出会い
この広大な王国には広く長い無数の街道があり、至る所に家や店があった。特に門から真っ直ぐ伸びている広い街道には沢山の出店が構えており、買い物や立ち食いする人に溢れていた
その中の出店の一つを営んでいる女性――カレンは、客に買われない肉串を見ながら溜め息を漏らしていた
「ハァーー」
(今日はあまりお客が来ないわね。これじゃ今日は赤字になりそうだわ)
そんな事を思っているカレンの所に、この国に入国して間もないリベルが大好きな肉の匂いに釣られてやって来た
『すいませーん。この肉ください』
「いらっしゃい。あら、随分カッコいいお客さんね。是非沢山買って行ってね」
『かっこいいだなんて、テレるな〜。フフッ、それじゃあお望み通り沢山買ってあげるよ!』
カレンは、女性が思わず見惚れてしまうような顔をしているリベルを褒めた。それは嘘偽りのない、カレンの本心からの言葉だった
褒められたリベルは、まるで見えない尻尾を振っているかのように嬉がっている。カレンはそんなリベルに微笑ましさを感じながら、お客として接する
「フフッ、ありがとね。それじゃあ何本買っていってくれるのかしら」
『焼いてるやつ全部!!』
リベルはお金の価値を知らない筈だが、胸を張りながら自信満々に言い放った。値段など全くもって気にしていない様子だ
カレンはそんなリベルに可愛さを感じながら、全部で眼科二十枚だと伝えた
すると——
『あっ、丁度今二十枚あるんだよね。はい、二十枚』
「!これ金貨じゃない!?金貨なら一枚でもお釣りがくるわよ?……あなたお金のこと分からないの?」
リベルは袋から金色に輝く硬貨を二十枚出してみせた。二十枚あることを自分で確認してから、その袋ごとカレンに向かって差し出している
しかしそれは、銀貨とは価値が全く違うものだった。周囲ではリベルの容姿に見惚れていた者などが驚いている
思わず女性が見惚れるような顔立ちの少年が金貨をあんなに持っていれば、仕方がないことだろう
周りの女性にはあわよくばなどという考えを抱いたりしている者もいたが、リベルは周りなど全く気にしていなかった
『え??そうなの?実はお金って今まであんまり使ったことないんだよねー。これも今日初めて貰ったしさ』
(貴族の家で大切にされていたのかしら……でも貴族の服装には見えないけど……)
大金である筈の金貨二十枚を何の未練もないように軽く出すリベルに、カレンはふと疑問に思った。少年はこの国の住民とは少し違うような服装だった。最初は他国から来た貴族かとも思ったが、そんな者が一人でうろつく筈もないし、そもそも貴族の服装には見えなかった
考えてもよく分からないので考えるのを止め、カレンは金貨一枚から貰うと言って残りを返す
袋を受け取ったリベルは思いついたように、カレンにお金のことを教えてくれとお願いする
(確かにお金のこと分からないと大変……よね?)
そう思ったカレンがリベルにお金の説明をする。
この世界のお金は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の硬貨で分かれている
価値としては十銅貨=一銀貨、百銀貨=一金貨、千金貨=一白金貨だ。しかし白金貨など、カレンはもちろん一般の者には——貴族以外の者には縁のない話だった
カレンの説明を聞いたリベルはどうやら白金貨が最強だという認識をしたようで、カレンに向かって『最強なのが白金貨なんだね』——と笑いかけていた
「フフッ、まぁ意味的にはそうなるわね。はい、お釣りと串焼き全部よ。今日はお客さんがあんまり来なくて困ってたんだけど、おかげで売り切れまで売れたわ。ありがとね」
『こっちこそ色々ありがとうだよ!そうだ、お姉さん優しいからお釣りは全部あげるよ』
「え!?でもこれも結構なお金なのよ?」
『うん、あげるよ』
(嬉しいけど……お金の価値を知らないこの子から貰うような気がして……申し訳ないわ)
他の者達が言われたら喜んで受け取りそうな所だが、カレンは支払って余りあるほどのお釣りをくれると言うリベルになんだか申し訳なさを感じていた
カレンは申し訳ないから受け取れないとリベルに返そうとするが、リベルはそれを全然受け取らなかった
『まだ十九枚もあるし気にしなくて大丈夫だよ。』
「……本当にいいの?」
『うん。それに俺、今気分いいんだよねー。……何でだと思う?』
「あら、何かあったのかしら?」
肉を一串食べながら嬉しそうに——聞いて欲しそうにカレンをチラチラ見て話すリベル。カレンはそんな様子に笑いながら尋ねると、リベルは待ってましたとばかりに目を輝かせて答える
『気になる?フフッ、実は俺の名前を褒めてもらったんだよねー。いやー、いい名前貰ったからなー』
「フフッ、そうだったの。じゃあ私にも名前を教えてくれるかしら?」
『リベル!リベルっていうんだよ。どう?どう思う?』
(自分の名前が好きなのね)
カレンは自分の名前を嬉しそうに名乗るリベルにまた微笑ましさを感じた。リベルはカレンの方に身を乗り出し、鮮やかに輝く瞳でカレンを見つめている
「リベル、確かに良い名前じゃない。私もリベルのこと覚えておこうかな」
『でしょでしょ!?フフフフ。あっ!そういえばお姉さんはなんて名前なの?』
カレンは普段もお客と話すことはあるが、ここまで長々と会話をすることはなかった。普段の会話はちょっとした挨拶や世間話など、どれも接客で話すようなことばかりだった。なのでカレンは、リベルとの会話に心から楽しさを感じていたのだ
「私はカレンよ」
『カレンさん……うん、俺も覚えとくね!何かあったら俺のこと頼っちゃっていいよ!!』
リベルは自分の胸を叩きながら自信満々に頼れと言っていた
「フフッ、ありがとね。それじゃあ何か困ったらリベルに頼っちゃおっかな」
『うん!任せてよ。それじゃあまたね』
「えぇ、またね」
カレンはご機嫌という感じで去っていくリベルの後ろ姿を見送った。姿が遠くなってからも、リベルの明るい笑顔を思い出しながら微笑んでいた
(フフッ、可愛いお客さんができたわね。それにリベルと話していると、なんだか心が落ち着くわ)
そう思ったカレンはリベルに、まるで自分の子供のような感情を抱いていた。見た目とは裏腹に、喋ると可愛いかったな——などカレンは思い出し笑いをしながら、売る物が無くなった店の片付けを始めた
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