会食後の報告







 

 冒険者ギルドの客室――そこで淡々と、一人で学園での出来事を報告していたセシル


 

 その報告に先程の食事の事など忘れそうになるくらい衝撃を受けていたアーグとアルフレッドは、共にセシルが話す内容をただひたすら黙って聞いていた






 「…………なんてこった。リベルは魔法も使えるのか……」




 「はい。それも……少し出来る——という感じではないくらいにです」




 「…………マジでか?」




 「マジです」






 アーグはセシルの説明を聞き終えると、頭に衝撃が走るような思いに駆られていた






 

 「リベルはファイヤーボールって言ってましたが…………私にはただ大きな炎を丸めただけに見えました。いや、確かに意味的にはファイヤーボールだけど……全然ファイヤーボールじゃなかったですね」




 「それは……なんて言えばいいんだかな……」




 「そうか……。私と戦った時、身体強化の魔法を使っていないように見えたから魔法は使えないんだと思っていたけど……使わなかっただけ……だったんだね」






 三人とも考えている事は同じような事だった



 アルフレッドに魔法なしで勝ったリベルが、実は魔法も使えます――なんて、三人には信じたくないことだったのだ


 





 「一つ聞きたいんだが……セシルの方が上……だよな?」




 「そ、それは……あ、あれだけではなんとも言えないというか……」






 セシルは分からないと曖昧に答えるが、アーグはその答えだけでリベルの異常さを感じていた

 



 何せ、魔術師としてSランクの称号を持っているセシルが、リベルの魔力の底を見抜けなかったのだ。


 それはあんな魔法一回で見抜く方が難しいが、逆にセシルはあれだけで、自分の方が上だと言う自信が持てなくなってしまったのだった



 リベルからすればあれは児戯だったのではないか――という考えをセシルは否定出来ず、何よりリベルにはそう思わせる様な雰囲気があった為、どちらが上かなど現時点では予想出来なかったのだ




 




 「リベルの魔力……今度測ってみるか?」





 「……そうですね。リベルが了承したら、是非」

 




 「これは……本格的にSSランクなんじゃないかな?」





 「「…………」」

 


 




 セシルやアーグも内心思っていたことを、アルフレッドが口にする



 Sランクの中にも力の差は大小あるが、アルフレッドに勝つ実力と未知数の魔法の力。この二つを鑑みると、その可能性は否定出来なかった。もちろんアルフレッドはSランク最強でもなんでもないが、リベルは少なくともSランク上位の力があるのは明白だと、皆が思っていた






 

 「まぁ、それは魔力を測ったり、これからリベル君を見れば分かることだが……」





 「……そうだな。変わらずリベルが常識はずれってことだな」

 



 「…………あっ」







 アーグが無理矢理納得しようとしていた時、セシルは何かを思い出したように声を上げた







 「なんだ??まだ何かあったのか?」





 「何かっていうか……リベルに、マグナが王子だって伝え忘れたのを思い出して……」





 「どういうことだ?」



 

 「それが――」







 そしてセシルは、リベルがソフィアとの戦闘で魔法を使ったことだけでなく、授業であったことを一通り二人に説明した



 素手でもとんでもなく強いこと、メイナードとの一悶着、そして手加減の認識がおかしいということを細かく、溜まった不安を吐き出すように伝えたセシル



 その事を聞いたアーグは更に頭を悩ませ、アルフレッドは黙ってしまっていた







 「…………これは本当に、殺さなきゃ手加減——とか考えてそうだな。そういえばアルフレッドの時も、腕を斬って尚攻撃しようとしてたしな」




 「そうなんですよ。ダルフ先生なんて驚き過ぎて喋ってなかったですからね。なんか申し訳ない気がして……」

 



 「それは……確かに同情しちまうな」




 「一つ……いや、割とたくさん心配があるんだけど――」


 

 


 セシルの話を聞いて黙っていたアルフレッドが、考え込むようにしながら口を開いた



 セシルとアーグは黙ってアルフレッドに視線を向ける






 「まずリベル君に、マグナ君が王子だと伝えたとして……何か変わると思うかい?」






 (それは……確かに)


 




 「王子だと知っても、何も変わらない可能性の方が高いだろう?いくら学園内が身分関係ないとしても、戦わせたらまず良くないことになるだろうね。それはセシルも実感したみたいだし」





 


 的を射た話をしているアルフレッドに、二人とも反論出来なかった


 それは二人ともなんとなく感じていた疑問で、

アルフレッドが言わなくても誰かが口にしていただろうと思えるような内容だったからだ







 「腕を斬ることを何とも思ってないようなリベル君と戦わせて、もし本当に斬られたら?……最上級回復薬エリクサーなんて私はもう持ってないし、持ってたとしてもそうホイホイとは使えないよ?」




 「…………そうね。リベルにちゃんと注意して、戦わせないように気を付けるわ」




 「あと、私が今一番心配しているのはこれなんだが…………リベル君の報告を、アーグはどうする気なんだい?」




  


 アルフレッドの言葉を聞き、頭を抱えてしまったアーグ


 アーグは言われていることがすぐ分かった為、どうしたものかと悩み出してしまった





 新たなSランク冒険者が誕生した――これを国に報告しない訳にはいかないのだ


 しかし報告をすれば当然、この国の中枢や王にまで届いてしまう。だがリベルは面倒事を嫌うと認識していたアーグは、まだリベルの事を国に報告していなかったのだ



 

 



 「……ハァー。それは俺も悩んでいたんだが……報告したらまず良くないことになるだろうな……」




 「だろうね。リベル君を見たこともない者が、私達の話を信じられる訳がない。それに信じたとしても、リベル君をよく思わない者もいるだろう。そうなってしまうと――」

 



 「リベルにちょっかいを出す人が現れそうね。

そうなるとリベルは……厄介事を根こそぎ払いそうな感じがするわね……」




 「「…………」」






 

 セシルは既にアルフレッドが言いたい事をほぼ的確に理解していた


 アーグとアルフレッドも、途中で言葉を繋いだセシルの言う事を否定出来ないでいる



 セシル——いや、セシル達は、そう思えてしまうほどの雰囲気をリベルに感じていたのだ


 もしそうなったら、なんとも思わずその者達を消すのでは?——と思えてしまうような雰囲気が、リベルにはあった



 そして、それを実行できる力があることは明白だった為、報告をしない方がいいのではないかと思う程アーグは悩んでいたのだ

 


 


 

 「報告しない……って手は……どう思う?」




 「それは……案自体はいいと思いますが…………実際に出来るんですか?」




 「まぁ、後で文句は出まくるだろうけどな」



 




 解決案など浮かばず、引き延ばす事しか思い浮かばなかったアーグは、報告すればどうなるか分からず、報告しなければ何故しなかったと文句を言われるのは目に見えていた



 ポルティアからのリベルが入国したという報告をまともに聞いていた者が少なかった為、まだ上までは伝わっていなかったのだ



 リベルが冒険者登録したと聞いたポルティアは、アーグに一任――押し付けていた


 Sランクのセシルやアルフレッドもいるならと、アーグは半ば強引に押し付けられていた




 ポルティアの報告がしっかり届いていたのはこの三人だけだった為、リベルの事で頭を悩ませているのはこの国でアーグ達のみだった



 全員がしばらく黙りこんでいると、アルフレッドがアーグの意見に賛同し出す



 




 「……報告をしない。私も、やっぱりそれが一番だと思うよ」




 「だがそれは――」




 「アーグとセシルの懸念はもっともだが、報告した方が悪い結果になりそうだろ?文句を言われたらちゃんとその時、理解してくれるように説明すればいい」




 「そう上手く行くかしら……」




 「行かなかったら言ってやればいいさ。下手すればこの国が滅んでいたかもしれないけど、よかったんだな?――ってね。そうなれば私達では止められないんだから、これはもうしょうがないよ」






 アルフレッドの言葉に、セシルとアーグはそれが一番現実的な案で、自分達としてもその方が気持ち的に助かると思った




 ——SSランクの者を敵に回すとどうなるか……

それは既に、歴史が示していたのだ


 過去にSSランクの者が怒り狂い、町や小国が滅んでしまったことがあったからだ


 その者は他のSSランク達が協力して倒したが、被害は莫大なものとなっていた



 その為、そんなSSランクかもしれないリベルをわざわざ敵に回すなど、三人には愚かとしか思えなかったのだ






 「そうね……それに私達が強く主張すれば、いくらなんでも無視は出来ないでしょうしね」




 「あぁ。学園でリベル君の様子を見ていた——とか言ってもいいだろうし。……まぁ実際、見てないと何かしそうでまずいけどね」


 


 「そうだな。セシルとアルフレッドが二人でリベルを見ていた――って言えばいいか」

 



 「そうですね、それで行きましょう。アルフレッド、これからアンタも授業に出てよね。ていうか、可能なら二人の方がいいと思うんだけど?」




 「そうだね。私も仕事を早く片付けて行くとするよ」





 こうしてリベルの報告は、まだ先延ばしにする事で決定となった。本来ならばまずいことだが、今回はそれが最善だと思えたのだ



 それで三人は納得し、少し談話をしてから、セシルとアルフレッドは学園に向けて戻って行ったのだった——



 

 



  *****







 

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