各々の実力——リベルvsソフィア——
『それで――そこの二人はやらないの?この中ではトップの二人なんでしょ?』
そう言ったリベルはソフィアとマグナを眺めているが、その顔はどちらでもいいという感じだった
「私が……やる」
「「!!」」
「ソフィアもやるの!?」
「これは楽しみだ!!観戦してソフィアに勝つ方法を考えるとしよう!」
ソフィアの参戦でアリス、ディーンだけではなく他の生徒やダルフ、セシルまで驚いていた
ソフィアの魔法の扱いはクラストップレベルだが、普段物静かな性格で、みんな程好戦的ではなかった
いつも魔法に関する本などを読み、一人静かに過ごすことが多い様な生徒だ
皆はそんなソフィアが自分から戦いたいと言ったことが驚きだったのだ
「リベル……凄く強い。でも本気を出してるようにも……見えなかった。だからやってみたい……」
(まさかソフィアが自分から戦うなんて……)
『ふーん、見る目あるんだね。なんか面白そう。セシルさん、合図お願い!』
「ソフィアも準備はいい?」
「ハイ……」
そう答えるソフィアの周りは空気が白く霞んでいる
既に準備は出来ているようだ
「それじゃあ——開始!」
セシルが開始の合図を言った瞬間、ソフィアが素早く腕をリベルに向けて伸ばした
すると、伸ばした腕の直線上の地面が、音を立てながらリベルに向かって凍っていく
周りの者は既に、巻き込まれないよう離れていた
リベルは直線から外れ、横に素早く移動して回避をしている
『意外と速いね』
「まだこれから……——[アイスニードル]」
回避したリベルにソフィアが追い討ちをかけた
宙に生成された沢山の氷がリベルに向かって飛んでいく
次々と生成され飛んでいく氷を、リベルは全て拳で砕き、防ぎ切っていた
『確かに速いし数も多いけど……これじゃあ当たらないよ』
「知ってる……それは囮だから」
『!?』
何度も生成される氷を砕きながらソフィアに近づこうとしたリベルは急に止まり、何やら違和感を感じた腕を確認する
その左腕には、腕の一部を覆うように氷の塊が付いていた
これにはセシルも驚き、ソフィアの魔法に感心している
(あの氷……なるほど。凄いわね)
『……何これ?いつ当たったんだ?』
「[アイスファレ]さっきの攻撃の時仕掛けた……気付かないなら私の勝ち」
『仕掛けた?…………あっ、よく見ると――周りになんかあるね』
目を凝らして空気中を見るような動作をしたリベルは、何かに気付いたように周りを見渡していた
「見えるの?…………そう、リベルの周りにはもう[アイスファレ]を沢山仕掛けてある。……これは、当たれば当たる程凍って広がっていく……最後には全身が氷に覆われちゃうから……動かない方がいい」
ソフィアのアイスファレは、魔力をあらかじめ仕掛けて置き、それに触れると発動するという凄い魔法だった
ソフィアは囮の攻撃をして、リベルの意識がそちらに向いている時にこの[アイスファレ]を仕掛けておいたのだ
しかもこの技は空気中の水に干渉することで、
空中にも仕掛けることができるものだった
これはソフィアが魔法の扱いを高めたからこそ出来た応用技だ
また、それは目に見えるようなものではなく、微かに魔力を感じる程度のものだったので、実力のない者は感じることもできないだろう
セシルは魔法に長けていたので、ソフィアの魔法による魔力を正確に感じ取り、見抜いていたのだ
だがリベルは食らってしまったものの、周りの状況を集中して見たことで感じることしかできないような魔法が、今は目でしっかりと見えている
『囲まれちゃったなぁ』
「うん。だから……これも避けられない。降参するなら止めるけど……どうする?」
『ん??あぁ、全然大丈夫だよ』
話している間に、先程よりも大きく鋭い氷が大量にリベルの周囲や頭上に生成されていた
もはや、降り注ぐ氷を避ければ仕掛けられたアイスファレに当たり、避けなければそのまま攻撃が直撃するような状況だった
しかしリベルは涼しい顔のまま氷を見つめており、焦りは見えなかった
「……そう。なら、勝たせてもらう――
[
ソフィアが腕を下ろすと同時に、全ての氷がリベル目掛けて飛んでいった
その様子を、セシルは止める——などという判断は頭に浮かばず、ただリベルがどうするのか気になって見つめていた
すると、片手を上げて笑顔になったリベルの顔が目に映る
途端——
『ふぁいやーぼーる、なんちゃって』
「えっ……」
「「!!」」
リベルが上げた手から、先程のアリスのものよりさらに巨大な火球が現れた
その火球から放たれる空気は蒸し暑く、降り注いだ大量の氷は全てその火球に近づき、熱気で溶けてしまう
ソフィアはリベルが魔法を使っているのを見て驚いているが、それは見ていた者全てが例外ではなかった
(リベルは魔法も使えるの!?嘘でしょ!?)
この場にいる全員が、セシルと同じ事を思っていた
アルフレッドとの戦いや武器の話を聞き、リベルは武闘派だと思い込んでいたセシルは目の前の光景に驚き、アルフレッドに文句を言いたくなる
ダルフなど魔法を使うリベルを見て、口をあんぐり開いてしまっている
「……リベルは……魔法も使えるの?」
『??当然でしょ。えっ、逆に何で使えないと思ってたの?ビックリなんだけど』
(いや、私達が勝手に勘違いしただけだけど…………でも、あんなに近接強いのに魔法も使えるなんて……思わなかったのよ……)
『それで、仕掛けた魔法も一緒に消えたけどどうする?フフッ、降参するなら止めるけど?』
ソフィアに言われた事を言い返すリベル
既にあの巨大な火球によって、空中のアイスファレも全て打ち消されてしまっていた
ソフィアと話しているリベルは、巨大な火球を指で動かしながら楽しそうに話している
「…………負けた……降参する」
『そう??まぁ楽しめたからいいけどね。それに[アイスファレ]だっけ?あの魔法は面白かったし、一発当たったから特別に合格にしよう!』
ソフィアは勝てないと冷静に判断し、手を上げて降参ポーズをとった
ソフィアの降参を受け入れ魔法を評価していたリベルだか、これはセシルも同様だった
やはり、魔法の扱いはソフィアが頭一つ抜けていると、ソフィアを高く評価していた
だが、リベルが食らってしまったのは、リベルが罠などの小細工に意識を割いたことがない為だった
もちろんそれは、食らっても平気——という意味での油断だったのだが、それを知る者はこの場に誰もいなかった
『それで、最後の人はどうする?』
そう言ったリベルの視線は、この国の王子であるマグナに向かっている
マグナは学園の試験を難なく合格した優秀な生徒だ
この国の王族という身分でありながら、勉強も鍛錬も
セシルは、王族だからと慢心せず頑張っているマグナを高く評価していた
魔法と剣の両方をバランス良く扱い、ソフィア
同様このクラスでは頭一つ抜き出ていたのだ
そんなマグナを、リベルは凝視していた
『さっきの人と同じくらいは強いんでしょ?
楽しませてよ』
(確かにマグナは王族だからって怠けないくて優秀だけど、流石にリベルには勝てないわよ。そう、王族だけど…………ん?……リベルはマグナが王族だって知ってるのかしら)
リベルを眺めて思考していたセシルはふとそんな事を思い、猛烈に嫌な予感に襲われた
アルフレッドとの会話を思い浮かべ、リベルが数日前に初めて入国したという事を思い出したのだ
そのことによって早急に、正確に結論を導き出したセシルは焦った
(絶対知らないじゃない!!まずいわ!学園内で身分は関係ないとはいえ――いや、関係あってもリベルはダメよ!!)
「リ、リベル?今日の授業の時間はここまでだから……戦いはやめときましょ?」
『え??じゃあ一瞬で終わす?』
(いや……それはもっとダメ。というか絶対ダメ)
「学園長、僕のことでしたら大丈夫です。僕もリベル君と対戦してみたいと思っていた所です」
セシルはマグナの言葉に、リベルは大丈夫じゃないのよ!――と叫びそうになってしまう
ましてリベルなど、セシルが想像したくもないような事を言っていた
両者共やる気満々の様子だが、セシルは既に、
絶対に戦わせないと意を決していた
(絶対この二人は戦わせちゃダメ。でもどうすれば……リベルの気を引けるもの…………あっ)
「……リベル?授業が終わったから、これから
一緒に食事をしようかと思った所なんだけど……嫌かしら?」
『えっ、本当!?いいよいいよ、早く行こう!
少し動いてお腹減ったしね!!』
セシルの言葉を聞いたリベルは、完全にマグナとの戦闘から食事に興味を移していた
その様子にセシルは心の底から安堵する
セシルは当然、アルフレッドに言われた通りリベルに嘘をつかないようにしていた
今の言葉も、用意していない食事を用意していた——と言っていれば、リベルには嘘だと分かっていた。しかしセシルは、リベルの気をマグナから逸らす為にどうするかと考えた結果、美味しい食事をすればどうか――と思った為、嘘にはならなかったのだ
「そう、それは良かった。みんな!今日の授業はここまで。いつも通り解散して、寮に戻るなり修行するなり自由にしてね」
「「ハイ!!」」
マグナは残念そうにしていたが、仕方ないと納得してくれたようだった
セシルと食事に行くというリベルを一部羨ましがっていたが、戦闘が終わった今、リベルに文句を言う者は誰もいなかった
もっとも、メイナードは気絶しているので言えなかっただけかもしれないが――
(……後でリベルに、マグナは王子だって教えた方がいいわね。そうすれば流石に大丈夫……よね?)
「……それじゃあ行きましょ?リベル」
『はーい。それじゃあ諸君。俺は食事に行くから、君達は鍛錬にでも励みたまえ。ハァーハッハッハ!!』
食事がよほど楽しみなのか、こちらを並んで眺めているみんなにリベルは挑発にも聞こえることを言い放った
ディーンは修行をする事に乗り気だったが、リエン達はいつかやり返してやろうという気に満ちていた
セシルはリベルの喋り方が、偉い人にもきっとこうなのだろうと、既に悟っていた
そしてそれを直すことは出来ないだろうとも思い、諦めのような悟りを感じていたのだ
(アルフレッドも食事に呼ぼうかしら……いや、絶対呼んでやる)
セシルはそんな事を考えながら、生徒達に背を向けて歩き出した——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます