討伐完了
「それで——帰りはリベルに抱えられながら、
飛んで帰って来たって?」
「は、はい……」
アーグは依頼から帰って来たレインに、盗賊討伐の内容報告を受けていた
しかし聞かされた内容はほとんど何があったか分からないような、事象ばかりの報告だった
気付いたら死んでいました――などと言われても、はいそうですかと納得できる訳がないのだ
「おいおい……何も分からないじゃないか」
「お言葉ですがアーグさん。私は目を離していません。これはもはや、私を付けたアーグさんの失態なのでは?」
一方レインは、まるで吹っ切れたかのように堂々としている
リベルに抱えられたまま飛んで帰っている時に、驚き過ぎてもうどうにもならないと悟ったのだった
そしてレインは、これは私を付けたアーグさんにも責任があるのでは?――と思い、そう言って押し切ろうと考えた
レインは若いが、なんだかんだ肝が据わっていたのだ
「い、いや、そう言われてもなぁ……」
「聞きたいことがあるなら、食事をして待ってるリベルさんに直接聞いたらどうですか?」
(そうするしかない……か。ハァー)
リベルの実力の底を探れないかと付けた監視役だった訳だが、レインにはとにかく凄いという事しか分からないようだった
アーグは冒険者でない者には無理なようだと思い、渋々納得する
それにギルドの規定上断ったらしいが、レインがリベルに敬語は要らないと言われたと聞いたアーグは、レインは若いし長い依頼中二人の間に何かあったのだろうと、違う方向に推理を進ませていた
ならレインをリベルの担当にするか?――と考えたアーグはレインを仕事に戻し、レインの言う通り直接質問する為、リベルがいる部屋まで歩いて行く
帰って来くるなりお腹減ったと言い放ったリベルに食事を用意し、ついでにレインからの報告を聞く間待っていてもらったのだ
アーグは客室の綺麗な扉を開け、中に入っていく
「おう、リベル。飯は口に合ってるか?」
『あ、アーグさん!うん、やっぱりここの料理は美味しいね。種類も沢山あるし、宿よりここの方がいいね』
(そりゃあ、わざわざギルドに料理人呼んでるからな……)
実はアルフレッド達と話した時も、本来呼ぶことのない料理人をギルドに呼んでいたアーグ
それも腕利きの料理人を呼び、長年使われていなかった厨房もついでに一新していたのだ
未だリベルの情報は、食べることが好きだと言う情報しかなかったので、アーグも然程悩まず決断していたのだ
これでリベルを繋ぎ止められるのなら安い物だと、アーグは考えていた
「ハハッ、そいつは良かった。料理人も雇ってるからいつでも食べに来ていいぞ。それでリベル、今回の依頼についての話を聞いてもいいか?」
『いいよ』
食事に満足しているリベルは、笑顔で答えている
「まず捕らえた盗賊はポルティアに引き渡して牢屋に行きだ。そしてアジトにあった宝だが、その
半分はリベルに入る。大していい物は無かったが、武器や道具の方がいいとかの要望はあるか?」
『いや、金貨でいいよ』
「そうか。じゃあ後でレインの所に行って、報酬を受け取って帰ってくれ」
『オッケー』
フォークを咥えながら上機嫌なリベルに、アーグは唾をゴクリと呑んで本題を切り出す
「それで……今回の討伐に関する内容が知りたいんだが、いいか?何せレインから聞いただけじゃ、内容が分からなくてな」
『なんで?』
「別に聞かないといけない訳じゃないんだが……リベルがどれくらい強いのかを知りたいんだ。
話から想像出来たらと思ったんだが……さっきも言ったようにレインの話じゃ全く分からなくてな」
リベルに嘘はつけないと知っているアーグは、
正直に思ってることを言った
アーグはまた嘘をつけば、今度こそ終わりだということを分かっていた
殺されるか、国から出て行かれるかは分からないが、リベルとの関係は終わってしまうだろう、と。
だがそんな事をしてしまえば、それこそ本末転倒と言うものだ
アーグはリベルがどれほど強いのか、アルフレッドの言う通りSSランクに匹敵するのかが気になっていた
それに強力な個の力というのは、それだけで様々な者に目をつけられてしまう
新たに誕生した強者を他国に勧誘されるようなことも、別段全然珍しいことではなかった
それに最悪、敵になり得るのなら事前に始末してしまえ——と言うような国も、確かに存在していたのだ
その為アーグやアルフレッドは、リベルの実力を正確に把握し、且つ目立たないようにしたいと考えていた
『ふーん、いいよ。何が知りたいの?』
「あぁ。それは――」
許可されたアーグは、レインからの報告内容とリベルの証言を擦り合わせながら聞いていった
意外にもペラペラと教えてくれるリベルに、こんなに喋って大丈夫なのかと思いながら質問をしていく
——普通冒険者は自分の切り札となる能力など、他人には教えないものだ
荒くれ者が多い冒険者という職業は、いつ、誰が敵になるか分からない。それこそ他国からの暗殺者などに、自分の力を言いふらして対策されては敵わないのだ
そしてアーグがリベルから聞かされた話は、アーグの想像を遥かに超えたものだった
(……なるほどな。ゴブリンをやったのもそれか。……しかも、洞窟に入る前にリーダー以外全員仕留めた……か。何かの技なんだろうが……それならレインが分からないのもしょうがないな)
「それにしても、盗賊の頭は元Aランク冒険者だったはずなんだがな。[一閃]って技は凄いな」
『いや、[一閃]は技というより剣技なんだよね』
「??どういうことだ?」
アーグが思わず口からこぼれてしまった疑問に、リベルはこれまたペラペラと説明をしていた
剣は他の武器と違って何本かあること
[一閃]はその全ての剣で共通に使える
『だから[一閃]ともう一つある[
(つまり……技ですらないってことか?)
今回討伐した盗賊の頭は、Aランクになったばかりの頃に盗賊落ちをしている
その為アーグは、自分の方が強いだろうと憶測を立てており、実際それが正解だった
だがそれでも、盗賊の頭はAランクになれるくらいの実力は持っており、そんな実力者が剣を一振りしただけで殺された——ということに、アーグは驚いていて
『でもただの動作な分、超速いからね。まぁ、
全部の剣で使える技だって思ってくれれば正解だよ』
「聞けば聞くほど底が知れないが……無理にでも納得するしかねぇな」
『アハハハ。そうだね、そんなに考えても無駄なんじゃないかな?』
(……リベルがぶっ飛んだ強さなのが分かっただけ、良しとするか。それに、SランクやSSランクの奴らの力だって、全て正確に見たわけじゃないしな)
アーグはSランクとSSランクの冒険者が得意なことや実力はそれぞれに違うと聞いていただけで、
実際それ程詳しくなかった
直接見たこともないSSランクの実力とリベルを、どうやっても比べることが出来なかった
なので無駄な事を考えるのは止め、アーグはひとまず考えを切り替えることにした
「そういえば、俺の所にアルフレッドから連絡が来たんだが……リベル、依頼中気付かなかったのか?」
先日アルフレッドから、リベルに連絡が付かないと連絡をもらっていたアーグ
リベルはアイテムボックスに魔法具を入れていた為気付かず、連絡が繋がらなかったのだ
『え??あー、アイテムボックス入れてるからかな?ならこれからは持っとくよ。それで、何か用だったの?』
「用っていうか、入学の準備が出来たから一回来て欲しいんだとよ」
『そうなの??……でも場所分かんないよ?』
「なら明日、ここに待ち合わせていけばいいんじゃねぇか?俺からアルフレッドに連絡しとくから、明日の昼にまたここに来てくれ」
『オッケー。それじゃあもう今日は帰るね。
バイバーイ』
皿の上の料理を綺麗に完食していたリベルは、
満足そうな顔でお腹を押さえて帰っていった
残されたアーグはアルフレッドに、リベルの力も踏まえて報告する為、食器の片付けを職員に頼んでから部屋を後にした
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