初依頼②






 


 リベルと呼ばれている少年を襲い一人生き残った盗賊は、現在リベル達をアジトに案内していた




 大鎌の刃先を喉に向けられ

 


 ――アジトに連れてってよ――

   

 

 と言われては、とても断れなかったのだ


  



 (クソ……さっきは何が起こったんだ)





 

 盗賊は仲間が地面に転がっている光景を思い出していた


 女は地面に伏せているだけだったので、恐らくこの少年があれをやったのだろうと分かったが、それが盗賊にはとても信じられなかった






 (なんでこんなガキががあんなに強いんだよ!

クソッ、早くお頭の所に連れて行って殺してもらおう。お頭は元Aランク冒険者だから勝てるはずだ。……………勝てるよな?)





 


 盗賊は抜け出せない今の状況を打破する為に必死に頭を働かせていたが、助かると思えるような考えが何一つ浮かばなかった



 頼みの綱であるお頭に任せようと考えたが先程の光景が頭に浮かび、本当にお頭が勝てるのかすら分からなくなっていた





 

 『ねぇまだ?暗いし眠いし、時間かかるなら明日行きたいんだけど。ね??レインさん』



 

 「そ、そうだけど……でも、この盗賊の人と一晩一緒に過ごすの?」



 『んー…場所と方向聞いたら殺す?』



 「!?」


 


 

 リベルは本人を前に恐ろしい話を始めていた


 リベルは暗い中歩くのと、睡眠を邪魔されたのが嫌だったのだ



 しかしリベルに睡眠は必須ではない


 ただ気持ちよく眠るのが好きなだけで、その睡眠を途中で邪魔されたということが嫌だったのだ




 レインもリベルの発言には苦笑いをしているが、

盗賊を殺す事は冒険者なら然程珍しい事でもない為、そこまで否定的ではなかった






 

 (殺される!?嫌だ!)




 

 「も、もう少しです!!もう少しで着きますので!」






 盗賊は刺激しないように丁寧に話している


 まだアジトまで距離があるが、殺されるのが嫌で時間を稼げないかと思考を巡らせていた



 だがそれは、リベルには逆効果であった

 




 


 『ほら。この人嘘ついてるしもう殺しちゃお?

殺して寝よ??レインさん』




 「!!」






 盗賊は嘘が一瞬でバレた事に動揺を隠せない


 なんでバレているのかと意味のない答えを求めて思考を始めてしまうが、答えが出るはずもない

 


 




 「で、でもリベルさん。この人がいないと探すの大変じゃないですか?」




 『別に??探そうと思えば俺が探せるし。ただ面倒くさくてやってなかっただけだしね』





  

 自分の目の前で行われる会話を聞いて、盗賊は心臓の鼓動が速くなるのを感じた


 自分の命が残り僅かなのではないか?と、まともに働いたことのない勘によって知らされていた



 レインも、リベルが探せるのならそれでもいいのか?と眉を顰めて考えている様子だ

  


 その二人の雰囲気から、盗賊は自分の命が長く無い事を確実に悟っていた






 (まずい!殺される!?)




  

 自身の命の危機に陥った状況で、盗賊は殺されない為、今までの人生で一番速く頭を回転させていた



 そして導き出された結論により、盗賊は綺麗に

土下座をする


 




 「す、すいませんでした!!どうか命だけは助けてください!」






 盗賊は、目の前のこの少年にお頭よりも異様な雰囲気を感じ取り、逆らわない方がいいと判断する



 この状況で出来る最善の判断を、盗賊は導き出していた






 『え??討伐だし無理でしょ?』



 

 「いえ、生け捕りにできるのなら、それでも多分大丈夫だと思います。それに明日の朝まで仲間が帰って来なかったら、残った盗賊達に疑われるかもしれませんし……最悪逃げてしまうかもしれません」




 『そう?まぁレインさんがそう言うならいいけど』



 



 レインの言葉を聞いて納得した様子のリベル



 それを見て心の底からホッとしていた盗賊は急に、大鎌をアイテムボックスにしまったリベルに片手で抱えられてしまった



 困惑した盗賊が隣を見ると、レインも戸惑う様な顔で脇腹の横に抱えられていた







 『ねぇ、どの方向?どっちにの方にあるの?』



 

 「え??あっ、いや、あっちにある洞窟です」



 『あっちね』

 

 

 「!?」





 


 盗賊が指で方向を指しながら困惑していると、

リベルは両脇に二人を抱えたまま高速で移動しだした



 抱えられている二人は、周りの木々が凄いスピードで通り過ぎて行くのを目にし、顔全体で風を感じていた




 

 (は、速い!なんて速さなんだ。それに……う、うぅ、吐きそうだ)



  



 盗賊とレインは吐き気がするような気分をしばらくの間耐えていたが、少しすると急に止まって降ろされた



 盗賊は雑に離されて地面に膝をつくが、レインは丁寧に降ろされている




 


 『ここ?』



 「うぅ……は、はい……そうです」




 

 

 盗賊は、隣で自分と同じくフラフラしているレインを見て同情心が浮かんでいた



 先程襲おうとしていた相手におかしな話だが、

確かに同情していた




 

 『幅狭いね。これじゃあ【アバドン】振るのは無理そうだね。……ねぇ、この洞窟の大きさは??

長さとかも結構広いの?』



 

 「は、はい。ここは俺達が来る前も誰かいたみたいで結構枝分かれしてます。それに、お頭がいる所は普通の部屋みたいに所になってました」




 『えー、早く帰りたいのにめんどくさいな……』



 

  

  

 めんどくさい、と言ったリベルが洞窟の前に歩いていく


 盗賊とレインもフラつきながら後をついていくと、リベルが洞窟を覗き込む様にして止まった






 『……よし、それじゃあリーダーだけ残したから行こっか』





 「「??」」




 


 しかし、少し洞窟の中を眺めるようにしたリベルはすぐに振り向いて二人に声をかけた



 二人はリベルの言っている意味が分からずに眉を顰めてたが、洞窟の中に進んで行くリベルの後ろをついて行く



 だが、二人がその言葉の意味を知ったのは、洞窟に入った後だった——








  *****











   

 (なんだ??どういうことだ?)






 盗賊のかしらは目の前の光景に困惑していた


 少し前にいつも通り部屋で一人盗品を眺めていると、急に仲間達のバカ騒ぎしていた声が途絶えた


 耳を澄ませても一向に聞こえなくなったので様子を見に部屋を出ると、仲間達がそこら中で洞窟の壁に寄りかかったり地面に寝そべったりしている






 

 (……なんだ??コイツら寝てんのか?)






 「おい、お前。おい!起きろ、どうしたん――!?」





 

 頭は倒れて寝ているように見えた仲間を揺すっていると、ある異変に気付く





 

 (コイツ……息をしてない!死んでるのか!?

それじゃあ——アイツらも!?)






 周りで同様に倒れている仲間達を見渡して絶句する


 駆け寄って確かめるが、その中に息をしている者は誰一人としていなかった


 思考を困惑が埋め尽くしていたが、頭は生きている者がいないか洞窟を見て回る事にした


 

 




 「おい!!誰か生きてる奴はいないのか!?おい!」





 (敵襲か?だが外傷はなかった。……どう言うことだ?さっきまで騒いでいた奴らが……)






 呼びかける声に反応はなく、襲撃されたのかと疑うがすぐにその考えを振り払う


 仲間達には争ったような跡はなく、誰一人怪我をしているようには見えなかったからだ


 それにもし仮に戦闘が起きたとすれば、盗賊に落ちたと言っても元Aランク冒険者の自分が気付かない筈はないと思っていた

 


 盗賊の頭は考えを巡らせながらしばらく歩いていると、前方から聞こえる小さな声を耳にする


 耳を澄ませながら声の方へ向かっていくと、だんだん複数人が会話をしている声が近づいて来る






 (生き残ってる奴がいたか……)





 「おい!こっちだ!!一体何があったん――」






 頭が段々と近づいてくる声に呼びかけながら道を曲がると、現れたのは気まずそうにしている盗賊の仲間一人と、見覚えの全くない二人だった






 「!?」



 『あ、見つけた』


 


 「あぁ?なんだこのガキ!?」






 自分を指をさしながら笑顔で近づいてくる少年に盗賊の頭は訳が分からず困惑してしまう



 しかし同時に短気な盗賊の頭は、この異常な事態へ対する混乱や不満が爆発して怒りに変わってしまった


 この状況の不快感を誰かにぶつけたくなったのだ



 その為目の前の少年に怒りをぶつけて発散し、後ろに控えていた女で楽しんでやろうという考えが頭に浮かんだ盗賊の頭は、イライラしながら三人へ近付いて行った




 この後自分がどうなるかなど、想像もせずに——








  *****

 




 


 リベルの後ろについて歩くレインは、目にする盗賊が一人残らず倒れている状況に驚きを隠せなかった


 行こう、と言われて恐る恐る盗賊のアジトに侵入したのに、中は想像とは違い静かなものだった



 少し歩いて行くと倒れている盗賊達を発見したが、レインは倒れている者が誰一人として息をしていないことに気付く





 


 「こ、この人達……みんな死んでるんですか?

……もしかして、リベルさんが何かしました?」



 

 『そうだよ。洞窟に入る前にね。どうせこの人達と戦っても面白くないからさ。それに、もう早く終わらせて帰りたいんだよね』




 「そ、そうですか……」



 



 レインは早く帰りたいと言って先頭を歩いているリベルを見ながら、何をしたのか気になって考えていた



 だが特に何かした様子は思い当たらず、倒れている盗賊に目を向けても、まるで寝ているのかと思えるような様子だった






 (ハァー。アーグさんになんて言えばいいんだろう)







 レインが隣を歩く盗賊に目を向けると、レインと同様にこの状況に困惑している様子だった



 盗賊は倒れている仲間達を見ながら青褪めている



 先程まで命を狙われていた盗賊と並んで歩いている事には然程抵抗など無く、レインはただそんな様子の盗賊に同情してしまっていた



 二人の知らない所で、お互いに同情し合っていた訳である




 


 『でも、リーダーの人はちゃんと残ってると思うよ?……残ってるよね?多分残ってるはずだけど……。まぁ、死んでてもいいか!アハハハ』



  

 


 リベルは現在、ギルドで見せた剣を持ちながら楽しそうに先頭を歩いている


 だが三人がしばらく歩いていると、前方から男の声が聞こえてくる


 

  


 「おい!!こっちだ!一体何があったん――」




 


 曲がり角からいかにも盗賊の頭らしき、大きな体格の男がいきなり出てきた



 レインは、アーグさんの方が強そう――と呑気に思いながらその男を見ている






 

 『あ、見つけた』



 「あぁ?なんだこのガキ!?」




 


 それは私にも分かりません――と思い、レインは少し盗賊の頭に同情するが、黙ってリベルの後ろに控えていた







 「おいお前!このガキと女は何なんだ」





 『ねぇ、それよりさ。この人は生け捕りすることにしたけどきみは討伐するね。ほら、この依頼の紙見てよ。さっき気づいたんだけど、盗賊の頭を討伐――そして可能な限りの残党を討伐、又は生け捕りって書いてあったんだよね。だから頭?ってやつの君はどうせ殺すしかないんだよね』






 説明の後に気付いたのか、あ、この人以外の仲間殺しちゃった。……まぁいいか——などと言っているリベルに、レインはそれどころでは無いと思う



 何故なら、目の前でリベルの言葉を聞いていた盗賊の頭は、見れば誰でも分かる程イラついている様子だったからだ







 「あぁ!?ガキが何言ってんだ!!ぶっ殺してやる!」





 盗賊のお頭がレインの隣に立つ男に問いかけるが、リベルがそんな事どうでもいいと言う態度で依頼書をヒラヒラ見せて説明を始めていた



 自分を殺すと言って理由を説明するリベルに腹が立ってか、それともこの意味の分からない状況にイラついてかは、レインには分からなかった



 しかし相当お怒りだった盗賊のお頭は、背負っていた少し大きな斧をリベルに向かって振り下ろした



 だがレインの心には、不思議と心配は無かった



 するとやはり、リベルはレインの目の前で振り下ろされた斧を易々と掴んで見せた



 しかも片手で——




 リベルの斧を掴んでいる手は全く傷ついてないようだ。当れば傷付いたかもしれないが、リベルの指に捕らえられたその斧は、ピクリとも動いていなかった


 




 『え??そんないきなり斬りかかる?普通、もっと聞くことあると思うんだけど……。まぁ、俺も早く帰りたいからいいんだけど――さ!』





 

 リベルは掴んでいた斧を、言葉が言い終わると同時に握り潰す






 「な!?ありえ――」




 『[一閃いっせん]』





 

  スパンッ!——






 リベルが短く呟くと同時に、盗賊の頭の首が切断された



 頭は砕け散った斧を見て驚き、リベルの異様さをその身で感じ取った瞬間に絶命してしまった






 

 (な、何が起きたの……)




 『それじゃあ帰ろっか。レインさん』





 

 転がった首を見て驚きと困惑に満ちていたレインに、リベルは何ともないような声で話しかけた



 レインとて冒険者ギルドの受付だったので、大怪我をした冒険者や死んでしまった冒険者を見たことはある



 その為死体を見てもそれ程動揺しないが、一瞬にして綺麗に切断されて転がった首には絶句してしまっていた

  





 「あ、はい」






 (……アーグさん。本当に文句言わないでくださいね?)





  

 

 

 こうしてレインは、隣で目が飛び出そうな勢いで驚いている盗賊と共に王国へ戻り始めた







  *****

 


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