初依頼







 

 ギルドの受付をしているレインは現在、隣に座るリベルと共に馬車の中で揺られていた



 何故こうなっているのかと言うと、時間はリベルがアルフレッド達と話した二日後に遡る






 ――アルフレッド達の話を後ろで聞いていた翌日、受付をしていたレインの所に元気なリベルがやって来た






 『おっはようございまーす。アーグさんいますかー?』



 「あ、リベルさん。アーグさんに何か御用ですか?」



 『うん。お金沢山貰える依頼受けたいんだよね』




 


 お金の心配をしなくていいよう、沢山集めておこうと思ったリベルは、冒険者ギルドを訪れていたのだった。以前ならお金のことなど気にしたこともないリベルは、お金の為に動くなど初めての経験だっただろう




 

 

 「アーグさんなら今――」



 「おう、聞こえたぞリベル。依頼を受けたいんだろ?」



 『あっ、アーグさん。それはそうだけど、金貨沢山貰えるやつね?』





  

 レインの目の前でアーグと笑顔で会話をしていたリベルは、先日の事など忘れているかの様子だった

 

 リベルはアーグの事を既に許していたので、まるで元からの知り合いの様な口調で話している






 「それなら盗賊の討伐依頼があるぞ。この森に棲みついているらしい。危険だがまぁ……リベルなら大丈夫だろう」



 

 『俺は何でも大丈夫だよ。……これ、どこか分かんないんだけど』





 

 アーグから印の付いた地図を貰ったリベルは、

地形が分からず眉を顰めて凝視していた


 この世界に来たばかりのリベルに地図など渡しても、全く意味がなかった。そもそも気分のまま動くリベルからすれば、地図を持つというのも珍しい体験だったのだ




 


 「あぁ、なら案内をつけるか。……レイン、リベルについて行ってくれ」

 


 

 「……え!?わ、私ですか!?」





 こういう場合普段は冒険者を付けるのだが、何故か任されてしまったレイン


 黙って二人の会話を聞いていたレインは、突然自分へと話が振られたことでビックリしていた

  





 『レインさんが来てくれるの??危なくない?』



 「あぁ。普通は冒険者をつけるんだが、リベルも顔見知りの方がいいだろ?だからレインに頼んだんだ。それにもし何かあったら、リベルがレインを守ってやってくれ」



 『オッケー。じゃあレインさん、早速行こ!!』




 「え?じゅ、準備はしないんですか?ちょ、リベルさん!?」


 


 「レイン、リベルの事も任せたぞ?頑張れよ」






 アーグの言葉に混乱して呆けていたレインは、急に自分の手を引くリベルによって意識を戻された


 レインは心配などしていない様な顔で見送るアーグに文句を思いながら、リベルに手を引かれたまま冒険者ギルドを後にする――



 


 


 そして現在に戻り、リベルとレインは馬車の中で数日間揺られていたという訳である






 『ねぇー、後どのくらい?』



 「もう少しで着きますよ。それにしてもアイテムボックスのおかげで、食事が美味しいですね。普通だと馬車では満足出来る食事なんて出来ないんですよ?」





 馬車に乗ったことがなかったので興味を持ったリベルだか、数日間の旅で既に飽きてしまっていた



 馬車の中は広いとはとても言えず、乗客が向かい合って座る形だった


 レインはその端に座っており、隣で飽きたとつまらなそうになったリベルを数日間こうして話す事で宥めていた


 

 人から見ると美人であったレインの隣に座っていたリベルは、何度か羨ましそうな視線を向けられたりもしていたが、リベルがそんな事気にする筈なかった。さらにリベルは、レインに寄りかかったり膝に頭を置いたりして寝ながら、何とか数日間を耐えていた



 レインもそんなリベルに快く肩や膝を貸していたが、内心ではドキドキしていた



 リベルの容姿に実力。しかもその実力がSランクだともなれば、どんな女性からでもリベルは優良過ぎる物件だったのだ


 




 『フーン。……そう言えば盗賊ってどのくらい強いの?』


 

 「今向かってる森にいる盗賊は、大体DからCランクの者達だそうです。しかし人数が多く、リーダーは元Aランクだと思われる為残っていた依頼ですね」




 『Aランクかー』



 

 「でも盗賊討伐の依頼は、盗賊が持つお宝の一部も貰えるので報酬が高いんです。特別なアイテムがあったらそれを貰うことも出来ますよ?」



 『そうなの?……でも俺はお金だけでいいかな』




 

 乗客はこれから向かう場所に近づくに連れ、どんどん減っていっていた。一日前から、馬車にはリベルとレインの二人しか乗っていない


 依頼でもなければ、魔物も盗賊も棲みついているような場所になど誰も近寄らないのだ






 「あ、リベルさん。まもなく森に着きますよ。

馬車は森の前までなので、降りたら盗賊のアジトを探しましょう」





 数日の旅を終えて、ようやく目的の場所が見えてきた


 リベルは退屈から解放されそうになり、笑顔で馬車から身を乗り出していた。馬車が止まるなり真っ先に降りて行く






 『うーーん、やっと着いた!でも、これなら一緒に飛んだ方が良かったね』



 

 (飛ぶ?)




 『よし、それじゃあアジト探しの探検に行こう!アーッハッッハッハ!!』



 

 「ちょっ、リベルさん!?待ってくださいよー!」





 リベルの言葉に疑問を持ったレインだったが、リベルはそんなことお構いなしに森へ入って行った



 レインはそんな森の中へ直進していくリベルを、焦って追いかけ、並ぶように森を進んで行く


 

 しかししばらく歩いた二人だが、地図には大体の場所しか記されていないので、アジトを見つけられないまま辺りは暗くなっていた。それは森の中ということもあり、これ以上進むのは無理な程だ

 

 




 『この地図あんまり役に立たなくない?アジトってどこにあるの?』



 「それは私も分かりません。ですがおそらく、

洞窟のような場所にあるかと」



 『もう随分暗くなって来たけど……こういう時ってどうするの?』


 

 「大体冒険者の方は、見張りをつけて野宿をすると思いますよ?王国を出る前、リベルさんに入れてもらったテントで休みましょう」


  



 その言葉でリベルは、思い出したようにアイテムボックスからテントを出す



 準備もせずに行こうとするリベルに、レインはなんとか準備をするよう必死に頼んだのだ


 その結果、テントや食料を準備してもらう事に成功していた


 もしあのまま来ていれば、それこそ本当の野宿になっていただろう——とレインは思った






 

 『これね!俺テント初めてだから少し楽しみだな〜。それじゃあレインさん、一緒に寝よ』




 (い、一緒に!?)

 





 無邪気な顔で平然と言うリベルにレインは驚き、顔を赤らめてしまう

 

 



 「一緒に……ですか」




 『え??だってテント一個しかないよ?』




 「それは一人が見張ってもう一人が寝るのかと……で、でもリベルさんとなら一緒に寝ても……私は大丈夫です」




 


 自分の顔がどんどん赤面していくのを感じたレイン


 しかし二人の考えは少しも類似していなかった


リベルはレインが顔を赤くしてそう言う意味が分からず、眉を顰めて見つめていた



 異なる思惑を持つ二人はテントに入っていくが、案の定リベルはスヤスヤと眠ってしまう





 

 (……別に期待していた訳じゃないもん。

……でも、そんなすんなり寝ちゃいます?)




 


 テントに入ったレインは、隣で気持ち良さそうに寝ているリベルを見ながらそう思った


 広くないテントの、すぐ隣で気持ちよさそうに寝ているリベルを、レインは見つめていた



 


 「…………」





 (フフッ、可愛い寝顔)






 

 レインにはリベルが悪い人間に見えなかった。


怒ったところを見た時は別人のようで驚いたが、誰しも怒れば変わるだろうと、レインは納得していた


 ゲルダ達があんなことをしなけば、リベルはあれ程怒らなかっただろう――と。



 しかしレインは知るよしもないが、あの時リベルは怒ったものの、ギルド職員には全く感情——アーグに向けたような殺気を向けていなかった


 向けられたゲルダやアーグからすると堪ったものではないが、レイン達職員からすれば怒って雰囲気と口調が変わった程度に感じてしまっていた


 確かにアルフレッドに勝った事は皆驚いたが、

ギルド職員は、凄く強い怒らせてはダメな少年——程度にリベルの事を認識していた






 (見た目はカッコいいけど、喋るとなんだか可愛いのよね。なんだか精神年齢が少し見た目より幼いみたい……フフフッ)





 『うーん』






 レインはリベルの頬を指で押して微笑んでいた


押されて反応し、レインの方を向くリベルに、レインの胸はドキリと高鳴ってしまう


 しかしリベル顔を見てそうなってしまうのは、女性なら仕方のない事だろう





 

 (可愛い。……でもこのままじゃ、ずっとこうしていそう。私もそろそろ寝ようかな)





 しかしレインがそう思った時、ゆっくりとリベルが起き上がった






  「す、すいません。……起こしちゃいましたか?」


 

 

 『いや、違うけど……それよりレインさんって、なんで俺に敬語なの?俺レインさんの事好きだから、別に敬語じゃなくていいけど……』



 「リベルさんは冒険者なのでそれは無理ですね。でも私はこれが素の所もあるので、そこまで気にしなくても大丈夫ですよ?」

 


 『レインさんがそう言うならいいけどさ』





 レインは目を擦りながら喋るリベルを見て口角が上がるのを感じる


 好きと言われたことは素直に嬉しかったが、リベルの好きの意味は少し違うように感じていた


 

 

 


 「それで、急に起きてどうしたんですか?」



 『うーん……外にいる人達が何かしそうだと思って』





 (……え??外?)





 レインが尋ねると、リベルは欠伸をして身体を伸ばしながらそう答えた


 レインはリベルが言っている意味が分からなかったが、困惑していると急にリベルに抱えられ——

跳んだ

 





 「……え??」





 

 リベルがテントを突き破りジャンプすると同時に、レインは下に見えるテントが火に包まれたのを目にした


 あのままテントに居たらと考えゾッとする





  スタッ——






 「おいおい。あんなガキに避けられてんじゃねーか」


 

 「うるせーな。どうせお前らがうるさいから気付かれたんだろうが」






 抱えられたまま着地したレインが周りを見ると、既に盗賊達に囲まれている様だった


 その数はレインがざっと見ただけでも、二十人はいそうだった






 (いや、普通に気付かなかったんですけど……

本当に話してました?)






 「お!?おい、女がいるじゃねぇか。これなら

燃やさなくてよかったな」



 「さっさとガキを殺して楽しむか!ヒャーッハハハハ」



  

  

 レインはもし捕まったらと想像して身体が震えたが、次のリベルの言葉でふと我に帰った


 

 




 『え?何言ってんの??死ぬのはそっちでしょ。それより、多分みんな盗賊だよね?誰か早くアジトに連れてってよ』




  


 (あ……そういえばリベルさんはSランクだった)



 


 


 レインはここ数日のリベルの様子を見て、その事を完全に忘れていた。ここ数日のリベルは戦闘とかけ離れた態度だったので、すっかり忘れていたのだ



 

 


 『うーん……一人だけ残して、後は全員やっちゃっていいかな?レインさんはどう思う??』


 


 「あ、はい。大丈夫だと思います……。ですが、リベルさんも気をつけてくださいね?」






 周りを囲んでいる大量の盗賊達を一瞥しながら、リベルは悠長に話している。他の実力のない者ならば、この状況に慌てふためいている事だろう


 しかしリベルの心は何もなく、凪そのものだった



 レインは間の抜けたような返事と注意をしてからリベルに下ろしてもらい、後ろに回った

 


 




 (そうだ……リベルさんはアルフレッドさんに勝ったんだった。……じゃあ、多分アーグさんは私にリベルさんの戦闘の様子とかを報告してほしい……のかな?)






 大事なことを思い出したレインは、自分を案内に付けたアーグの意図に今更気付いていた


 アーグはレインに、リベルの戦闘の様子を見て来て欲しかった為レインを付けたのだ


それだけなら冒険者を付けても良かったが、それだと両者の間で何があるか分かったものではなかった


 だがレインならそこも大丈夫だろうし、レインは戦闘力が全くと言っていいほど無い



 その為リベルだけの戦闘が観察出来るだろうと考え、アーグはレインを付けていたのだ







 「あー??おい、あのガキおかしなこと言ってやがるぜ?」




 「怖くて頭がイカれたんじゃねぇか?ヒャーッハハハ」






 盗賊達が笑いながらじわじわと近づいてくる。

その表情は、リベルに対して危機感などこれっぽっちも持っていないようだった



 今にも戦闘が始まりそうな空気を感じたレインは、万が一にでも自分が足手まといになる訳には行かないと心配した






 「リ、リベルさん。私はどうすれば邪魔にならないですか?」



 『いや、そんなこと心配しなくて大丈夫だよ?

あ、でも低くしゃがんでくれると嬉しい良いかな』







 そう言われて、レインはすぐ地面に伏せる



 盗賊達が賑やかに好き勝手言いながらどんどん近づいてくるが、木の裏に隠れていた者が出て来たのか、頭数が最初より増えていた




 しかし、それでもリベルの意には全く介さない




 


 「おい、女は殺すなよ?」



 「当たり前だ」


 


 『なんかあの時のゴブリンと同じ状況だね。

君達もこれでやってあげよう』



  

 「あぁ??なんだとガキ?」






 盗賊の言葉を無視するリベルは、手を横に翳す




 



 『来い。絶魂の大鎌デスサイズ――【アバドン】』






 すると出てきたのは、リベルの背丈程ある大鎌だった



 それは刃先以外が美しい紫黒色で輝いており、刃先は紅蓮に染まっている大鎌だ


 死を彷彿とさせる印象でありながらも凄く美しい大鎌に、レインはしゃがみながら目を釘付けにしていた


 そしてそれは盗賊も同じだった



 


 「おいおい、ガキが随分いい武器持ってんじゃねぇか。それを置いていけば命は見逃してやるぜ?」




 『いや、別に俺はアンタ達見逃さないし。

……それにしても、こっちに来てから武器欲しがる人ばっかりだね』



 

 「あ??何言ってんだ?いいから早く寄越せよ」


 

 

 「おい、もう殺して奪っちまおうぜ。ヒャーッハハハハ」






 レインは武器を奪おうとする、何やら見覚えのある光景を目にしたいた


 するとリベルの手に握られた大鎌から、黒いモヤが漂っている様に見えてきたレイン

 





 『ハァ、もう鬱陶しいからさ……殺してやるよ』



  

 


 ギルドの時のように怒っては見えなかったが、

一瞬リベルの雰囲気が変わった——様に感じた。

リベルはこれから盗賊達を殺す事を、戦闘を開始することを楽しみにしているかのようにニヤついている


 



 (始まる!?戦いの様子を観察しないと!)





 ——とレインが思うとほぼ同時に、戦闘は終了した






 

 『死の満月デス・ムーン



 

 「……は??」






 リベルが言葉を発すると同時に、風を斬る音と風圧が辺りを巻き上げ、周りを囲んでいた盗賊達と木々が次々と倒れていった



 胴を真っ二つにされて……




  

 (……そうか、これでゴブリンを……え、凄過ぎない?)




 

  「……え、は??」



 



 盗賊は一人を除いて皆地面に転がり、既に息絶えていた


 一人残された盗賊は状況が分からず、地面に転がる仲間の死体を見てただひたすら困惑していたが、無理もない



 リベルの死の満月デス・ムーンはその大鎌の刃はもちろん、その風圧でも周囲諸共切断するという技だった


 大鎌からリベルを中心に円状に放たれた斬撃は、上から見るとまるで満月のようだ。その斬撃は、

周りで離れて観戦していた盗賊さえも捕らえていた



 しかし一人残された盗賊は綺麗に軌道から外れていたので、周りを駆け巡る風圧しか感じていなかったのだ





 

 『フゥーー。レインさん!!終わったからもう立って大丈夫だよ!』




 「あ、はい。…………そうみたいですね」




 『あの人にアジトの場所聞いてくるね』





 (何も見えなかった。…………アーグさん。

私がどんな報告しても……文句言わないでくださいね?)






 息絶えて転がる盗賊には目もくれず歩いて行くリベルは、既に普段通りだった


 普通の者なら危機的状況から脱して喜ぶだろうが、レインはアーグへの報告内容を考え、溜め息が出てしまうような思いに包まれていた——







  *****





 



 リベル 昔の呼称[???]


 

《 判明プロフィール》



 能力 (武器を使った技ではない)


[真実の眼]

 

 


 武器 : 【宝剣アダム】【黒双龍砲】 【アバドン】




 


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