魔力測定と緊急事態






 


 

 学園を出たセシルは、ギルドの部屋でアーグ、アルフレッド、リベルと共に、もう見慣れたメンバーで集まり座っていた



 リベルはアーグが用意した料理を既に完食しており、随分と満足そうな様子のリベルをセシル、アーグ、アルフレッドが眺めていた所だった



 

 



 『あー美味しかった。ごちそうさま。それじゃ帰ろーっと』



 


 「あっ、ちょ、ちょっと待ってリベル」




 『ん?』





 「この前ダンジョンに行きたいって言ってたでしょ?でもダンジョンの紹介をする前に、リベルの力をある程度把握する為に魔力を測りたいんだけど……良いかしら?」

 



 『魔力を??……どうやって測るの?』

 



 「あぁ、それは――これで測るんだ」

 





 リベルの質問を聞いたアーグが、事前に準備していた魔力を測る水晶を取り出してテーブルに置いた


 

 ——ギルドに着くなり、いつも通り料理が準備されていたこの部屋へ一人で向かったリベル


 実はアーグ達はその時に、測れるのならばリベルの魔力を測ってしまおうと三人で相談していたのだ






 

 『これ登録の時に、レインさんが出してきたやつ?』




 「ん?あぁ、あれは嘘を見抜くやつだな。似てるが性能が違う。これは本人の魔力の質や量によって、色や光り方が変わるんだ」

 

 



 

 アーグが出した水晶は、アーグの説明通りの性能だった


 例えばこの水晶にアリスが手を置いたとすれば、火の魔法が得意なアリスに反応してこの水晶は赤く、そしてアリスの魔力の強さによって光が強くなる



 アーグの説明通り、これは使用者の魔力の質や量によって反応が変わる水晶なのだ


 


 



 『これに手を置けばいいの?』




 「えぇ、そうよ。お願い出来るかしら?」




 『別にいいけど…………意味ないと思うよ?』

 

 



 (意味がない?……どういうこと?)





 水晶をジッと見つめながらそう言うリベルに、

セシル達は揃って眉を顰めた


 拒否された訳でないのは良い事だったが、皆リベルの言っている意味が分からなかったのだ



 セシル達が疑問の視線を向ける中、リベルは水晶を指で突いてから手を置いて見せた



 

  すると――






 「なッ!?」

 



 「……おいおい。これは……どう言うことだ?」

 



 「……私も初めて見るから、なんとも言えないね」







 リベルが手を触れた瞬間、水晶は黒く染まり、

崩壊するように崩れ落ちてしまった







 『ね??だから言ったでしょ?』




 「リ、リベル……これは……どう言うこと?」

 







 目が飛び出そうな勢いで水晶を見つめていたセシルは、何か知っているかのようなリベルの言葉に反応した




 質問されたリベルは腕を組み、思い出すように答える






 『なんて言うかー…こんな道具で測れる魔力には限界があるんじゃない?これじゃあ俺の力に耐え切れなかったんじゃないかな?前にも一回だけこういうことあったし』





 「で、でもこれは……」





 (こんな壊れ方は見たことがないのよ……)







 リベルの言う通り、この水晶には測れる魔力に上限があった


魔力が強ければヒビが入ったり、壊れたりすることは今までも何回かある事例だった


 セシルが手を置いても水晶はヒビが入り、本気を出せば砕けることだろう




 現に過去、SSランクの魔術師が水晶に触れただけで粉々にした事例はあったのだ



 もし同じようなことになれば、リベルがSSランク級の魔力なのだろう――という結論で、三人は納得していた




 しかし、黒く染まり崩壊するように崩れ落ちた水晶など今まで前例がなかった為、セシル達は凄く驚いていたのだ







 (なんでこんなことに――いや、それより黒ってなんなの?……確か以前【聖女】は白く光輝いたって聞いたけど……まさか――)


 





 『んっ??…………なんか沢山来てるね』




 「え??」







 セシルがもはや塵のようになった水晶を眺めながら思考を巡らせていると、急にリベルが窓の外を見てそう言った



 皆が水晶の件もリベルの言葉の意味も分からないでいると、部屋の外からドタバタと騒がしい足音が聞こえてきた







 「し、失礼します!!アーグさん、急ぎ報告したいことが!」


 

 

 「なんだ?どうしたレイン」







 部屋のドアを開けて入って来たのはレインだった


 慌てた様子のレインを見て、アーグが何事かと尋ねる






 「た、たった今ポルティア様より、狂魔の森から大量の魔物が、一斉にこの国へ向かっているとの報告がありました!!」



 

 「な、なに!?数は!?」

 



 「それが、見るからに大量の魔物で……目算でおよそ一万程と言っていました」





 「な、なんだと!?」



 「い、一万!?」



 「これは……異常事態だね」





 

 一万もの魔物の大群と言う前例がない程の異常にセシル達は揃って驚き、まずいことが起きたと理解した



 一万もの魔物がこの国に到着すれば、広がる被害を抑えることなど不可能に近いことだった


 しかし現在この国にいる Sランク以上の実力者はセシルとアルフレッドのみで、一万の魔物を相手にする事は不可能だと、二人共瞬時に判断していた




 それにSランクと言ってもアルフレッドは剣士なので、一対一の対人戦や、少数の強者を相手にする方が得意だったのだ


 その為一万の魔物ともなると体力が持つはずもなく、ほとんどセシルがやらなければならなくなるだろうが、それが無理なのはセシル自身が一番良く分かっていた



 


 (一万の魔物を相手になんて、魔力が持つはずない。どうすれば……)


 


 

 「な、なんてこった……到着までの時間は?」




 「到着までは……およそ三時間程かと」

 




 「クソ!!……この国にいる集められるだけの冒険者を集めるんだ!こんな事態、と連携して対処するしかない。

ポルティアから報告は行ってるだろうが、ギルドからも急いで要請するんだ!」





 

 援軍など呼ぶような時間がない事にアーグは悪態をついて叫んでから、レインに向けて指示を出した



 頼れるSランク以上の者など時間があっても呼べるか分からないのに、それを呼ぶ時間もないとくれば文句を言いたくなるのも仕方がないことだろう



 それにアーグ達は、騎士団や冒険者をいくら掻き集めたとしても、数だけでは魔物の大群を相手にとても対処出来るとは思えなかったのだ


 騎士団にも勿論強者は存在するが、数名ではやはり意味がないだろう——と



 千や二千ならなんとかなったかもしれないが、相手は一万だ



 それこそ、こんな非常事態を数名でなんとか出来るのはやはりSランク以上の者くらいなものだった


それが分かっていた皆の心中は、どうしたことかという不安でいっぱいになっていた


  




  約一名を除いて――





 


 『ねぇ、長くなるんだったら帰っていい?』







 レインが部屋から出て行った後、こんな状況化で耳を疑うようなことを言っているリベルに、全員が視線を向けてしまった






 (か、帰るって……)





 「リ、リベル。今はそれどころじゃ――」

 




 『俺、早くカレンさんのとこ行って肉買いたいんだけど……帰っていい?』




 

 (いや、本当にそれどころじゃないんだけど…………!!もしかして――)





 「もしかしてリベルなら……一万の魔物もなんとか出来たりしない?」







 セシルの言葉に全員が同じことを思い至り、大事な事を思い出したかのようにリベルを見つめている




 しかし——






 『出来るけどー…気分じゃないしめんどくさいから無理ー』




 「な、倒せるのかリベル!?ならそこをなんとか頼む!この国の危機を救ってくれ!」

 




 『だってこの国がどうとかさー…正直俺にあんまり関係ないよね?』





 「「…………」」







 ソファーにぐたっとした感じて転がるリベルからの返答は、想像以上に冷たいものだった



 リベルは出来ると言ったものの、やる気など全くない様子でソファーに転がっている





 

 『だから嫌だー。それにもし滅んだらさ、この国の力がそれくらいだったってことだよ。弱肉強食ってそう言う意味なんでしょ?』

 



 「……リベル君、そこをどうか頼むよ。出来るのならば助けてくれないかい?このままでは、この国のみんなが死んでしまうよ」




 「頼むリベル、この通りだ!」




 



 リベルの言葉でセシル達は、リベルがこの国に来て間もないことと、大してこの国に執着を持っていないことを改めて実感していた

 


 それでも何とか出来ないかとアルフレッドが頼み、更にはアーグが頭を下げて頼むも、リベルの返答は変わらなかった






 『俺利用されるの大嫌いなんだよね。だから、

なんか利用されるみたいで嫌だなー』

 

 




 以前アルフレッドがリベルを利用するのはやめた方が良いと判断していたが、それは正しい判断だった




 これはアルフレッド達は知る由もないことだが、数多の世界を渡ったリベルは以前、独裁者の国に散々利用された事があったのだ


 そしてその国は結局、利用されている事に気付き酷く不快になったリベルに滅ぼされていた


 その事をきっかけにリベルは利用される事を酷く嫌うようになり、それからそんな事をしてくる者達は皆リベルに嫌われるか、消されていたのだ

 



 その為、まだこの国に来たばかりのリベルからすれば、この状況を利用と捉えても仕方のない事だった 



 何せ現在、リベルがこの国を救う理由など一つもなかったのだ

 



 しかし、当然それで納得する事ができない状況のアルフレッド達







 「頼むよリベル君。それにこの国が攻め込まれたら……カレンさんも危険だよ?」

 

 


 『カレンさん守るくらい楽勝だし。……ねぇ、もしかして、それって俺の事脅してるつもり?』

 

   



   

 リベルの言葉に、部屋の空気がピリついた



 アルフレッドは自分でも分かっていたが、失言をしたと実感して急いで謝罪をする






 「すまない、失言をしたよ。ただリベル君に、

カレンさんを救う気も無いのかと気になってしまっただけなんだ。許してくれ」



  

 『……それなら安心してよ。カレンさんはちゃんと守るからね』

   




 (今の感じ……確かに怒らせたらダメそうね)






 リベルはアルフレッドが嘘を言っていない事が分かるとすぐ元の調子に戻ったが、セシルも一瞬空気が凍りついたのを感じていた


 

 このまま引き止めてはまずいことになりそうだが、それでもリベルが唯一の希望だということは変わらない


 三人がどうしたものかと少し黙っていると、またレインがドアを叩いて入って来た







 「失礼します。アーグさん、以前聞いたカレンさんと言う女性がお会いになりたいと言っていますが……どうしますか?」


 

 

 『え??カレンさん?』




 「!!そ、そうか。通してくれ」






 アーグはレイン達ギルド職員にもカレンの話をしており、訪ねてきたり困っているようなら助けるから伝えろと言っていたのだ


 アーグは突然やって来た、リベルを動かせる唯一の可能性があるカレンが来たと聞き、急いで通すように言った


 セシル達もカレンならばと思い期待をし、変に喋るよりも黙って様子を見守ることにした



 しかしレインが部屋を出てカレンを連れてこようと移動すると、ソファーから起き上がったリベルが口を開いた

 






 『……呼んだの?カレンさん』




 


 ある可能性が頭に浮かび、少し不機嫌になったリベル


 

 アーグはリベルが不機嫌になった理由を悟り、焦って否定した






 「い、いや!!誓って呼んでない!ただ……魔物が攻めて来たという情報が既に国民――カレンさんに伝わっている可能性はある」





 『……ならいいけど』


 

  




 アーグやセシル達がリベルの表情が柔らかくなったのを見て安心していると、カレンがレインに案内されて入って来た



 カレンとセシル達はお互い目が合い、挨拶をしたが、セシル達の雰囲気から何か悟った様だった





 「あ、あの、私この国に魔物が攻めて来るって聞いて……アーグさんに本当なのか聞きに来たんですけど……もしかして本当なんですか?」




 

 『うん!そうだよカレンさん。だからこの国から逃げよ?』

 

 


 「……え??」







 自分の言葉を遮ってそう言うリベルに、カレンは一瞬で困惑してしまっていた



 魔物が攻めて来ると言う情報は既に、この国に行き渡っていた


 魔物が攻めて来ると知らされた国民は当然大騒ぎになっており、カレンはそんな様子からこの国が

心配になり聞きに来たのだ



 だがカレンの目の前には今にも自分の手を引いてこの国を出て行きそうなリベルがおり、カレンは混乱する


   




 「逃げるって…………セシルさん達も逃げるんですか?」




 「いえ。私達はこの国に仕えると決めて、王――陛下からの学園代表の件を受けました。なのでこの国を見捨てる気はありません」





 「私もセシルと同じくですよ」







 セシルとアルフレッドがこの国に留まっていたのは、国の雰囲気と陛下自身を気に入っていた為だった。二人は直接的にではないが、この国――陛下に仕えていたのだ


 その為二人とも逃げるつもりなど毛頭なく、この国を守るつもりだと言う事をカレンに伝える







 「え、えっと……それじゃあリベルはなんで――」




 『なんかね、魔物が一万くらい来てるから勝てないんだってさ。だから国が滅ぶ前に一緒に逃げよ?』




 「い、一万!?……この国は、どうなるんですか?」




 「それは……私達だけで一万を抑えるのは流石に無理なので……被害は甚大なものになるかと」





 「カレンさん!どうにかリベルに、この国を救ってくれるよう頼んでくれねーか!?」




 



 セシルの言葉で息を呑んでいたカレンに、アーグが急に頭を下げた。自分より立場が上の者にも滅多に頭を下げないアーグが、カレンを相手に下げたのだ







 「えっ、ど、どういう事ですか?」







 ギルドマスターであるアーグに頭を下げられた事で困惑したカレンは、セシルに助けを求めるような目を向ける

 


 セシルはチラッとリベルに目を向け、別に気にしていない様子だったので大丈夫だろう思い、今までの会話の内容をカレンに伝えた


 それにはカレンだけでなく、カレンを部屋に案内したまま聞いていたレインも、驚きを隠せていなかった






 「あと三時間しかないなんて……そ、それにリベル。今の話は本当なの?」




 『ん??あぁ、魔物をどうにか出来るって話?

それなら本当だよ。全部倒せばいいだけだし』





 (倒せばって……私達じゃ倒せないんだけどね)





 「じゃあ、なんで私に逃げようって言ったの?」


 




 『え??だってめんどくさいもん。それに、なんか利用されるみたいじゃない?だから魔物倒すの嫌だったんだよね』




 

 「「…………」」

 

 




 先程と同じことを言っているリベルに、カレンやレイン、アーグ達も再び黙ってしまう



 アーグ、セシル、アルフレッドは、一言も喋る事なく、ただ祈る様にカレンを見守っていた




 一方、カレンはリベルの言う、利用されるみたい――という言葉の意味を理解していた


 アルフレッドよりも強く、一人でも逃げられる力を持っているリベルからすれば、来て数日しか経っていないこの国を守る理由がないのだろうと思考していた





 しかし――

 





 「リベル。リベルがどうして私を助けようとしてくれるのかは分からないけど、私はこの国から逃げるつもりはないの」





 

 カレンはこの国から離れる気はなかったようだ

 

 何故そんなことを言うのか全く理解出来ないリベルが理由を尋ねると、カレンはソファーに座っているリベルを見ながら微笑んで答える






 「私はこの国で育ったの。もう両親はいないけど、それでもこの国が私の思い出の場所なの。どうせ私だけじゃ逃げ切れないだろうし、もし逃げれても、他の国で今までのようには生活出来ないだろうしね。……それに、私もセシルさん達と同じでこの国が好きなのよ」






 『……親死んだの?……いつ??』




 「五年前、私がリベルくらいの時ね」







 何故か親が死んだということに反応して尋ねるリベルだったが、カレンは笑顔のまま答える


 五年前と聞いたリベルはソファーに倒れ込み、

天井を見つめるように寝転がった





 

 

 「それでも、私は両親と過ごしたこの国が大好きなの。だからもし滅ぶなら、私はこの国に残るわ」




 『……俺、他の国でも過ごせるくらいお金あると思うよ?それでも?』

 



 「そうね。だから、リベルがもしこの国を救えるなら……私は救ってほしいかな」







 カレンの言葉に全員が息を呑み、リベルを恐る恐る見つめていた



 リベルの答え次第で国の存亡が変わると、後から来たレインまでもが既に理解していたのだ






 『…………それは誰の意思?アーグさんにお願いされたからそう言ってるの?』



 


 


 リベルの言葉に眉を顰めて耳を傾けるセシル達と、名前を出されて少し反応してしまうアーグ



 セシルは何故そんなことを聞くのかと少し疑問に思ったが口にすることはなく、ただカレンの言葉を黙って聞いていた



 



 「これは私の意志で、私のお願いよ。もちろん命が関わることだから、リベルに強要することは出来ないけどね」




 『俺がそのお願いを聞かなかったら?聞くか分からないよ?』

 



 「フフッ、そうね。でも私はリベルを恨んだりはしないわよ?私がこの国に残るって決めたみたいに、自分の意思は自分の自由だからね」

 

 





 皆が黙ってリベルの答えを待っている



 すると、リベルはカレンの顔をマジマジと見ながら黙っていたと思いきや、急に声を上げて笑い出した





 

 『アハハハハハハ!!そうだね。だよね。流石カレンさん、アハハハハハ!』


 





 カレンを含めたセシル達一同は、リベルが急に笑い出した理由が分からずに困惑する


 セシルは何も笑う要素など無かったので不思議に思ったが、結局答えはどっちなのかと、呼吸を忘れるほどに意識を集中してリベルを見ていた







 『——いいよ、魔物は俺が倒してあげるよ』


 


 「ほ、本当かリベル!?本当にいいのか!?」







 良い返事が聞けたことに反応して、アーグが勢いよく立ち上がった


 アルフレッドやセシルも、ホッと息を吐いて安心していた





 

 『うん、どうせカレンさんが頼んだ時点で決まってたしね』




 「そ、そうか!!それは良かった。それじゃあ騎士団と協力して――」




 『それはいいや、俺一人でやるから』




 「!?」


 

 

 アーグを遮ってそう言ったリベルに、皆何を言っているんだという目を向ける


 アーグは自分が聞き間違ったのかと思い、今なんと言ったか尋ねるが、リベルの返答は変わらない







 『だから、俺一人でやるよ。まぁ、参加したいって言うなら別にいいけど、その騎士団?って人達が巻き込まれて死んでも、俺は知らないからね?』





 「そ、そうか。そんなに激しい戦闘になるのか……それじゃあセシル達だけで――」





 『いや、だから俺一人だって。セシルさん達がどうしても戦いたいなら戦っても良いけど……正直

セシルさん達がいなくても結果は変わらないしね』






 

 リベルの言葉に驚愕する一同


 てっきりリベルが協力すれば勝てるだろう、と言うことだと思っていたアーグやレイン、カレンは、リベルが一人で一万もの魔物を相手にしようとしていることに気付き、目が飛び出る様な思いでリベルを見つめていた



 それはセシルとアルフレッドも同様で、自分達まで必要ないと言われたことに驚いていた







 「ほ、本当に一人で戦う気なの?」

 



 『うん。だって雑魚の魔物が一万くらいでしょ?大丈夫だよ。あっ、そうだ!やっぱり騎士団の人達は呼んでよ』




 「それは町に被害が出ないように呼ぶが……一応、理由を教えてくれるか?」




 『カレンさん。前カレンさんの店に行った時さ、確か国に出回る肉がどうとか言ってたよね?』





 

 実は頻繁にカレンの店に訪れていたリベルは、

以前カレンがそう言っていたことを思い出した


 学園の食堂からセシルへ報告書が行っていたように、最近魔物の肉自体が少なくなって来ていたのだ

 


 それでカレンも困っていたことを思い出したリベルは、これは良い機会だと考える






 「そうね。最近食材が減ってたから……」

 



 『だから、俺が倒した魔物の死体を全部カレンさんに渡してよ。そしたら解決するでしょ?』





 「え!?リ、リベル。なんでそんなこと……」


 



 「つまり……騎士団達を死体処理に使うってことか?」




 『そうだね。別に良いでしょ?ていうか、そうしないと俺、魔物倒さないかもね』

 






 そう言われては頷くしか選択肢がないアーグ


 騎士団から後で反発がありそうだが、騎士団ではどうしようもないことなのも、また事実だった



 その為仕方がないだろうと思い、アーグはリベルの提案を割とすんなり受け入れていた



 一方、リベルが協力してくれる事で少し状況が落ち着いた為、セシルは慌てふためいている国民をどうにかしようと提案した



 カレンが心配して来る程なのだから、外はもう大騒ぎだろうと予想していたのだ


 騒ぎを続ければ何が起こるかなど分かったものではなかったので、まず国民を落ち着かせるのが先決だろうとセシルは考えていた






 「そうだね。それに、きっと学園内も騒ぎになっているだろうし……一度学園に行って、みんなに大丈夫だと言って聞かせたほうがいいね」



 

 『あ、それなら俺も学園に行ってちょっと寝るからさ。魔物が国に結構近付いたら連絡してよ。その方が死体取りやすいでしょ?』





 (ね、寝るって……い、いや。もうそんな事で驚いちゃダメよ。相手はリベルなんだから……それに、英気を休めるのかもしれないし)






 「ア、アハハハ。そうかい、それならまた後でね。じっくり休んでくれ」

 




 『じゃあ行くね。あ、後レインさんとカレンさんは、危ないからアーグさん達といてね』

 




 「は、はい」




 「わ、分かったわ」

 





 レインとカレンは、リベルの言葉をすんなり受け入れていた


 二人はてっきり、何か戦いの余波のようなものが来るのかもしれないと思い受け入れたのだが、リベルはただ単にアーグといれば大丈夫だろうと思っただけだった




 実はリベル、冒険者の依頼で共に数日過ごした事などからレインの事も結構気に入っていた


 

 それこそ、レインが頼んでも大丈夫だったのでは?――と思える程、リベルはレインを気に入っていたのだ


 



 そんなリベルの部屋を出て行く後ろ姿を見送り、残った五人――アーグ、セシル、アルフレッド、カレン、レインは、解決の糸口が見えたことで少し緊張が解けた様だった






 「いやー、本当に助かりましたよカレンさん。

カレンさんが来ていなければ、帰ろうとするリベル君を止められてませんでした」




 「えっ、そんなにだったんですか?」

 



 「そうなんですよ。カレンさんの所に行くって帰ろうとするリベルを、私達がなんとか止めてたんですけど……アルフレッドが少し怒らせちゃって――」




 「アハハハ。いやー、あれは失言だって分かってたんだけどね。つい聞いてしまったよ」




 「何笑ってんのよ!アンタだって空気が変わったの気付いたでしょ!?あれは危なかったんじゃないの!?」




 「何か言ったんですか?」


  





 ヘラヘラしているアルフレッドに文句を言っていたセシルが、カレンにその時の事を説明をした



 そして、カレンの名前を出したことで少し脅すような形になってしまったことを、説明しながらカレンに謝罪した


 カレンは頭を下げるアルフレッド達を慌てて止め、謝罪は不要だと言う事と、役に立てて良かったと伝えていた




 

 するとレインが――






 「でも……アーグさんから聞いていましたけど、なんでカレンさんはリベル君に気に入られてるんですかね?知り合い――という訳でもないんですよね?」

 





 皆が内心ずっと気にしていた事を口に出した


 そんなこと、セシル達は幾度か考えた事だったが答えなど出るはずもなく、理由は不明のままだった






 「そ、それは私にも……」




 「カレンさんにも心当たりはないみたいだし、

そんなことリベルにしか分からないだろうな。だが、最後の言葉からするとレインも気に入られてるんじゃないか?お前も満更でもないなら、そっちの方で頑張ってくれ」


 


 「あ、アーグさん!!なんて事言うんですか!」




 「フフッ、レインさんお綺麗ですし、きっと大丈夫ですよ」




 「カ、カレンさんもからかわないでください。

それに、私はカレンさんこそお綺麗だと思いますよ?」






 実は部屋に来る前、レインがカレンを知っていたということもあり少し話していた二人は、既に会話出来るくらい親しくなっていた



 逆に、レインがもう少し話をせず案内していれば、アルフレッドがあんな事を言う前にカレンはこの部屋へ来れていただろうが—…




 


 「アハハハ。二人とも美人ということで良いんじゃないかな?それにリベル君が恋愛事に興味があるとすれば、あんな見た目と実力で、わざわざ相手を一人に絞る必要はないだろう?そうだ、セシルも混ざったらどうだい?授業中膝枕してたみたいだし」





 「あ??そうなのか?なら、セシルも入って三人か……」




 「あ、アーグさん!?ちょっと、何言ってくれてんのよアルフレッド!!」






 

 顔を赤くしたセシルがアルフレッドを殴り、五人はとても国に危機が迫っているなど感じさせない程楽しんでしまっていた



 皆、リベルが対応すると言っただけで何故か妙に安心出来てしまっていたのだ


 


 話がひと段落したアーグが騎士団に連絡した時、既に魔物達がこの国に到着するまで、残り二時間を切っていた――







  *****












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