殲滅
王国の門付近——
既に門の側には来たる魔物を討伐する為数多くの騎士団が整列しており、国を守ろうとする心の優しい冒険者達までも集まっていた
そんな中セシルは、国の上空でもう目を凝らさなくても見える程の距離にいる魔物の大群を見つめてきた
すると下で手を振っているアルフレッドを発見し、降下していく——
「どう??リベルと連絡は取れたの?」
「あぁ取れたよ。既に起きているようで、今から向かうってさ」
「そう、それは良かったわ。前みたいに寝坊した——なんてことがリベルならあり得そうだったから……少し心配だったのよね」
リベルが寝坊するのではと心配していたセシルは、アルフレッドに早めに連絡をしてもらっていた
こんな危機に寝坊する者などいないと思いたかったが、何せリベルならばありそうだと、セシルは思ってしまったのだ
だがそんな二人の周りでは、セシルとアルフレッドが揃った光景を見て騎士団や冒険者連中が騒ぎ立てている
二人は一万の魔物など不可能だと思っていたが、それを知らぬ者からすれば心強い味方なのだ
すると二人の元に、パルメシア王国の騎士団団長――ガヴェインが近付いて来た
「セシル殿、アルフレッド殿、失礼する。此度の作戦について話をお聞かせ願いたいのだが――」
「ガヴェインさん、どうぞそんなに畏まらないでください」
「そうは行きません。お二人はSランク冒険者であり、陛下の信頼厚い方達なのです。陛下の剣として仕える私の身では、お二人に礼を尽くすのは当然のこと」
そう言って馬上から降りたガヴェインは、アーグ程あると思われる背丈と体格をしている
その男はセシル達より少し歳が上で、日頃の鍛錬によって鍛え上げられた素晴らしい肉体、そしてその背中には大きな大剣を背負っていた
逞しい身体を鎧に包んでいたガヴェインは改めて二人に作戦を尋ねるが、セシル達は顔を見合わせて苦笑いした
「そ、その事なんですけど……騎士団の皆さんは、ここで待機していてくれませんか?」
「それはどういう……まさか、お二人のみであの魔物を倒す気なのですか?」
「二人と言うか……多分一人……だと思うんですけど」
「なっ!?」
「ガヴェイン殿。詳しくは後で説明するので、
今はセシルの言う通り、ここでの待機を命じてくれないだろうか」
アルフレッドにそう言われたガヴェインはその指示の真意が分からず困惑している様子だったが、
Sランクである二人の言葉に従った
——歳はガヴェインの方が上だったが、Sランクでこの国に仕えているセシル達はガヴェインからしても、まさに英雄のような存在だったのだ
その為言葉遣いも丁寧なもので接しており、現在もセシル達の言う事ならと納得して、皆に命令する為馬に乗り騎士団の方へ向かって行った
「ハァー…後で絶対騎士団の人に……というか陛下にも聞かれそうね」
実はアーグ、騎士団になんの説明もしていなかったのである。しかしそれも当然の事で、死体処理に来てください——など、騎士団達に言えるはずがなかったのだ。その為騎士の団員達は、一万の魔物というこの国の危機的状況に、皆命を懸ける思いで集まっていた
自分達は何もしないなど、これっぽっちも知らずに……
「そうだろうね。今回の件がリベル君に頼る他ないのは事実だが……これで、これ以上リベル君の事を隠せなくなるだろうね」
「分かってるわよ、そんな事。……ハァー、リベルはあんな数をどうする気なのかしら」
セシルが溜め息混じりにアルフレッドと話していると、門の方向から、誰かに注意をしているようなガヴェインの声が聞こえて来た
「君は何故こんな場所にいるんだ!ここは時期に戦場となる、君は危ないから避難したまえ。――
おい、誰かこの少年を避難させろ!国民には絶対に被害を出すな!!」
『オジサン……いや、ヒゲ生えてないし若そうだからお兄さんかな?……まぁどっちでもいいんだけどさ、そんな事言ってないで早くどいてくれない?本当に帰るよ??』
(あれは……リ、リベルじゃない!!)
「ちょっ、ちょっと待ってくださいガヴェインさん!!この子は通して大丈夫……というか、通さないとダメなんですよ」
セシルが声の方に視線を向けると、そこには二人が待っていたリベルが、今まさに帰されようとしている所だった。そんな様子を見たセシルは慌てて止めに入ったが、驚いたガヴェインが事情の説明を求めている様子だったので、説明をする為騎士団の皆から少し離れたところまで連れて行った
「セシル殿、これはどういう事ですか?ここは危険で――」
「あ、あのですね、ガヴェインさん。さっきも少し言ったんですけど……このリベルって子が、今回一人で魔物を倒して国を救ってくれる子なので……
リベルにはここにいてもらわないとダメなんですよ」
「なっ、正気ですか!?」
「どうか落ち着いてくださいガヴェイン殿。この少年――リベル君は私達よりも強いので大丈夫です。実力は……恐らくSS級でしょう」
「えっ、SS級ですと!?で、ですが……まだほんの少年ではないですか」
『はぁ??……ねぇセシルさん、この人もしかして、俺のこと馬鹿にしてる?』
アルフレッドの言葉が信じられず、リベルに疑問を持ちながら見つめるガヴェインの言葉に、リベルが反応した
どうやらリベルは、ガヴェインに馬鹿にされているのではないかと思ったようだ
セシルは、そんなリベルの様子に慌てて説得した
「ち、違うわよリベル。ガヴェインさんはリベルが心配でそう言っちゃったのよ。ほら、リベルは強いけど、ガヴェインさんより全然年下でしょ?だからつい、心配になっちゃったのよ」
『……まぁ、それならいいけどさ』
「それよりリベル君。魔物がもう少しでここに到着しそうなんだが……ここに来るまで、もう後10分もない」
セシルの説明に納得していたリベルに、アルフレッドは魔物の大群を見ながらそう言った
実際、魔物達は既に遠目に姿を確認出来るほど近付いて来ており、騎士団達にも戦闘が始まりそうだという緊張が走っていた
「それで、リベルはあの魔物をどうやって倒す気なの?私達にも何か手伝える事があったら、何でも言ってね?」
『うーん、特にないかな。それに、まずは数を減らそうかと思ってるんだよね。カレンさんも、流石に一万も死体いらないだろうしね』
(……私達は本当に必要としてないみたいね。
Sランクになってから、こんな事初めてだわ)
『まぁそう言うことだから、お兄さんは黙って見ててよ。出しゃばって死んでも知らないからね?』
リベルはそう言ってガヴェインを一瞥すると、宙に浮かんで飛び出した
リベルは門付近で整列している他の騎士団や冒険者の皆よりも前――魔物の方へと向かって行き、
群れの少し前まで飛ぶと降下して降り立った
リベルが魔物と一キロメートル程離れた場所に降り立つのを、一応後をついて来たセシルは少し後ろの上空から眺めていた
その後ろでは騎士団達が、あの少年は何をしているんだという顔で見ていたり、実際に危ないと騒いでいる者もいた
しかしその騒ぎは、この後リベルが戦いを始めたことですぐ収まる事となる——
『確かに数はいるけど、強い奴はそんなにいないんだよねー。……こんなにいるし、久しぶりにあれ使うか――——来い、【神槍グングニル】』
そう言ったリベルが掴むその槍は、細くしっかり伸びる柄の先に、敵を貫く為大きく力強い先端をしていた
シルバーと蒼白が混ざり鮮やに輝くその槍は、
正に神が持つのに相応しいと言えるような神々しい槍だった——
そんな槍を手にしたリベルは足を大きく後ろに開き、身体中に力を入れるように深く投擲の構えをとり、そして放った
『――[グン・グニル]!』
投擲の構えから、身体中に溜められた力によって放たれたリベルの一撃は、シンプルにして強力な技だった。リベルから凄まじい力で放たれた【神槍グングニル】は横にも縦にも無数に広がる魔物の群れの右の方へと向かい、その槍が通った場所は勿論の事その周り一帯をその衝撃で消し飛ばす
槍が直接通った場所の地面は抉れ、深い道のようなものが出来る
この一撃だけで右側にいた魔物は消し飛ばされ、実に全体の四分の一もの魔物が消滅してしまっていた——
そしてその風圧は後方の者達や上空のセシルにも勿論届いており、見ていた全ての者を驚愕させていた
リベルが出した神々しい槍をじっくり観察していたセシルも、最早それどころではなくなっていた
(う、うそ……何よこの馬鹿げた力……)
セシルは目の前の光景に呆気に取られていたが、リベルが何やら呟いた事で現実に引き戻される
『うーん、後二発くらい?……いや、もう一気に殺ってもいいかもね。――戻れ、【グングニル】』
リベルが戻れ——と言うと、遥か彼方へ飛んで行ったはずの槍が再びリベルの手に現れた
そして再び投擲しようと構えたリベルだったが、先程とは、槍の様子が違っていた
シルバーと蒼白だった槍がシルバーと鮮やかな赤色に変わっており、槍の周りを炎が纏っている
炎を纏わせたリベルは槍が変わったのを確認すると、更に炎を強めてから再び投擲した
『——[
(ちょ!?――――ッ、何よこの威力!!)
リベルが槍を放った途端その凄まじい衝撃で吹き飛ばされそうになってしまったセシルは、上空で飛ばされないよう必死に抵抗ていた
何せ、炎を纏わせて放たれたその槍は先程よりも断然強い威力で放たれており、先程よりも凄まじい風圧と熱気を辺りに撒き散らしていた
その槍は今度は魔物の群れの左側に向かい、そして先程よりも凄まじい衝撃は先程よりも大きな風穴をブチ開けた。炎を纏った槍の直撃を受けた魔物は跡形もなく吹き飛び、さらにその衝撃をまともに受けた魔物まで消し飛ぶ
そして生き残った魔物も、既に誰の目に見ても分かる程数が減っていた——
(もう魔物が……最初に比べると殆どいないじゃない……)
『アーッハッハッハ!!これでちょうどいい感じに減ったかな。あとは――』
(!?ま、魔物が急に倒れて……それに今の感じ――)
満足そうに高笑いしたリベルが黙って魔物を見つめると、セシルの目の前で、生き残っていた魔物達が急に倒れ出した
リベルの攻撃で散り散りに逃げようとしていた魔物や、空を飛んで逃げようとする魔物までもが地面に倒れ込み、動かなくなってしまっていた
セシルはリベルが魔物に向けて何か力のようなものを放ったのは感じていたが、それ以外何も分からなかった。しかもそれも、何か感じた気がする——と言うような程僅かにしか感じていなかったのだ
すると、意味が分からず混乱しているセシルにリベルが近付いて来る
『じゃあセシルさん、後片付けよろしくね。ちゃんと約束通り全部カレンさんに運ばないとダメだよ?』
「……リベルはどうするの?」
『俺はさっき寝れなかったからさ、今から学園戻って寝るよ。別にいいでしょ?』
「そう……何か思ったより一瞬で終わっちゃったけど、とにかく今回はありがとね」
リベルはセシルからのお礼を貰うとすぐさま空を飛んで帰って行った
ガヴェインや騎士団、冒険者など、リベルの戦闘と言えるか分からない程一方的な戦いの様子を見た一同は、自分達の上を飛んで帰るリベルを驚きの目で追っていた
セシルもそれは同じ気持ちだったが、何も言えず立ち尽くす騎士団達を動かす為アルフレッドの傍にいたガヴェインの元へ向かい、無理矢理笑顔を作って指示を出した
「え、えーっと…………ハイ、それじゃあ皆さんお仕事です。あの死体を全て、これから指示する場所に運んでください。見ての通り凄い数なので、協力して出来るだけ早く終わらせるよう頑張りましょう」
手を叩き、引き攣った笑顔で指示をするセシルを皆呆気に取られたように見つめていたが、Sランク冒険者の二人に促されるまま騎士団や冒険者の者達は死体の回収に移った
そうして、心情が困惑一色に染まった皆は最初より数が減ったと言ってもまだ全然大量の魔物の死体を、数日かけて運ぶ事となった
だが――この出来事がリベルやこの国、更には他国へと影響を与えるということを、この時はまだ誰も予想していなかった――
*****
リベル 昔の呼称[???]
《 判明プロフィール》
能力 (武器を使った技ではない)
[真実の眼][
武器 : 【宝剣アダム】【黒双龍砲】 【アバドン】
【神槍グングニル】
ここまでで一章とさせて頂きます^_^
あらすじにも書きましたが、ここまで様々な人物視点が多めでした。皆様混乱しないように一話からご覧頂くことを推奨させてもらいます
リベルの技などは、ある程度貯まったら間話などで纏めて紹介したいと思いますのでよろしくお願いします^_^
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