冒険者ギルド——リベル——





   


 




 時は少し遡りリベルがゲルダ達に絡まれたあたり



 オーガを倒して戻ってきたリベルは現在、自分でもよく分からない状況に陥っていた






 (なにこの人達……)


 


 

 「――――有効活用してやるよ」



   


 (有効活用……作り直す気なのかな?この剣はもう完璧なんだから無理だよ??)





 『え??何言ってんの?』

 





 これまでリベルはこのような調子で話して来られたことなど滅多になかった。その為リベルはゲルダ達が笑っている理由も、言っている言葉の意味も分からずに困惑していた






 (何この人……どう言う事?)





 「――安心しろ、売ったりはしないからな。ハァーハハ!!」



 



 (はぁ??売る?もしかして俺の武器を売るって言ってんの?……でも嘘は……)







 リベルはゲルダ達が嘘をついていないと分かっていた。その為本心から言っているであろう言葉に、余計意味が分からなくなってしまう







 『冗談いいから返してよ』



 

 「――小遣いでもやるからよ」





 (……まさかこの人……俺の武器奪うつもり?)



 

 「ゲルダさん!その武器はリベルさんの物です。早く返してください!」」




 

 ゲルダの狙いを疑問程度に思い浮かべていたリベル。しかしその疑問はレインが焦って止めに入った事で確信に変わる。それと同時に先程まで分からなかった謎が、段々と正確に解けていった






 (ってことはさっきのは全部冗談じゃなくて本気で言ってたってこと?武器を奪うって言って俺のこと馬鹿にしてたの?…………舐めてるのか?



 

 


 


 そう確信したリベルは、ゲルダ達の笑い声を他所に自身の感情の渦に呑まれていった




 ——実はリベル、ある程度実力を出す戦闘時や、苦痛、不快感、怒り、絶望など のが湧くと性格が一変し、しまうのだ




 

  

 (俺の武器を奪うだと?……殺してやろうか?)





 『返せ』


 

 「あ?なんかいったか?」



 


 

 リベルは詰め寄るゲルダを、ジッと黒い瞳で見つめていた。しかしその心には、カレンと話していた時のような感情など一切なく、武器を奪おうとしているゲルダ達への不快感一色だった

 





 『返せ』



 「なんだこのガキ?随分と口の聞き方がなってねぇなぁ。お前らそう思わないか?」



 「あぁ、生意気なガキだ」



 「返すかよ、バーカ!」



 



 ここでもし返していれば、リベルは許していたかもしれない。その可能性は極僅かでも、確かに存在していた

 


 しかしリベルの雰囲気が変わった事など気付かないゲルダと仲間達は、リベルの口調が気に食わず、ニヤけた顔を近づけて挑発している



 




 (コイツ、好き勝手言いやがって……)

 



 『バカだと?お前……それ俺に言ってんのか??』



 

 「!!リベルさん、お待ちください!」



 「なんだこい——ぶはッ!!」



 「お、おいクソガ——グッ!!」

 

 




 リベルの変化に気付いたレインが必死に止めようと声をかけるが、もう遅い。何故ならレインの声は、リベルには全く届いていなかったのだ



 リベルの言葉にゲルダの仲間二人が文句を言おうと近付いた途端、二人は吹き飛ばされてしまった。シンプルな拳と足による打撃によって飛ばされた二人は、受付広場両サイドの壁に激しく激突して、既に気を失っている



 しかしリベルを相手にこの程度で済んだのは、二人にとっての幸運だった







 「!?おっ、おいガキ!何しやがん――ガ!!」




 『黙れ』






 リベルは吹き飛んだ仲間を見て驚き、文句を言っていたゲルダの頭を勢いよく床に叩きつけた



 その衝撃で床は砕け、破片が辺りに飛び散った



  


 『返せよ』





 静寂に包まれたギルドの中には、ゲルダの頭を掴んだままそう言うリベルの、ただ静かな声が響いていた



 しかしそこに、幸か不幸か、リベルが帰った来たと報告を受けたアーグが到着する




 ——アーグはリベルが帰って来たと聞き、時間的に早いなとは思ったものの、高ランク冒険者なら急げば可能だろうとも思いあまり深く考えなかった


アーグはスピードに自信があるタイプではなかったが、Sランク以上の者にはそういったことも出来そうだと心当たりがあったのだ


 なので然程そこには拘らず部屋を出て来たアーグだったが、受付へ向かっている途中で大きな音が聞こえて来た。途端に嫌な予感がしたアーグは急いで受付に向かい、現在に至っていた——




 だが受付に着いたアーグの目に映ったのは、とても信じたくない光景だっただろう



 ギルド両側の壁で気絶している二人


 床に頭を叩きつけられているゲルダ



 そして……しゃがんでその頭を、片手で鷲掴みにしているリベル

 


この状況を見れば嫌でもリベルがやったのだと理解できてしまうアーグは、内心毒づいた







 「アーグさん!!」



 「レイン、どうなってる!?何でこうなった!」


 


 「ゲルダさん達がリベルさんの剣を奪おうとして!!」



 「クソ、あのバカ野郎が……」






 レインの報告を聞いたアーグはやはり揉めたのかと確信すると、最悪な気分になった


 

 しかしリベルはアーグなど視界にも入っておらず、ゲルダの頭を掴んだ手を再び上げ、振り下ろそうとする




 


 「リベル、やめろ!」






 アーグの静止する声はレイン同様、リベルには全く届かない。リベルはゲルダの頭を一度だけでなく、続けて連続で叩きつけだした


 その痛々しい音がギルド内に響きだし、レインを含めたギルド職員は皆その光景を、ただ目を見開いて見つめていた



 こんな状況になってしまうと、ギルド職員ではどうやっても止めることなど出来なかった


 アーグは自分しか止められる者がいないと瞬時に理解し、レインに向かって指示を出した






 「レイン!ギルドを閉鎖しろ!!ここに誰も人を入れるな!!」



 


 「はっ、はい!」







 指示されたレインは他の職員達と急いでギルドを閉鎖する為動き出す。こんな所に誰かが入って来たらどうなるか分かったものではないし、受付もそれどころではなかったので良い判断だろう

 


 幸いな事に現在ゲルダ達以外はギルド職員しかいなかった



 指示を出したアーグはすぐさまリベルの元まで向かう






 「リベル、やめろ!!そいつが死んじまう」



 『死なねーよ。回復しながらやってるからな』



 



 ゲルダの頭を掴みながらそう言うリベルの表情を見て、アーグは手遅れだと悟った。何故ならその口調は、アーグが数時間前話したものとはまるで違う物だったからだ

 


 そしてあれほど叩きつけられているのにゲルダが死んでいないのは、リベルが回復魔法をかけていたからであった。まだリベルに殺す気はなかったのが、ゲルダの命を長引かせていた






 

 『剣を返さないコイツが悪い』




 「あぁ、確かにそうだ。だがそいつはもう意識がない!!分かるだろ!?」




 『だからなんだ?こいつを殺すことは変わらない』






 そう言ってもう一度——しかしさっきより高くゲルダの頭を持った手を振り上げたリベル


 だがそれをアーグが見過ごせる訳が無く、咄嗟にリベルの腕を掴んで止めた



 




 「やめろ!それに武器なら、そいつの手からればいいだろ!?」







 頭を叩きつけられて気絶していたゲルダだが、その手にはまだ剣が触れていた。一瞬にしてやられたからなのか、はたまた剣を握っていた手に焦って力を入れたからなのか分からないが、まだ確かに剣を軽く握っていた






 『離せよ。それに奪うだと?お前は一体何を言ってんだ??これは俺の剣だぞ?』




 「!!」



 『俺は武器を見せてやるためにんだ。分かるか?んだよ。それを俺に、だと?まるで俺が盗むみたいじゃねーか。…………おい、起きろよ。傷は全部治してんだよ、なぁ!?』







 アーグの手を振り払ったリベルは気絶しているゲルダを強く揺さぶり、叩いて起こそうとしている。すると数回顔を叩かれたゲルダは意識を取り戻し、うっすらと目を開いた






 「うぅ……」




 『おい、剣を




 「ヒ、ヒィッ!わ、悪かっ——す、すいませんでした!剣は返すので許してください!!」





 頭を掴んだまま無表情で手を差し出し見つめるリベルに、ゲルダは心底怯えている様子だった


そんなゲルダは早口で謝り、剣を両手で持って丁寧に返す


 すると、リベルは頭を離し、返ってきた剣を振り上げて言い放つ——





 『あぁ、じゃあ死ね』



 「あぁ……や、やめてくれ!」



 

 そう言って振り下ろそうとした剣はゲルダの顔に向かっており、リベルは許さず殺す気だった


 だがまたアーグが腕を掴み、必死にそれを止めた







 「やめろ!確かにコイツが全部悪いが殺すことはないだろ!?見逃してやってくれねぇか!?」




 『はぁ??俺が殺すって決めたんだから、殺すに決まってんだろ。……そういえばお前、俺に嘘をついてたよな?』





 アーグが必死に止めて、しゃがんでいるリベルの肩に手を置いて動かそうとするが、びくともしない


しかしそのせいで怒りの矛先がアーグにも、向いてしまった



 嘘が何故バレているのかと驚いたアーグだが、リベルは[真実の眼]という能力により嘘を判別出来てしまうのだった。その為アーグが二次試験などと嘘をついていることが分かり、嘘をつかれたことに対して先程も少し気分を害してしまっていたのだ



 その事を思い出し、アーグにも意識が向いてしまったリベル


 アーグは何故嘘がバレたのかなど知らないが、とにかく今がまずい状況だということは分かっていた







 「待てリベル!!あれはお前を確かめるために――」



 『嘘ついた上に、さっきからうるせぇよ。お前も死んどくか?』






 その言葉と同時に殺気を向けられてしまったアーグ。それはまるで死を予感させるかの様な凄まじさで、アーグは瞬時に実力差を悟った


 が、ギルドマスターのアーグがゲルダを見捨てる訳にはいかない







 「頼む、なんとか怒りを収めてくれないか?」




 『無理だな。俺は今凄く不愉快だ。何で俺が怒りを我慢しないといけないんだ?それともお前がストレス発散の相手にでもなるか?』




 「そ、それは……」

   





 アーグは元Aランク冒険者で自分の実力を正確に把握していた。その為リベルに殺気を向けられた今、とても相手を出来るとは思えなかった


 例え現役の頃でも相手にならなそうだと思い、アーグはどうしたものかと思考を巡らせる


  

 しかし丁度その時、封鎖していた筈の入り口から一人の男が入って来た




 


 「それなら私が相手をしよう。それでいいかい?——リベル君?」





 その男は、リベルがオーガを倒しに行った後、アーグが連絡を取った相手だった。ギルドに居るはずのないその人物の登場に、アーグは驚くと同時に安堵する


それはこの男が来たからには、これで大丈夫だろうと思ったからだ



 アーグが一目見て安心する、男はそれ程の実力者だった——







 『あ?誰だよお前』



 

 「私かい?私はSランク冒険者をしている——【閃光】のアルフレッドだ」




 


 リベルの前まで歩く男——アルフレッドは、顔に笑みを浮かべてそう言った

 





 ——————————


 



 リベル 昔の呼称[???]


 

《 判明プロフィール》



 能力 (技では無い)


[真実の眼]

 


 武器 : 【宝剣アダム】



 

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