第二章——報告——
魔物の襲撃から数日後、リベルはようやく莫大な数の死体を片付け終えたアーグからの報告を聞く為ギルドの部屋に訪れていた
また、リベルが寝転がっている長い椅子にはカレンも座っており、仰向けに転がっているリベルの隣に座っていた
カレンも関係のある話だったので呼ばれていたのだ
「――ってことで、魔物の死体は全部で千五百程になった。それで――」
「千五百だってさカレンさん。どう??嬉しい?」
「嬉しいけどリベル……流石に多いんじゃないかしら。それに、アーグさんはまだ話そうとしてたわよ?」
『えー、もう飽きた〜。話聞くのも飽きたし、ずっとここいるのも飽きたよ〜』
先日の魔物の襲撃による混乱もあり、ここ数日の間学園は休みになっていた。しかも、ハッキリと顔を見られたかは分からないが、リベルが多くの冒険者などに認知された可能性があった為、セシル達に国内で大人しくしているように頼まれていたのだ
その為リベルは寮で寝ているかギルドにご飯を食べに来るくらいしかやることがなく、現在話を聞かされるだけでも苦痛な程飽き飽きしていた
セシル達の頼みを聞くようカレンからも頼まれていたので、リベルは退屈だが仕方なく辛抱していたのだった
「リベル、アーグさんはリベルに提案があるのよ。聞いてあげてくれない?――すいませんアーグさん。どうぞ続きをお願いします」
「あぁ、すまねぇなカレンさん。それでだリベル。少し提案――というか頼みなんだが……あの死体の一部を売らないか?状態も綺麗――と言うかほとんど傷がないから、オークションとかに出せば間違いなく凄い値段になる。どうだ?」
『はぁー?カレンさんにあげるって約束だったじゃん』
「リベル。実は私もさっきこの事を聞いたんだけど、私はアーグさんの提案に賛成なの。死体が多くて保管も大変みたいだし、私の所にも十分食材は来るから大丈夫よ?」
『本当?……まぁカレンさんがそう言うならいいけど。——それじゃあ、そのお金は誰に行くの?』
「それは当然リベルに行く。そこからリベルが
カレンさんにあげても、何も問題はない」
アーグにそう言われたリベルがカレンに、二人で半分にしよっか——などと言っていると、ドアが
ノックされてレインが顔を出してきた
セシル達が戻ったと報告するレインにアーグが返事をすると、既に廊下で待っていたかのようにすぐセシル達が入室してくる
(??………………)
『……ずっと何してたの?』
「ごめんねリベル。私達は今回の原因の調査とか後始末をしてたのよ」
「それで、何か分かったのか?」
リベルは一瞬眉を顰めてセシルを見つめたが、
ここ数日何をしていたのかと尋ねていた
セシルも自身の瞳を見ながらそう問いかけてくるリベルに反応して声を出している
セシル達はここ数日、一万の魔物が攻めてくるという異常事態の原因を狂魔の森で調査していたのだ。原因を突き止め報告するようにと、この国の
国王に頼まれていた
椅子に腰を掛けたセシルはこの部屋にいる者達に聞こえるような声で調査の結果を報告する
「はい。狂魔の森の奥に、未発見のダンジョンが発生していたのが分かりました。恐らく最初に予想していた通り、あれは
(ダンジョン?…………)
——
その魔物達は同じダンジョンから生み出されている為統合性が高く、近くの村や街、国に向かって
一斉に動くことが多い。だがそれも可能性が高いと言ういうだけで、稀にバラバラに散らばることもあった。それはそれで広がった魔物による被害は広範囲なものになる為、
しかしそれでも、アーグ達は未だ一万の魔物による
その為アーグは、何故そこまでの大群になったのかとセシルに問う
「まだ確かめた訳ではありませんが、そのダンジョンはかなり高ランクのダンジョンの可能性があります。地中に階層のように広がっていて、見て来た一、ニ層にはまだ沢山魔物がいました。恐らくダンジョンの難易度はBかAランク……それでも今回の魔物の数は多い気がしますが、質より数が優先されたダンジョンなのかもしれません。全階層の魔物を見てないので今はなんとも言えませんが……ただ、あのダンジョンにいる魔物の総数が一万だと言う可能性は非常に高いです」
ダンジョンは洞窟のような場所に発生することが多く、そういうタイプは通常ボスを討伐すればダンジョンが攻略となる
しかし高ランクのダンジョンは階層のようなものを作ることが多く、塔のようなものや、地中深くに階層を作る形のものが既に存在していた。そのタイプのダンジョンは一番上――もしくは一番下まで行き、そこのボスを討伐することでダンジョンの攻略となる。しかし連続で各階層に挑戦しなければいけないので、まさに高ランクに相応しい難易度のものとなるのだった
しかも同ランクのダンジョンでも、魔物の数や質などはバラバラだった。高ランクダンジョンの中には各階層に一体ずついる強力な魔物を倒せば進めるような極端なダンジョンも存在するのだ。セシルとアルフレッドは、ただ今回が大量の魔物を生み出すダンジョンなのだろうと結論付けており、狂魔の森にあるダンジョンの性質としてはそれが正解だった
「最近の魔物の凶暴化はそのせいか?」
「多分そうだろうね。セシルと見て来た時は、
もうそれ程異常はないように感じたよ。あのダンジョンがいつからあったのかは知らないが、
アルフレッドの言う通り、ダンジョンはランクが高ければ高い程
「そうか。一万の魔物がいるダンジョン——その内容で登録した方がいいだろうな。……だが、こう言っちゃなんだが、この国の近くに高ランクダンジョンが出来たのは良いことだったな」
「そうですね。リベルが解決したから言えることですけど、確かにダンジョンが出来たのは嬉しいことですね」
——ダンジョンを攻略して得られるアイテムの力は偉大で、皆が求めるものだ。その為ダンジョンが出来たとあればこの国に訪れるものは増え、更に国が発展する可能性があった
国の軍事力強化の為にダンジョンを幾度と攻略させる国もあるのだから、ダンジョンがどれ程の存在かは想像が出来るだろう—…
アーグ達の会話をただ眺めていたリベルはアーグ達になど及ばぬ事を考えていたのだが、皆が喜んでいる様子を見て思考を止めた
(……喜んでるみたいだし、別にいいかな)
『ねぇ、それより俺、早く帰って寝たいんだけど。俺への用事が終わったなら帰るよ?』
「あ、ちょっと待ってリベル。まだ聞きたいことと用事があるのよ」
『えー…めんどくさ』
「リベル、セシルさん達の話も聞いてあげてくれない?大事なことなんだろうし……」
『……それじゃあ、カレンさんに膝枕してもらったら聞く』
カレンはそう言ったリベルの提案を笑顔で受け入れていた
帰りたそうに不満な顔をしていたリベルだったが、カレンの膝に頭を乗せた途端満足そうになり、セシル達に話をするよう笑顔で促していた
「それじゃあまず一番大事なことから話すけど……リベルをSSランクに認定するかって話が出てるの」
SSランクという称号は、アーグなどがホイホイとつけられるものではなかった。Sランクまでは一応ギルドに権限を任されているが、SSランクは国――国王に実際の活躍や実績、実力などを認めてもらってようやくなれるものだった
国王から今回の件に関する説明を求められたセシル達は遂にリベルの事を隠せなくなり、事情を説明していた
何せリベルの戦いの様子は、国王や信頼の置ける王に近しい臣下達が映像を映し出す貴重な魔法具で観戦していたのだ。この魔法具は魔力を通すことで使用者の見ている景色を映し出す――という魔法具なので、今回セシルの見ている光景が王達にも伝わっていたのだ
セシルは映像を映し出す魔法具のことはリベルに話さず、私達からの報告を聞いた陛下がリベルを城へ呼んでおりSSランクにしようとしている。だから城へ来て欲しい――とリベルに説明していた
しかし――
『無理無理、王様には絶対に会わないよ。どうせめんどくさい事になるに決まってるからね。カレンさんに頼まれても嫌なくらい無理』
「確かにそうだけど……でもリベル、行かなくてもめんどくさい事にはなると思うわよ?」
『もしそうなったら、カレンさんには悪いけど、この国も魔物みたいに消し飛ばすかな。そしてカレンさんとどこかに行って、またそこで一緒に楽しく過ごすから別にいいや。あっ、勿論その時は、レインさん達の事も助けるから安心してね』
リベルは王の元へは行かないの一点張りだった。サラッととんでもない事を言っているが、カレンやレイン達はリベルに悪気や脅迫をしているつもりなどなく、本心からそう言っているのだろうと分かるので黙っていた
それに、めんどくさい事になると言う意味も十分分かる為リベルを一概に責めることは出来なかったし、する気もなかった
セシルやアルフレッドも拒否されることはある
程度予想していたことだったので、リベルに強く強制する事なくこの話を終えていた
「それで、次は死体の件なんだけど……陛下も欲しいって言ってたのよね。……あんなことがあった後なのにいつもと変わらない調子で……あぁつまりね、死体を陛下に分けてくれないかってことなんだけど、大丈夫かしら?」
『それはもちろん買うんだよね?……まさかその王様タダで寄越せって命令してんの?なら殺――』
「ち、違う違う!!もちろんお金は払うわ。ただ他国の商人とかよりも高く買い取るから融通を効かせてくれってだけだから」
少し眉を顰めて殺すと言いかけたリベルを、セシルが慌てて遮り説明した。先程は断られたが、リベルには国王にいずれ会ってもらおうと思っていたので、リベルの国王への印象は大事だった。その為セシルは、リベルが国王に良くない印象を持つ前に慌てて遮ったのだ
幸い、リベルはそういうことならどうでも良いと言って承認した。誰が買おうと関係ないと考えており、特に何も問題はなかったようだ
「それで最後に……これは興味みたいなものなんだけど…—魔物をどうやって倒したか教えてくれない?あの時リベルが何かしたのは感じたんだけど、私にはそれしか分からなかったの。それに、アーグさんから聞いてたんだけど、以前の盗賊も多分あれでやったのよね?」
(盗賊?……あーー)
『あの時ね。そうだよ、あの時使ったのと一緒のやつだね』
安心したセシルは最後の質問――魔物を倒した方法について尋ねる。すると、先程のような面倒臭い話とは違ったのが良かったのか、リベルはカレンの膝の上からスラスラとセシル達に教えてくれた
だがその内容はシンプルにして驚くべきもので、聞いているセシル達は驚愕する事になった――
リベルは、あれは[
その範囲は
それは詳しく説明する
つまり、相手が弱ければ抵抗をすることも出来ず死に至る。それがリベルの[
『だがら、セシルさんが感じたのはその時出した覇気みたいなのじゃないかな?[
「……つまり、それを向けられたらみんな死んじゃうってこと?……もしそれを向けたら、この国の大勢いる国民も一瞬で死んじゃうの?」
『[
盗賊の時は強い奴一人残す感じだったからまだ良かったけど、大勢いる中に向けて男だけ残すとかは
めんどうなんだよね。まぁ……それでも出来なくはないんだけど』
「それは……私達は抵抗出来そうな力?」
『うーん……Aランクの人の力とかあまり分からないんだけど、Sランクの人なら抵抗出来るんじゃないかな?まぁ具体的に言うと、今のアーグさんがギリギリ抵抗出来るくらい——かな』
リベルの説明を聞いていた一同は、皆揃って驚いていた
リベルがその気になれば国民全員が原因を知らぬ間に一瞬で死んでしまうと言うのだから、仕方がないだろう
セシルとアルフレッドは驚きを通り越して、マジかと驚いているアーグを見て苦笑いしていたが、
この後のリベルの言葉で心臓が止まりそうになってしまう
『だから、もし[
「!!ま、待ってリベル!お願いだから絶対使わないで!」
リベルの言葉でドキッとしてしまうセシルとアルフレッド
——二人はここに来る前に、国王の元へ今回の件についての報告に行っていた。その際国王に頼まれ、実は現在――例の魔法具を繋いで、セシルの目から国王とその一部の臣下がリベルという少年を見ていたのだ
セシルはもしバレたらと思い反対したのだが、
どうしてもリベルという少年の普段の姿を見たいと頼まれ、渋々了承していた
しかしそんな事を知らないレインやアーグ、カレンは、リベルが何を言っているのか分かっていない様子だった
「リベル……それはどう言うことだ?」
『なんか、能力か道具かは知らないけど、誰かがセシルさんの目を共有して俺のこと見てるみたいなんだよね。……正直、結構うざいんだけど』
アーグの問いにリベルが答えると、皆驚いて本当なのかと言う目をセシルとアルフレッドに向けていた
その為、セシルとアルフレッドはことの経緯をリベル含め皆に説明する
この光景を国王達が見ていると聞いてレインとカレンは驚いていたが、アーグは瞬時にまずい事になったと悟り、片手で顔を掴んで覆っていた
しかし、説明を聞き終えたリベルは怪訝な顔でセシルを見つめる
『……その道具は魔力を通して使うんだよね?てことは、セシルさんもその人達に協力したってこと?』
「リベル君、どうかセシルを責めないでやってくれないか。セシルも最初は反対したんだけど、どうしてもと頼まれて仕方がなかったんだよ」
「本当にごめんなさい、リベル」
リベルは申し訳なさそうに謝るセシルの目――いや、まるでその先にいる者達を見据えるようにセシルの瞳を見据えていた。しかしアルフレッドが嘘を言っていないと分かった為、リベルの意識は気分を害した国王達に向かう
『じゃあ王様が悪いってことだよね?』
「!!ま、待ってくれリベル!」
「リベル君、陛下もリベル君の事を見たくてついこんな事をしてしまったんだ。どうか許してくれ」
見るからに不機嫌そうなリベルの瞳は若干黒く染まっており、それに気付いたアーグとアルフレッドは焦り出していた
カレンはアルフレッドが頭まで下げて謝る様子を見て、アルフレッドが焦っているのはリベルの雰囲気が変わった為だと気付いた。寝転んでいたリベルは既に起き上がりセシルの瞳を凝視しており、まずい状況だというのはなんとなく分かっていたのだ
その為カレンは、リベルの機嫌を落ち着かせようと口を開く
「……リベルお願い。セシルさんの事を許してあげてくれないかしら」
『……おい、お前が王だろうが何だろうが俺には関係ない。だが今回は、カレンさんがこう言ってるから見逃してやるだけだ。だからちゃんとカレンさんに感謝してお礼をしろ。そして、後五秒でその道具とセシルさんとの繋がりを切らないと、さっき説明した[
リベルはカレンからも頼まれた事で仕方なく怒りを鎮め、指を立てて五からカウントを始めた
そんな様子を見たアルフレッドやアーグは、セシルの瞳を見て、頼むから早く切ってくれと言う顔をしていた
そしてリベルのカウントが残り三秒になった時、リベルはカウントを数えるのを止めてカレンの膝の上に倒れ込んだ
どうやら魔法具はちゃんと切られたようだ
『……カレンさんに頼まれたから一回だけ特別に許したんだからね?分かってる?』
「ありがとねリベル。でも、セシルさんも大変だったんだろうから、セシルさんの気持ちもちゃんと分かってくれる?」
「リベル、本当にごめんね?」
『セシルさんは許す。けど、この国の王は嫌いになった。……もう帰って寝る』
「そうか……今日はすまなかったねリベル君。
明日からまた学園が始まるから、今日はしっかり寝て休んでくれ」
気分が悪くなり帰ろうと立ち上がったリベルに、アルフレッドが改めて謝罪をしていた
リベルは返事をして手を振ってから部屋をスタスタと出て行き、寮で寝る為に学園へ向かう——
そして寮に着いたリベルは他の生徒に会う前にすぐ自分の部屋に行き、フカフカのベッドへと飛び込んだ
(カレンさんは優しすぎるんだよな……やっぱりカレンさんは――)
そこまで考えた所でリベルの意識は途切れ、暗闇に意識が落ちていくように眠りについた――
*****
リベル 昔の呼称[???]
《 判明プロフィール》
能力 (武器を使った技ではない)
[真実の眼][
武器 : 【宝剣アダム】【黒双龍砲】 【アバドン】
【神槍グングニル】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます