セシル=クリーネ
場所は剣魔総合学園、学園長室にて——
(アルフレッドの奴、どういうつもり!?)
アルフレッドと学園の代表をしており、アルフレッドに任されて(自分には合わないからと嫌々させられた)学園長をしているセシル=クリーネは、
内心穏やかではなかった
その室内でもウィッチ帽を被る女性は、ラズベリー色の瞳と長い髪を持ち、綺麗な外見をしている
しかしその顔は現在、怒りと困惑に満ち満ちていた
(昨日出て行ってから帰ってこないし!!
いきなり連絡が来たと思ったら、『一人学園にスカウトしてくるよ』とか言ってすぐ切っちゃうし!
一体なんなのよあのクソ剣士ーー!!)
「あーもう!!連絡にくらい出なさいよー!!」
急に学園を出て行って帰ってこないアルフレッドの仕事を結果的に押し付けられてしまったセシルは、一人学園長室で叫んでいた
他の職員も同様に忙しく、また、アルフレッドの仕事をするとなるとセシルしか適役がいなかったのだ
そんなセシルが頭を押さえて叫んでいると唐突にドアが開かれ、怒りの原因となった人物が入って来た
「!!」
「いやー、2日も空けて済まないね。実は気になる少年が――」
「すまないね、じゃないでしょ!?アンタが抜けた分の仕事大変だったんだからね!?ていうか、
連絡くらいしなさいよ!!」
人の気も知らず笑顔で現れたアルフレッドに、
セシルは怒り狂った
「い、いや本当にすまないと思ってるよ?どうか怒りを鎮めてくれないか」
詰め寄られたアルフレッドは両手を胸の前に上げながらセシルに謝っている
しかし当然、そんな事でセシルの怒りが収まるはずがない
(すまないと思ってるですって!?こ、この能天気クソ剣士!!)
「だったらやるんじゃないわよ!!」
「アハハハ、本当に悪かったよ。今度埋め合わせはするからさ」
(クッ……ダメ。アルフレッドのペースに飲まれちゃダメよ、私。深呼吸……そう、深呼吸をして——)
「フゥーーッ。……それで、どういう事か説明してくれないかしら?」
セシルは申し訳ないと感じているのか分からない顔で答えるアルフレッドに怒りが溢れるが、深呼吸をしてなんとか怒りを鎮めた
アルフレッドがこういう男だということは、セシル自身既に理解していたのだ
怒りを鎮めたセシルはまず、事情の説明をアルフレッドに求めた
「セシルも昨日、ポルティアの報告を聞いていただろう?その少年……リベル君に会いに行ってきたんだよ」
(報告?……あー)
「あの得体の知れない子供が来たとかいう話?
……でもなんでアンタが動くのよ?」
セシルは、昨日理事長室にいる時にポルティアから来た報告を思い出した
ポルティア自身詳しくは分からないが、一応報告をと思い連絡させてもらった——と言った会話を思い出す
しかしその時のセシルは一応聞いていたが、別段気にしていなかった。その少年がなんだと言うんだと思い、話を聞き流していたのだ
「それがあの報告を聞いた後、僕のところにアーグから連絡が来てね。その少年らしき者が来たと聞いて興味を持ったんだよ」
(アーグさんから?……ていうか)
「興味を持ったくらいで急に出て行ったの!?
アンタふざけ――」
「ま、まぁ、まぁ。まずは話を聞いてくれないか。全部聞いたら、きっとキミも納得してくれると思うよ?」
反省しているとは思えない様な笑顔で説明しているアルフレッド
セシルはそんなアルフレッドに再び怒りが込み上げてきてしまった
興味を持った程度で仕事を放り出して行ったのかと思うと、昨日本当に苦労したことを思い出し、怒りが湧き上がってくる
(納得できる!?そんなわけないでしょ!?大体――)
「大体ポルティアさんが得体の知れないって言った程度でしょ?そんな子供がなんだっていうのよ?」
ポルティアは王国の警備長という立場だが、特別強い訳ではない
警備長としてある程度の実力は持っていたが、セシル達と比べてしまうと、雑兵と大差ない程だ
ただそれはポルティアが極端に弱い訳ではなく、Sランクという存在がそれ程だという事なのだが……
「もし、その子供に私が負けたとしてもかい?
それに子供と言っても16歳らしいし、顔も体も割としっかりしていたよ?まぁ……精神面は少し幼く思えたが……しかし――」
「は、はぁ!?アンタその子に負けたの!?」
セシルは信じられないことをポロッと言い、腕を組んで一人で考え込む様に説明していたアルフレッドの言葉を遮った
自分と同ランクの――Sランクのアルフレッドが負けたなど、驚き以外の何でもなかったのだ
「あぁ。
後悔はしてないね。あれは今思い出しても凄い攻撃だった。アハハハハ!」
(腕を!?【閃光】の二つ名を持つアルフレッドが、腕を斬られたですって?)
セシルは開いた口が塞がらないような顔で驚いていた。アルフレッドが少年に腕を斬られた——こんな事を見ていない者が信じるのは無理があったのだ
セシルは何を言っているんだと思い黙っていると、アルフレッドが言葉を続ける
「それに、私が行っていなかったら死人が出てただろうね。何せ私が到着した時、彼は凄く怒っていたから」
(話が……全く見えないんだけど?……)
「怒ってたですって?」
「あぁ。なんでも彼の武器を奪おうとする輩に怒ってたみたいでね。アーグも襲われそうになってた所に丁度到着したから、彼のストレス発散の相手をしようと思ったんだが……逆に私がやられてしまったという訳だよ」
武器を奪うという行為に、それは確かに相手が悪いと思ったセシル
しかしそれでも、アルフレッドが負けたなど信じられなかった
「……それで昨日帰ってこなかったの?」
「あぁ。体調が良くなかったから、アーグにギルドで休ませてもらったんだよ」
全てが信じられない様な内容で困惑しているセシルに、アルフレッドが追い討ちをかけた
「それで彼に特別指定推薦を出したんだけどね。彼も来てくれるって承認してくれたよ」
「え!?アンタ特別指定推薦を出したの!?」
「妥当だろ?」
(確かアルフレッドが負けるなら……実力的には大丈夫だけど——)
「あれは王族とかに出してたものでしょ!?
それを試験も受けてない子に出して、しかも途中入学なんて異例絶対目立つわよ?その子自体が……
本当に大丈夫なんでしょうね?」
特別指定推薦という言葉にセシルは反応した。
あれは今まで、優れた王族にしか出されていないような推薦だったのだ
それにセシルはアルフレッドの話が本当なら、
そんな少年を入れるということにも疑問があった
「彼を怒らせないかが心配だが……まぁ……彼も同じくらいの子に本気で怒りはしないだろう。……多分」
自信なさげにそう言うアルフレッドの言葉に、セシルは心底不安になった
「あー、それと、彼には嘘をつかない方がいい。アーグがそれで一度嫌われてしまったからね。まぁもう大丈夫なんだが」
「はぁ??どう言うことよ?」
「どうやら彼はなんらかの手段で、相手の嘘を見抜けるようだ。そんな彼からすれば……まぁ、確かに嘘をつかれていい気はしないだろうね」
(嘘を……見抜く?水晶みたいな能力じゃない)
「それに力も武器もまだまだ持っているみたいだよ?私の相手をした時も身体強化魔法を使ってなかったように感じたからね。それに――」
ガシッ!——
セシルは次から次へと、驚く事をサラッと言うアルフレッドの肩を力強く掴んだ
ビクリとして驚いているアルフレッドに、セシルは満面の笑みを浮かべている
「ちょっと、もっと詳しく聞かせなさい?分かった??」
「!!あ、あぁもちろんだ。…………その、肩……痛いんだが」
一人で解決する様なアルフレッドに、セシルは怒りが蘇った
アルフレッドはその、セシルこ笑顔に顔を強張らせている
そしてこの後アルフレッドは、セシルが納得するまで説明して、長々と話すハメになった——
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