教室は騒がしさが増していたが、ダルフはそんな教室を後に寮へ向かって行った――






 しばらく歩き、寮に着いたダルフはリベルの部屋の前にいた





 (確か、リベルの部屋はここだったよな……)





 「リベル。いるか?リベル」





 ダルフはドアを叩いて声をかけたが、返答はない




 

 (……入るしかない……よな?)





 「リベル、入るぞ。何かあったのか――って」




 『スゥー…スゥー、スゥー』





 ドアを開けて部屋に入ったダルフの目には、ベッドの上で気持ちよさそうに寝ているリベルの姿が映り込んできた






 (なんだ、ただの寝坊か……まぁ、何かあった訳じゃなくてよかったな)






 「リベル。リベル、朝だ。いや、朝というか、

もう授業が始まってるぞ?」



 



 ダルフが寝ているリベルを起こそうとして揺さぶると、リベルはなにか夢を見ていたのか寝ぼけている様子だった






 『うーーん…………また盗賊?しぶといなー。

俺の睡眠を邪魔するなー!』


 



 「うぉ!?あ、あぶなッ。もう少しで当たる所だっ――!!」


 

 


 腕を振り払うような拳がダルフに向かったが、ダルフはそれを全力で避けた


 顔スレスレを通った拳に、ダルフが避けれたことを安心していると、戻って来た拳に腹を打たれてしまった


 ダルフはなんとか衝撃をある程度受け止めたが、全てを受け切れた訳ではなく、壁に激突してしまう






 「グハッ!!——リ、リベル。起きてくれ!」

 





 (メチャクチャ痛い!!寝ぼけて加減がなってないのか!?いや、それはいつもだが……な、なんで俺がこんな目に)






 『んーー。……ん??あ、ダルフ先生。おはよー』




 「お、おはよう」


 

 

 『あれ??そう言えばなんでここにいるの?』







 ダルフは目を擦りながら起き上がるリベルに文句を言いたくなったが、言葉を飲み込んだ






 「授業が始まってもリベルが来なかったからな……何かあったのかと思って見に来たんだ。……今日は来ないのか?」





 『いや、寝坊しちゃっただけだから今から行くよ。朝ご飯食べてからね』




 「そ、そうか。それじゃあ俺は教室に行ってるから、また後でな」




 『うん』




 

 リベルを起こしたダルフは部屋を出ると、殴られた腹を押さえて溜め息を漏らしながら教室まで戻って行った




 教室のドアを開けると、授業を教えていたセシルに声をかけられる







 「あ、ダルフ先生。どうでしたか?」




 「寝坊だそうです。今からご飯を食べて来るそうなので……座学は出ないかもしれませんね」

 



 「そ、そうですか。それじゃあ私はリベルの所に行って来るので後はよろしくお願いしますね。それより……どうしたんですか?お腹でも痛いんですか?」




 「はい。寝ぼけたリベルに殴られて、物凄く腹が痛いです」





 セシルに聞かれたダルフは、ここぞとばかりに答えた





 「え!?い、いや、そうですか。それは災難でしたね。それじゃあ授業を頑張ってください」





 

 が、セシルはダルフの言葉と疲れ切った表情を見て、逃げるように立ち去った


 ダルフはそんなセシルを恨めしく思うが、授業を続ける為に気持ちを切り替えて教室に戻った




 結局、その日リベルが来たのは実技の時だけだった


 


 更に、ダルフの苦労はそれだけでは終わらなかった




 その翌日の授業中——





 「「…………」」



 『スゥー……スゥー…』


  


 「ダルフ先生!!何故注意しないのですか!?コイツをこのまま寝させておくのですか!?」

 

 



 (……俺に言わないでくれメイナード。俺もどうするのが正解なのか分からないんだ)





 余裕で爆睡をしているリベルに、メイナードは文句を言っていた。他の生徒も爆睡中のリベルをジッと見つめている



 そんな空気にどうすればいいのか困惑するダルフだが、リベルを起こす事はせず、メイナードにリベルは良いんだと言い聞かせて授業を続けていた




 しかも起きたリベルは、その日は座学のみだった為か、途中で授業を抜け出して行ってしまった

 



 起きてすぐ、お腹減ったからご飯食べてくる——と言って立ち上がり、教室を出て行ってしまったのだ



 生徒は皆何を言っているんだと言う様な目でリベルを見ていたが、ダルフはリベルを止めなかった為、リベルはスタスタと教室を出て行った



 メイナードは文句を言ったが、ダルフは言葉を濁して授業をそのまま続けていた






 更には後日——



 ダルフは授業が終わり、学園の廊下を歩いていると、一人広場に立っているリベルを目にした



 立ち止まって何をしているのか様子を見ていると、何とリベルは、剣で木を斬りだした

 

 

 ダルフが焦って止めに入ると、本人は呑気なものだった





 『あ、ダルフ先生。どうかした?』



 「リ、リベル。今何で木を斬ったんだ?」



 『ん??あー、暇だったから剣の切れ味を確認してたんだよ』




 (暇って……ダメだ、このままだと木が無くなる)





 その日のダルフは悪気なんて全く感じていない様子のリベルに、学園の木は斬っていけないんだと言い聞かせてその場を去ったが、その為翌日から暇になったリベルに頻繁に勝負を挑まれる事になってしまっていた







 『ダルフ先生ー!俺と戦ってよーー』




 「ダ、ダメだ。昨日も言ったが、俺じゃリベルの相手にならないからな」

 


 『そんなの知ってるよー。ただ暇だから相手してって言ってるんじゃん』


 

 「…………今日は忙しいから、今度気が向いたらな」

 




 何度断っても戦いを要求してくるリベルに、ダルフは最早恐怖すら感じていた



 このままでは、自分はリベルの暇潰しで殺されてしまうと思ったダルフはその場を何とか抜け出し、急いでセシルに助けを求める様に報告書を書いていた



 

 セシル達もリベルの事には頭を悩ませていたが、なんだかんだ、一番身の危険を感じていたのはダルフであった

 


 ダルフはセシルに報告書を出し、もうリベルに挑まれないようにと、そう祈りながら過ごしていたのだった——





 *****





  

 裏で苦労している、ダルフの様子を描かせて頂きました




 次回はセシル達がギルドに着いた所に戻るので、よろしくお願いします^_^



 次回、魔力測定と緊急事態

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