会食後のリベル
食事を終えカレンと別れたリベルは、学園に戻っていた
他のクラスも授業が終わっており、皆学園の敷地内で自由に過ごしている
そんな生徒達を全く気にせず歩き続けていたリベルは、Sクラスの寮を目指してい
しかしリベルは、ダルフから寮で過ごすとは聞いていたものの肝心の場所は聞いておらず、寮の場所が全然分からなかった
しばらく歩き、もうめんどくさいから誰かに聞こう——と判断したリベルだが、間の悪いことに周囲には誰もいない
少し前まで女子達が遠巻きに見ていたが、リベルが顔を向けるといなくなってしまったのだ
リベルは疑問を持ちながらも特に気にしていなかったが、あの時追いかけて聞けば良かったと少し思う
仕方がないから人通りがいい場所に行こうと移動するリベルは、見覚えのある人物達を見つけて向かって行った
『ねぇ、ここで何してんの?』
「あ?誰だ――ってリベルじゃねーか!」
「リベル君!!俺達は君に言われた通り、鍛錬をしていたんだよ!今の俺は、さっきの俺よりも成長しているだろう!!」
そこでは、ランダとディーンが二人で修行をしている様子だった
リベルがあの場を去った後、ディーンがいつも通り鍛錬に行こうとすると、リベルの突きを見て興奮していたランダも一緒について来たのだった
二人は互いに切磋琢磨する相手として仲が良かった為初めてという訳でもなく、二人で問題なく鍛錬をしていた所だった
しかしリベルはそんな事より寮に行きたいらしく、全く興味を持っていないかった
『鍛錬??あー、そんなこと言ったっけ?まぁどうでもいいんだけどさ、寮がどこにあるか教えてよ』
「ん??寮かい?Sクラスの寮はあの建物だよ。あの奥に見える、大きな家みたいな所だね」
『そっか、ありがとね。それじゃあまた、鍛錬にでも励みたま――』
「おい待ってくれよリベル。一緒に修行しねーか?」
鍛錬に励みたまえ――と言おうとしたリベルを、ランダが引き止めた
『えー。修行する必要ないからいいや』
「それなら……もう一回。一回でいいから、さっきのリベルの突きを見せてくれねーか?あの威力はまるで【拳聖】を思い出させるものだった」
『【拳聖】?……どうでもいいけど、今気分じゃないんだよねー』
そう言うリベルは、眉を顰めた顔でランダを見つめている
リベルはそんな事今まで言われたことがなく、
いきなりパンチを見せてくれと言うランダに少し疑問を持っていたのだ
(パンチを見たい?……嘘は言ってないみたいだけど、なんで見たいんだろ?)
ランダはただ単にリベルの突きを見たかっただけだが、リベルにはランダが何を考えているのか理解出来なかった
リベルからすれば、見せて何になるんだ?と言う疑問が大きかったのだ
だがどうしても見たいと思っていたランダは――
「クッ!……な、ならこの壁を壊せるか見せてくれよ。この学園の壁には先生達によって衝撃をある程度耐える防壁が張られているんだ。修行の必要がないリベルなら当然、これくらい破れるんだろ?まさか……破れない訳じゃないよな?」
リベルを挑発するという形で見ようとした
もしこの場にセシルがいれば、何を言っているんだと慌てふためいた事だろう
しかしセシルは冒険者ギルドで話していた為ここにはいるわけがなく、止められるような者は誰もいなかった
そしてランダの挑発は、リベルには意外と効くものだった
挑発された経験など然程なかったリベルは、挑発に対する耐性を持っていなかったのだ
『はぁ??別に、こんな壁くらい壊せるし』
「なら証拠を見せてくれよ。まぁ、俺もリベルなら壊せるんじゃないかと思うけどな」
『こんな壁楽勝だし』
そう言ったリベルは黙って――しかし挑発された為、力強く拳を放った
防壁が張られた壁にリベルの拳がぶつかり、辺りが少し揺らぐ程の衝撃と音が学園中に響いた。その衝撃は壁など易々と打ち砕き、更に直接上の壁を貫通する
その瞬間を見ていたランダとディーンの二人は、衝撃に耐えながら目を見開き、その光景に見入っていた
強さを求める二人からすれば、そのリベルの強さは思わず興奮してしまうような光景だった
「ハ、ハハ。ハハハハ!!やっぱり凄え威力じゃねぇか!」
『フッ、こんなの当然だよ。いやーこれくらいで驚かれると、俺も困っちゃうな〜。それじゃあ俺は寮に行くから、君達も鍛錬を頑張りたまえ。ハァーッハッハッハ!!』
「うぉーー!!流石リベル君!俺も沢山壁を壊せるように頑張るぞー!!」
スカッとしたリベルは褒められて上機嫌になり、高笑いしながら二人を応援するような事を言ってその場を去った
後ろでディーンが頭のおかしな事を言っていたが、リベルは気にせず足軽に歩いて行く
――これはリベルの知らぬ事だが、この後ランダとディーンは、何事かと慌てて来たダルフに事情を説明した後、もう二度とリベルを挑発するな!絶対だそ!?――と怒られていたのだった
この学園の寮は男女別で建物が分かれている
しかしSクラスは人数が少ない為、男女で同じ寮となっていた。そのかわり外装や内装もより豪華で、広い家に共同生活するようなものだった
もちろん何か問題を起こせば退学となる為、今まで特に問題は起こらなかった
まるで大きな家のような――屋敷のような寮に着いたリベルは、少し外装を見てから中に入って行く
入り口から真っ直ぐ行くと大きな階段があり、二階には左右に分かれる部屋が沢山あるようだった
(俺の部屋……どこ?自由なのかな……)
リベルは二階に繋がる大きな階段を登り、適当な部屋に入って行く
しかし、その部屋の中には既に先客がいたようだ
「リベル!?ちょ、ちょっと!!なんで入って来てるのよ!」
広い部屋の中にいたのはアリスだった
中でくつろいでいたアリスは、リベルが突然入って来たことに指を差して驚いている
『ここ君の部屋だったの?それじゃあ……俺の部屋どこ?』
「し、知らないわよ!男子はあっちよ!!」
「リ、リベル!!寮の部屋を教えていなくてすまなかった!」
アリスがリベルへ文句を言っていると、慌てた様子のダルフがやって来た
ダルフはディーン達に事の経緯を聞いた時、リベルに寮での部屋を伝えていない事を思い出した為全速力で走って来たのだった
「ダルフ先生!!どういうことですか!?」
「わ、悪かったなアリス。まだリベルに部屋を教えてなかったんだよ。——それじゃあリベルの部屋はあっちだから、俺について来てくれ」
ダルフは今にも文句を言い出しそうなアリスの部屋の扉をすぐに閉じた
そして男子の部屋の方へとリベルを案内して行く
『さっきの部屋広かったね。俺の部屋もあのくらい広いの?』
「あ、あぁ。それに人数よりも部屋数の方が多いからな。広間の中心から二分して、左と右で女子、男子って分けてるんだ。リベルの部屋は……ここがいいんじゃないか?」
ダルフが案内した部屋は、メイナードと一番遠い部屋だった
授業での出来事を考えると、それはとても妥当な判断だろう
ダルフはリベルに、寮についての説明をする
部屋と風呂以外は基本共同スペースだと言うこと。寮内でも飲食が可能な事。他にも簡単な説明をいくつかしたが、Sクラスの寮は基本自由だった
この世界の風呂はとても高価で、風呂のない家の方が多かった
それは入らずとも生活魔法で十分な為だが、貴族の者達は風呂を好んでいる者が多く、風呂は貴族が入るもの——と認識しても間違いではなかった
そんな高級な風呂が寮についている時点で、このSクラスの寮が凄く豪華だということを物語っていた
『ふーん、分かったよ。部屋は別にどこでもいいし、俺はもう寝ようかな』
「そ、そうか。それじゃあまた明日の授業でな」
説明を軽く聞いていたリベルはそう言って、ダルフを一瞥してから部屋に入っていった
中はアリスの部屋同様広い部屋だったが、リベルはすぐさまベッドへ飛び込んだ
勿論疲れていた訳ではなく、リベルは単純に寝たかったのだ
(んーー。フカフカで気持ち良いな)
こうしてリベルは、セシル達の頭を悩ませていることなど微塵も感じず、一人気持ち良く眠りについたのだった——
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