パルメシア王国








カレンと別れたリベルは、先程買った肉を食べながら機嫌良く大通りを歩いていた


 その足取りは軽やかなもので、リベルは笑顔で肉に食らい付いていた






 (フフッ、名前を褒められると嬉しいな。そういえば他人に名前呼ばれた事なんて、あんまり無かったからなー。……フフッ、それにこの肉凄く美味しい。流石カレンさん)




 


 実はリベルの名前は親ではなく、昔出会った、ある人に付けてもらったものだった



 そう。それは遠い昔のこと……リベルが生まれた世界での出会いだった——





 


 ――「あなた、名前が無いの?」



 

 『ないと思う。―――ってしか呼ばれたことない……』






 昔のことを少し思い出していたリベルは不意に、昔その人と喋った会話を頭に思い浮かべていた






 「そうだったの……じゃあ、私が名前を付けてもいいかしら?」





 (名前……か)

 




 『…………うん。付けていい』




 「フフッ、ありがとね。うーん、そうねー……

あっ、リベル!リベルなんて名前はどうかしら?」



 『リベル?』



 「そう!自由を意味する名前よ。前言ったでしょ?自由に生きてほしい、って。……嫌だった?」



 『嫌じゃない。……リベル……ありがとう。覚えとくよ』



 「フフッ、よかった」――




 



 リベルはあの人に付けてもらった名前を物凄く気に入っていた。名前自体も気に入っていたが、あの人につけてもらった名前だからこそ価値があり、気に入っていたのだ。その為この国に来てから、今までそれほど他人に呼ばれもしなかった名前を褒められて、リベルはとても嬉しかったのだ


 そんなリベルは、遠い過去の記憶を思い出しながら微笑んでいる






(カレンさん……いい人だったな。あんまり分かんなかったけどお金のことも教えてもらったし……まぁ、なんとかなるでしょ。————フフッ)


 





 カレンもリベルのことを思い出して笑っていたが、同様にリベルもカレンのことを思い出しながら笑顔になっていた


 リベルは恐らく、この大きな国に留まることになるだろうと内心思い、周りを見てこれからどこに行こうかと考えていた






 『あれだね、拠点が必要だね。名前なんて言ったっけ?』





 (前に何回か泊めてもらった所……なんだっけ? ……無理だ、思い出せないや。なら——)





 『すいませーん。俺この国に初めて来たんですけど、泊まるところってどこですか?』




 



 思い出せなかったリベルは歩いている老人に質問をすることにした


分からないことを考えても時間の無駄なので聞けばいいと、考えることが嫌いなリベルは一瞬で結論を出していた






 「なんじゃ坊や、パルメシア王国は初めてかい?」



 『はい。この国パルメシア王国っていうんですね。それでどこに行けばいいですか?』






 リベルは老人に対して丁寧な口調で接していた—



 



 「そうじゃなー、沢山あるからのう……」


 


 『そこって多分料理食べれるでしょ?料理おいしいところがいいんだよね』





 

  が、すぐ元の口調に戻ってしまう。これでもリベルにしては頑張った方だったのだ。リベルは口調が戻ったことにも気付かず、話しを続けている


老人もリベルの口調など特に気にならなかったのか——それとも気付いていないのか、先程と変わらず話し続ける






 「そうかい。料理がおいしいところなら……

あっちの方にある《白猫の宿》かのー」


 



 『白猫??猫いるの?』




「確か獣人の者がやっている宿だった気がしたのうー」


 

 『獣人いるの!?ありがとう、そこに行ってみるよ』



 「ホッホッホッ。達者でな」


 

 『うん!バイバイ』






 (獣人もいるのか。他には何がいるんだろ?

……フフッ、この世界は楽しそうだから色々聞いて回ろっと)




 


 ——老人と別れたリベルは教えられた場所へ向けてしばらくの間歩いていた。途中で何度か迷いそうになったが、他の人に話を聞いてなんとか到着することが出来ていた

 




 

 (……ここかな?)






 その宿は新しくはないが、それでいて綺麗な外装をしている。宿屋の前に立って外装を見ていたリベルは、少し立ち止まってから元気に中に入って行った




 

 

 『こんにちはーー!!』




 「いらっしゃい。泊まりかい?」







 リベルが扉を開けると、頭に耳の生えた女性がエプロンをしたまま奥から出てきた。客であるリベルに笑顔で接している。獣人の女性はテーブルに座ったリベルに水を出しながら尋ねていた






 『うん、料理がおいしかったら泊まろうと思ってるんだよね。だからまずお昼ご飯食べてから決めよっかな』




「あら、そうかい?それじゃあ腕に寄りをかけてつくらないとね。メニューはおまかせでいいかい?」



 『いいよー』






 街も繁盛し、宿の数も多いこの国では、宿を料理で選ぶことはそれ程珍しいことではなかった。他にも部屋を気にする者は多いが、大半の客は依頼や戦闘を終えてくる冒険者だったので、なんだかんだ料理の味が一番大事にされていた


疲れた後の食事ほど癒されることはないのだろう



 注文を取った獣人の女性は、料理を作るため笑顔を向けてから厨房へと向かって行った







 (……人みたいな獣人だったなぁ。人に耳と尻尾が生えただけみたい……もっとずっと獣っぽいの想像してたよ)






 リベルは宿に着く前、この国――この世界のことも聞きながら歩いていた。その結果、この世界では獣人、エルフ、ドワーフなどが人間と関わる主な種族だということが分かっていた。他にも人とあまり関わらず独自の生活をしている種族は多く、その個体は少なくとも、様々な種族が存在しているとも言われていた


 ずっと国に住んで暮らしている普通の住人からは、そこまでの情報が限界の様だった


 しかしリベルは別に気にしておらず、分かったことだけで満足していた



 ——リベルが道中聞いたことを思い返していると料理が運ばれて来た。その料理はとても美味しく、リベルはガツガツと食べていった。皿の上の料理がどんどん減っていく




 


 「それでここは合格かい?」


 

 『うん!合格!!』

 


 「そいつは良かった。それで何泊していくんだい?」




 『これ一枚で泊まれるだけ泊まるよ』


 




 リベルは料理を食べながら金貨を一枚、テーブルに置いた


獣人の女性はカレン同様、出された金貨に少し驚いている


 先程も同じだが、そもそも出店やこういう宿で金貨を出す者自体が稀だったのだ


 しかしリベルは金貨しか持っていないので、金貨を出す他ない






 「おや、金貨を持ってるのかい?それなら料理代を払ってもしばらく泊まれるね。……それにしてもその歳で金貨を持ってるなんて、坊やは冒険者なのかい?」


 


 『坊やじゃなくてリベルだよ。……16歳なんだから坊やじゃない』


 


 「それは失礼しちゃったね。ごめんねリベル」



 

 『いいよ。それより冒険者ってなに?』





 (冒険者……あまり聞いたことないけど忘れてるだけかな?……まぁどっちでもいいか)






 リベルは坊やと言われたことが気に入らず獣人の女性に言い付けるが、すぐに謝罪されたことで然程気分は害さなかった



 そんな事よりもリベルは、聞いた覚えのない

[冒険者]という言葉に反応していた。過去の記憶を思い返しても見るが、それらしきことは全く覚えていなかった





 「あら、違うのかい?そうねぇ……冒険者っていうのは依頼を受けて魔物を倒したり、ダンジョンを攻略したりする人達のことよ。まぁ自由な事をする職業みたいなもんだね」




 『それやりたい!どこに行けばなれるの!?』






 [自由]と[ダンジョン]という言葉に即座に興味を持つリベル


自由にしか生きないリベルからすれば今の説明だけでも、その冒険者に興味を持つには十分だった


それにダンジョンという単語にも、自分でも何故かは分からないが興味をそそられていた

 





 「あっちにある冒険者ギルドに行けばなれるけど、危ないわよ?」




 『大丈夫だよ、俺強いからね。それじゃあ今から行ってくるからまた後で帰って来るね!』


 


 「はいよ、行ってらっしゃい」



 



 既に食事を食べ終わっていたリベルはすぐに席を立ち歩き出した。獣人の女性の、あまり言われた事のない言葉を背に、リベルは冒険者ギルドに向けて宿を出て行く






 *****






 

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