入学面談
現在、剣魔総合学園の学園長をしているセシル=クリーネは、学園長室で少し緊張しながら待機していた
今日は遂に、最近の悩みの種である少年――リベルと会う予定だったのだ
ギルドマスターのアーグから、リベルは最近盗賊の討伐依頼を受けていたと報告を受けたセシルとアルフレッド
セシルはその後聞いた報告内容に驚きを隠せなかった
普段笑顔を崩さないアルフレッドも、その報告を受けた時は苦笑いをしていた
盗賊討伐なら二人でも楽にこなせるが、内容が、
二人からすれば摩訶不思議な報告だったのだ
そんなリベルを、現在アルフレッドが迎えに行っているので、もうすぐ到着する頃だと思うと余計に緊張してくる
セシルは何故自分が緊張しなければいけないのか分からないが、今まで聞いたリベルの報告からどうしても緊張してしまう
しかし、それも仕方のない事だろう。何せセシルがリベルについて聞いていたことは——
冒険者ギルドで怒って暴れていた。
アルフレッドより強く、しかもまだまだ本気を出していないかもしれない。
元Aランクの盗賊の頭を躊躇なく瞬殺など、普通の少年にはあり得ない内容だったのだ
そんな事だけを聞いたセシルからすれば、リベルは問題児そのものだった
そんな問題児が、自分が代表を務めている学園に入学することに、セシルが悩まないはずもなかった
さらには迎えにいく前、アルフレッドに言われた言葉。
――普通の少年と接するようにでいいよ?というか、その方がいいだろうね――
と言われたことにより、余計に意識してしまう
アルフレッドやアーグの報告を聞いた後にそんな事を言われても、既に遅かった
セシルは報告を聞かない方が良かったなどと思いながら、必死に冷静を保とうとしていた
(そうよ。相手はまだ子供――少年なのよ。
アルフレッドに勝って、盗賊を一瞬で壊滅させる力を持った普通の少年…………って、どこにそんな少年がいるのよ!?あーもう!!アルフレッドはなんであんな平然としてるの!?)
が、それは難しいようだ
セシルには、自分の腕を斬った相手に平然としているアルフレッドが全く理解出来なかった
(一応お菓子は準備してるけど……何かあったら二人で抑えられるかしら……)
そんなことを考えながらセシルが冷静になろうとしていると、ドアをノックする音が静かな部屋に響いた
「セシル、私だ。リベル君を連れて来たよ」
(来た。……フゥーー)
「分かったわ」
セシルの返事の少し後、ドアがゆっくりと開かれた
「さぁ、リベル君入りたまえ。美味しいお菓子も準備しているよ」
『ここが学園長室?結構広いね』
ドアが開かれ、アルフレッドが入ってくる
しかしセシルの目は、その後ろからひょっこりと現れた少年に釘付けだった
アルフレッドの話を聞いていなければ、リベルは警戒もしないようなカッコいい普通の少年だ
しかし、リベルのことを事前に聞いていたセシルは、他の者と同じように見惚れたりはしなかった
「あなたがリベルね?初めまして。私はアルフレッドとこの学園の代表を任されている、セシル=クリーネよ。気軽にセシルって呼んでね」
『そうです!!俺の名前はリベルって言います!よろしくお願いします。セシルさん』
(あれ?意外と……)
冷静を感じさせるような態度で挨拶をしたセシル
すると、対するリベルも、丁寧に笑顔で挨拶を返してくる
セシルは想像していた様な少年とは全く違う態度に、少し安心していた
正直セシルは、もっと荒っぽくて短気な者を想像していたのだ
「丁寧な自己紹介ありがとね。正直もっとこう……砕けた感じだと思ってたんだけど、意外とちゃんとしてるのね」
『そうでしょ?フフッ。いやー、俺だってもう
ちゃんと挨拶くらい出来るんだよ。それに、初対面は丁寧に接すること——って教わっているからね。そう!!第一印象が一番大事なんだよね!アハハハハ!!』
(……こっちが素なのね)
先程の丁寧な感じから一変、元気で砕けた口調になってしまうリベルは手を腰に置き、胸を張って高笑いしていた
セシルはその見た目とは一致しないような言動に、アルフレッドが以前言っていた意味をなんとなく察した
「来てくれてありがとね。座ってお菓子でも食べながら話しましょ?」
『え??そう?それじゃあ、いただきまーす!』
そう言ってリベルは、長いソファーのような椅子に遠慮なく座った。用意されていたお菓子をすぐさま口に運び、ムシャムシャと食べ始めている
(……普段こう言っても、みんなあんまり手をつけないんだけどね。むしろ気持ちがいい食べっぷりだわ)
普段セシルが同じことを言っても、他の生徒や先生達、用事で来た客などはあまり手をつけなかった
もちろん緊張なども多少しているのだろうが、いずれにせよリベルのようにすぐさま食べ始めたりする者を、セシルは見たことがなかった
『この椅子フカフカだね!それにこのお菓子も凄く美味しいよ!――それで今日何の話をするの?』
リベルは口に食べ物を詰めながら質問している
今日は入学前の面談、ということでリベルを呼んでもらっていた
それはセシル自身話したこともない、もしかしたら危険人物かも知れない少年を入れるなど納得できなかったからだ。リベルという少年と話してみて、どんな人物なのかを知りたかったのだ
「今日は、私が少しリベルと話してみたくて呼んだのよ。アルフレッドとは話をしたみたいだけど、私とは話してないでしょ?」
『そうなの?話するのは別にいいけど……アルフレッドさんも食べる?』
セシルの隣に黙って座るアルフレッドが気になったのか、リベルがお菓子を、ほんの僅かだが分けようとしていた
「私は大丈夫だよ。今日はセシルがどうしても君と話したいというから呼んだだけで、私は一応いるだけだからね。まぁ……学園代表の二人との、入学面談だとでも思ってくれ」
『そう?美味しいお菓子もあるし、何でも聞いていいよ』
(……お菓子なかったらダメだったのかしら…………)
セシルはお菓子を貪りながら言うリベルにそんなことを思ったが、すぐに振り払う
「ありがとね。私はリベルを直接見たかったのよ。それじゃあ早速だけど、リベルはアルフレッドに勝ったのよね?正直アルフレッドはどうだった?」
『ん??あー、アルフレッドさんね。まぁまぁ速かったし、結構楽しかったよ?』
【閃光】の二つ名を持つアルフレッドを、まぁまぁ速かった——と言われてセシルは驚いた
本当にそんな程度にしか思っていないのか、それとも冗談なのかが、セシルには判断出来なかった
『セシルさんもSランクなんでしょ?』
「そ、そうね。でも、私はアルフレッドと違って魔術師だから、肉体派ではないわね」
『魔術師?』
「魔法を使って戦う人のことを魔術師って言うのよ。この学園は、魔法や剣に優れた人達がそれぞれ成長するための場所なの。剣士は魔法が苦手な人が多いけど、身体強化魔法くらいは完璧に使えないと、上には行けないからね」
アルフレッドがリベルとの戦闘で使った身体強化魔法は、文字通り身体の能力を強化する魔法だ
これは身体強化魔法の練度とその者の身体能力によって効果が変わっていく
しかも魔法と言っても身体能力の向上をするだけというものなので、Sランク以上の身体を使う者達は、その身体に染み付いていることが多い
つまり身体や技を鍛え上げた者達は、別に使うと意識しなくとも自然と使える様になっている、ということだ
『ふーん。魔法と剣でクラスが分かれてるの?』
「いいえ、一緒よ。魔法を使う者も、剣を使う者も、お互いのことをよく知らないといけないからね。それに魔法や剣って言っても、武器は人それぞれよ?剣以外の武器を使う子なんかもいるし、得意な魔法も違う。それぞれが互いに競い合って成長していく学園なの」
その後も矢継ぎ早に質問してくるリベルに、セシルは淡々と答えていく
セシルが話したくて呼んだのに、まるで逆のような立場になってしまっていた
だがセシルの方も、リベルと話して性格などを見るという目的は達成されていたので、何も問題はなかった
『面白そうだね!早く学園に行ってみたいよ!』
セシル自身リベルと話してみて、何も問題など感じないような結果だった
怒った時に人が変わるようだとアーグから聞いていたが、実際怒らせてみる訳にもいかない
これが普段な様子なら何も問題は無さそうだと、セシルは思った
(大丈夫そう……よね?まぁ、楽しみにしているリベルを今更断れないし、断る気もないわ)
「そう、それは良かったわ。それじゃあ面談はこのくらいで大丈夫よ。今日は付き合ってくれてありがとね。アルフレッド、帰る前、リベルに合うサイズの制服を渡してくれる?」
「了解だ。それじゃあリベル君。別の部屋で制服を試着してみようか。ついてきてくれ」
『了解でーす。あっ、お菓子ごちそうさま。またね、セシルさん』
アルフレッドの真似をするように返事をして出て行くリベルに、セシルは手を振って送り出した
危険かもしれないリベルを見定める為呼んだセシルだが、アルフレッドが言っていた、この国に執着を持ってもらうと言う目的も十分に理解していた
なので初めから断る気は然程なく、ただ一度、
リベルと話をして見たかったのだ
(アルフレッドがまぁまぁ速いとか……ハァー。もう何も起きないことを願うしかないわね。……多分無理だと思うけど)
セシルはこれからどうなってしまうか悩みながらも、入学手続きを全て片付けた——
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