諦められぬ事


 






 国王であるレクスとの話を終えた翌日、セシルはアルフレッドと共にリベルの担任であり信用が置けるダルフに事情を説明し、リベルの元へ行く為教室へ向かうダルフと共に歩いていた



 リベルが回復魔法を使えると聞いたダルフの反応は当然驚愕だったが、Sランク二人が嘘をつくとは思えず、事実だと判断していた



 セシル達も驚くのは無理もないと思っていたのでダルフに同情し、リベルに頼みをする為一緒に着いていくと言って歩いていたのだ——




 

 「……アルフレッド。昨日の話は覚えてるんでしょうね?」




 

 昨日の話——レクスの元から移動した二人が、リベルにどう頼んだものかと話したことだ。二人は悩みに悩んだが、リベルを不機嫌にするまでは頼まず、何日も掛けて誠心誠意頼んで行こうと話を纏めていた





 「勿論。……レクスには任せろ言ったが、これがとてつもなく困難な事は私も既に分かっている。恐らく……いや、リベル君なら確実に断るだろうからね」



 「そうね……。私がリベルを裏切る様な真似をした際で、リベルのレクスさん——陛下への印象は最悪だろうから……」



「セシル。それは誰のせいでも無いと、昨日レクスとも話したじゃないか。レクスがリベルを気にしたのも、セシルがレクスの頼みを聞いたのも、どちらが悪いと言う訳では無いだろう?それに、リベル君もセシルの事は許すと言っていた。私が思うに、セシルはカレンさんとレインさん同様気に入られている。もし頼みを聞いてもらえるチャンスがあるとしたらそこなのではないかと、私は睨んでいるよ?」





 セシルはアルフレッドの言いたい事が理解でき、思い出す。リベルは、リベルを裏切る様な事をした自分を許してくれていた——と。そこに何があるのかはセシルには分からないが、セシルは学園や食事を通して、リベルと少しは親しくなれていると思っていたのだ



 勿論利用する為にリベルに近付く——といったいった者ならば、即座に嫌われるだろう。だがセシルにそんな気はなく、ただ単純にリベルに好感を持ち親しくなろうと思っていたのだ


 これが恋愛云々かは別として、セシルはリベルの無邪気な感じや、なんだかんだ根は優しく強い所に好感を持っていた






 「そうね。改めてあの時の事を謝ってから、一生懸命頼まないとね」




 


 三人はしばらく歩き教室が近付いて来るとつい緊張してしまっていたが、すぐにその緊張は吹き飛んでしまう



 教室内が、やけに騒がしかったのだ。中からは、アリスの叫ぶ様に注意する声や、ランダ達の騒々しい声が聞こえて来ていた



 そして、それがリベルに関係していると理解したダルフ、アルフレッド、セシルの三人は一瞬でまずい事が起きたのかもしれないと判断し、先程までの緊張などどこかに吹き飛んでしまう程慌てて教室に入って行った




 すると——






 「お、おい、みんなどうし——!?マグナ!!」

 


 「クッ、これは……」


 

 「!?リ、リベル!!何をしているの!?」

 



  


 やはり、三人の目には信じたくない光景が飛び込んで来てしまった





 所々破損してしまっている教室。その床に腹を押さえながら倒れ込んでいるマグナ。そして、少し黒く濁った瞳でマグナを不機嫌そうに見下ろしているリベル



 リエンとメイナードはその光景を立ち尽くして見ていたが、アリスがリベルに注意し、ランダとディーン、ソフィアはリベルを宥めようとしていた所だった



 セシル達は目に映り込んできた光景だけで、現在想像したくないような状況に陥っているという事を一瞬で理解させられてしまっていた






 『何って……コイツがしつこくてうざいからブッ飛ばしただけだけど?それで、今コイツを殺そうか迷ってた所』




 「ダ、ダメよリベル!!お願いだからやめてちょうだい!」

 




 


 セシルの質問に反応したリベルはセシルを一瞥して答えてから、再びマグナに視線を落とす


 ただならぬ雰囲気とリベルの言葉で、即座にまずいことが起こったと確信した三人



 すると、ダルフが近くで立ち尽くしていたリエンを揺さぶり、言葉を投げかけた







 「リエン!おい、リエン!!どうしてこうなった!?」

 


 「ダルフ先生……。マグナが、マグナが何度もリベルに、シルヴィア様を治してくれって頼み出して……でも、リベルは嫌だって断って……でも、

マグナは諦めなくて……」






 しかし、目の前の光景に気圧されてしまっていたリエンの説明は片言になっていた。いつものダラけたリベルを見ていた皆は、目の前であからさまに不機嫌な雰囲気を漂わせているリベルに気圧されていのだ


 だがダルフはそれでは分からない為、リエンに落ち着く様言い付け説明を求める。それで漸く落ち着きを取り戻したリエンの説明を、セシル達三人は息を潜めて聞いていた——

 


 リエンの説明によると、マグナがリベルに、シルヴィアを治してくれるよう頼んだが、リベルは即答で断ったらしい。だがマグナは引き下がらず、何度も何度もリベルに頼み込んだ。そこにシルヴィアの容態が悪いのを知っていたアリス達も一緒に頼み出したがリベルは断り、機嫌が悪くなった事で帰ろうとしたリベルにマグナが勝負を挑んだ——との事だった



 しかしマグナがリベルに勝てるはずもなく、不機嫌なリベルに一瞬でやられてしまったが、マグナは諦めず何回もリベルへ挑んで行き今の状況になっていたという訳だ



 



 「クソッ—…リベル!!もうやめてくれ。勝負はマグナの負けでいい。だから、もうマグナを許してやってくれ!」



 『…………』

 


 「リベル君。この状況を見るに、リベル君が手加減をしてくれたのは十分理解している。君が手加減をしていなければ、この教室は簡単に吹き飛んでいただろうからね。だから、どうかマグナ君を殺すなんて言わないでくれ」






 そう。アルフレッドの言っている事は正しかった


 リベルが手加減をしたおかげで

マグナは生きており、教室も机などが壊れる程度で済んでいたのだ






『……でもさ。コイツしつこいから、また何回も同じ事頼んでくると思うんだよね。それはめんどくさくて嫌だし、もういっそ殺そうかなって』




 「リベル君。マグナ君が治すよう頼んだ相手は、マグナ君のお姉さんなんだ」



 「そうなのリベル。マグナは自分のお姉さんを助けたい。だから必死になるしかなかったのよ……」




 『……もう頼まないなら見逃すけど、どうする?』

 


 


 リベルは、痛そうに腹を押さえているマグナを見下ろしてそう尋ねる



 だが当然、マグナも簡単に諦められるはずがない

 

 




 「リベル君には悪いが、それは出来ない。君がシルヴィア姉さんを治せるなら、僕は諦める訳にはいかない」




 『何コイツ、めっちゃめんどくさいじゃん。……こう言ってるし、もう殺しちゃっていいかな?アルフレッドさん』



 「リベル君、それは絶対に容認出来ない。それに、本当に悪いんだが、私達もマグナ君と同じ事を頼もうとしていた。どうかシルヴィア君を治してくれないか」




 

 (!?今頼むなんて、アンタ正気なの!?……でも確かにここで言わないで後で言ったら、それはそれで、は??って思われそうだし……)




 

『はぁー??アルフレッドさんまでそう言うの?

それに私達って事は、もしかしてセシルさんも治せって言う気?』




 「……そうなのリベル。昨日あんな事しておいて図々しいかもしれないけど……でも、それでもシルヴィアを治して欲しい」




『……無理。無理無理無理。絶対嫌だ。俺あの王嫌いだし。……もう気分悪いから帰る』

  


 



 セシルの言葉を聞き強く否定したリベルは、サッと向きを変えて教室から出て行こうと歩き出した


 その様子を見たマグナがリベルを引き止めようと立ち上がろうとしたが、それをアルフレッドが手で止めた



 



 「マグナ君、今日はもう諦めよう。今、これ以上リベル君をこの場に留めるのは無理だ」

 

 


 


 セシルも、そう言ったアルフレッドの言葉に同意見だった。去って行こうとするリベルの背中はまるで、次止めたら本気で殺されるのではないか——と思わせる様な雰囲気を纏わせていたからだ

 

 

 しかし、何故かセシルにはリベルが、自分の感情を抑える為にこの場を去ったのではないかとも思えていた——




 

 リベルが去った教室では、重い空気の中アルフレッドが、ソフィアの母をどうやってリベルが治したのかを皆に尋ねていた。どうやらその場にはメイナード以外の皆が揃っていたようで、事の経緯やその治した方法などを尋ねていたが、分かったのは経緯のみだった


 

 リベルは以前のソフィアの魔法が面白かったからと言う理由でソフィアの母を治していた為、マグナも自分がリベルと戦って興味を示してもらえれば治してもらえると思い、勝負を挑んだとの事だった



 しかし、マグナの父であるレクスを嫌っていたリベルには、それはとても困難な事だとセシルは思う。現にマグナは、何もする暇を与えられずやられてしまっていたのだ




 それを聞いたセシルとアルフレッドは、レクスとリベルの間にあった事を含め、皆に大方全ての事情を説明した




 皆リベルと魔物との戦闘を見ていたようで、既にリベルがどれだけ凄いのかを理解していたので、別に話しても大丈夫だと判断したのだ



 そして、セシルの話を聞いた皆はどこか納得した様な様子を見せた。リベルが王族を嫌いと言っていた理由と気持ちが少し理解出来たのだ




 だがセシルはこの雰囲気のまま授業など到底出来ないだろうと思い、ダルフに今日はSクラスの授業を無しにすると伝える



 そしてセシルの言葉で生徒達は各自自分の寮に戻り、残った教師三人——






 「学園長。……リベルは大丈夫ですかね?」

 

 

 「リベルはアーグさんに怒った後も、次の日からケロッとしてたそうなので……多分授業は大丈夫でしょう」

 


 「そうだね。これからリベル君に辛抱強く頼みつつ、【聖女】の到着を待つのが一番良いと私は思うね。それに、さっきの話を聞いた感じだと……いざとなったら私とセシルでやるしかないね」



 「……そうね」



 「二人で、ですか……」



 「それしかなくなったらの話ですけどね。なのでダルフ先生は明日から、普段通りみんなに接してくださいね」

 


 「……了解です」

 


 



 そうやって今後の話をつけた三人も、生徒達より少し遅れて部屋を出た

 

 それからアルフレッドとセシルはレクスに学園であった事と、今後頼み続けるが【聖女】を待った方がいいという事を伝える為城へ報告に向かっていった




 しかし、この後二人はリベルが数日間学園に来なくなってしまった事により、不安と焦りに襲われる事となった——



 


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数多の世界を旅した最強——この世界を気ままにゆく 沢津鬼華一 @sawazukikaiti

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