各々の実力 ——リベルvsディーン——







 

  

 

 「次は私の番よ。くらいなさい!——

火の球ファイヤーボール]!!」






ダルフは生徒達がゴーレムと戦う様子を、ただのんびりと眺めていた


 皆特に問題なく低級ゴーレムを攻略している



 現在、最後のアリスが攻略している最中だった

アリスはゴーレムから離れた位置でいくつもの火の球ファイヤーボールを撃ち込んでいた


そして、ボロボロになってきたゴーレムに止めの攻撃を放つ






 「これでトドメよ!——[火の槍ファイヤーランス]!!」




 「はい。終了ね」




 「セシル様!私の魔法はどうでしたか!?」



 

 「火の球ファイヤーボールは無駄がなく十分良かったわ。それに火の槍ファイヤーランスもいい威力だったわよ?もう少し魔力効率と同時発動を鍛えれば、もっと良くなりそうね」



  

 「はい!!ありがとうございます!」






 アリスは魔術師としてセシルに憧れていた

それは同じ火の魔法を得意としているという理由もあったが、大体の理由は、可憐に敵を倒すセシルを見たことがあったからだった


 アリスは魔術師としてだけではなく、女性としてもセシルに憧れていた



 そんなセシルに教えてもらうなど、アリスからすれば至福の時間だろう



 



 「さすがSクラス。これで全員低級は倒したわね。マグナとソフィアは一撃だったし、休憩したら中級とやってみてもいいかもね」




 

 「……学園長。リベル君はやらないのですか?」




 「確かに。私もリベルの実力が気になります。

それに…………」







 マグナとリエンが、まだゴーレムと戦っていないリベルを気にしている様で、リベルを見ながらそんな事を言い出した






 

 

 「リベルは……初級じゃ相手にならないからいいのよ」



 

 「しかし学園長!!そいつは始まってからずっと、そこでそのままですよ!?」





 (メイナード……気持ちは分かるがやめてくれ)

  




  

 不満気味のメイナードにダルフは、どうかケンカを売らないでくれと切実に願っている


 だが他の生徒も全員メイナードと似たようなことを思っている様で、リベルを視線には同様の想いが見えていた



 ダルフはそんな状況に冷や汗を掻いて動揺していたが、みんながそうなってしまうのも無理はないと思う





 何せ言われている張本人――リベルは、セシルの膝に頭を置いて休んでいたのだから



 訓練場を囲む木の近くで立って見ていたダルフが、横に座るセシルの膝の上にいるリベルをチラッと見てみると——






 『みんな中々頑張ってたね。お疲れー』





 リベルは皆の視線など気にせずそんな事を言っていた



 実はリベル、まだ戦っておらず——と言うより

戦おうとせず、皆の戦闘を膝の上でセシルと話しながら横目で見ているだけだったのだ



 その為、皆が不満に思うのも仕方ないというものだった






 何故こうなっているのか


 事の発端は、ゴーレムとの戦闘が始まってすぐにリベルが——

 


 

 



 『あんな人形と戦うの?……つまんなそうだし

寝るね』



 



 と言ったことだった


 そしてそう言ったリベルはなんと、訓練場——

現在ダルフがいる場所辺りにテントを張ろうとし出したのだ



 そのテントは以前燃やされた物と同じで、また必要になるだろうとレインに貰ったものだ



 だがそんな事ダルフには関係なく、ダルフはそんな状況に驚き過ぎて声も出なくなっていた



 そんなダルフに変わり、セシルがリベルに膝を差し出したということだった——






 黙ってリベルを見ている皆に対しダルフは、俺は関係ない——と言うような目で虚空を眺めている


 火の粉が自分にも飛んでこない様、ダルフは空気と化していた


 

 


 (ダメだリベル……俺には荷が重いみたいだ。

俺は驚き過ぎて、もうどうすれば良いのか分からなかった。セシルさんもすんなり膝枕するなんて……流石、Sランクは肝もSランクなのか。フッ、これは敵わないな)






 そんな事を思うダルフは、呑気にセシルを称賛していた


 それは、自分にはどうにも出来ないと諦め、完全に傍観者の態度だった


 


 その為セシルがこの空気をなんとかするしかなく、皆の不満がこのまま収まらないと感じたセシルはリベルに向かって言葉を出した

 





 「そうね……リベル、起きて。みんなにリベルの力を見せてあげてくれない?」



 

 『えーー。あんなのと戦うの?嫌だなー……あ!ならいいこと思いついた!』



 

 「いいこと?」



  

 

 (……嫌な予感がするのは俺だけか?)






 セシルに言われて嫌々頭を上げたリベルの言葉を聞き、ダルフは突然嫌な予感に襲われた


 




 

 『全員で俺にかかってくればいいよ!ついでに先生達もね』




  

 「「…………え??」」



 


  

 軽い口調で言われたその言葉に、セシルとダルフの間の抜けた声が重なり、言葉の意味を理解したダルフが慌て出す




 

 (先生達もって……俺も!?絶対嫌だ!アルフレッドさんの腕を斬る様な奴となんてやりたくない!死ぬ!!)

 




   

 ダルフは自分より強いアルフレッドを倒したリベルと戦うなど、悲惨な結果が目に見えていたので断固拒否したかった






 

 「リ、リベル?それは何というか……やめときましょ?」



 

 『え??なんで?戦ってみないと、みんな実力差分かんないよ』



 


 (いや……じゃあ俺は入れないでくれ)

 




 そんなダルフの心の声はリベルに聞こえるはずも無く、戦う気満々のリベルは既に立ち上がり、意味のないストレッチを始めている




 

 

 「学園長!!俺もリベル君と戦いたいです!」


 

 「私も舐められたままなのは嫌ですね」


 

 「あぁ、俺もだ。実力も分からない奴に舐められたままってのは無理だな」


 

 



 

 クラスでも特に好戦的なディーンとリエン、ランダがリベルの言葉に反応する



 三人は明らかに下に見られているようなリベルの物言いに不満があったのだ




 


 「な、なら希望する生徒と模擬戦をしましょうか。私とダルフ先生が審判をするから。どうですか?ダルフ先生」




 「!!そ、そうですね。それが一番いいと思います!」

 





 助け舟を出してもらったダルフはすぐに飛び乗り、セシルに心底感謝する



 リベルはそれでいいと納得し、みんなを挑発するかのように呼びかけた


 やられる準備が出来た者からかかって来い——と



 ダルフはその言葉が恐らく無意識な挑発だと理解していたが、言われた生徒達は別だった



 リベルの言葉で皆やる気に満ち、戦う気満々の様子だ



 そしてそんな状況を冷静に考えたダルフは、猛烈に心配になってくる

  

 

  



 (これ……大丈夫なのか?)






 「リ、リベル。これは授業だからな?その……

優しくな?」


 

 「そ、そうね。私達が止めたら、リベルもちゃんと止めるのよ?」




 『フフッ、先生達も心配性だな〜。安心してよ。俺は手加減というものを覚えているからね!軽く相手をしてあげるよ。アーッハッハッハッハ!!』






 ダルフとセシルが二人して注意するが、何故か自信満々なリベル


 そんなリベルに、二人の不安は無くなるどころかどんどん膨らんでいってしまう





 


 『そうだ!!ついでに俺が、みんなの実力を採点してあげるよ!』

 


 

 「あ、そ、そう…………それじゃあ、最初にリベルと戦いたい人は?」



 

 「「…………」」





 

 今にも襲い掛かりそうなやる気に満ちた様子とは裏腹に、皆しっかり勝とうとしていた


 実力が分からないリベルの様子を見たくて、皆トップバッターは遠慮しているようだ



 そんな皆の様子にセシルが、いないなら勝負は止めよう——と言おうとした時



 皆が行かないなら俺が行くと、ディーンが声を上げてしまう




 

 「学園長!!俺が行きます!——勝負だ、リベル君!!」



 『お!?剣士?ハハッ、なら俺も剣で受けて立とうじゃないか!』




  

 

 ダルフは、やはりディーンが最初か——と思った


 二人は訓練場の真ん中に移動し、向かい合うように立った


 ディーンが剣を構えると、リベルも手を翳して剣を出す





  

 『来い——【宝剣アダム】』




 


 (な、なんだあの剣は!?凄い力を感じる!)


 



 「が、学園長。あれがアルフレッドさんを倒した武器ですか?」



 

 「……いえ、アルフレッドは籠手でやられたって言ってました。アルフレッドの話によると、リベルはあんな武器を沢山持ってるみたいなんですよ」




 

  

 ダルフはセシルの言葉に驚愕してしまった


 こんな性格だが実力は確かにあるダルフは、あの剣の凄まじさを見ただけで感じ取っていたのだ



 しかしそれは、相対しているディーンも同じだった






 「なんと素晴らしい剣だ!剣を見れば相手の実力が分かると、昔父が言っていた。君は凄く強そうだ!」



 

 『ハーッハッハッハ!!当然、俺は最強だからね。安心して全力でかかって来るといい』






 リベルの手に握られる剣に、他の生徒も含めた皆の意識が注目していた


 

 向かい合っている二人は、ディーンが剣を両手で待ち構え、リベルは剣を肩に当てて挑発している



 既に両者、準備は出来ているようだった





 

 「リ、リベル。本当に手加減してね?」




    

 (ディーン……死なないでくれよ)



 


 「それじゃあ――始め!」



 


 「行くぞリベル君!——[強力な一撃パワーストライク]!!」





 

 開始の合図と同時に、ディーンが小細工なしの力技で斬りかかった



 先手必勝、早々に勝負をつける気だ


  

 当たれば低級ゴーレムにも効くだろう一撃が、

リベルに向かっていく



 しかし、当然結果はダルフやセシルが予想しているものだった


 



 


 『威力だけはまぁまぁだけど、避けようと思えば避けれる意味のない攻撃だね。それに……自分より上の相手に一撃で決めようとするなんて馬鹿でしょ。不合格』






 (……普通に採点してるし……それに、意外と内容もちゃんとしてるな)




 


 ディーンの一撃を、片手で握った剣で受け止めながら、リベルが攻撃の評価をしていた


 しかしその手はピクリとも動いていないようで、二人の実力差が明白に分かるものだった

 



 

 

 『まぁ、一撃で終わらせたいなら俺も一撃でやるだけだよ!くらえ、いっせ――』




 「ス、ストップリベル!!そこまで、そこまでよ!!」



 



 リベルは剣を押し上げ、両腕が上がって隙が出来たディーンに向けて一閃を放とうとした



 しかし、途端にセシルが慌てて止めたことで、リベルの剣はディーンの腕スレスレで止まる

 

 その軌道は、明らかにディーンの腕を付け根から斬るようなものだった





 

 『え??まだ斬ってないよ?』


 

 「斬っちゃダメよ!?」



 『え??なんで?』


 




 またしても何も出来なかったダルフは、目の前で繰り広げられる問答に恐怖を感じていた

 




 (斬ってないって…………斬る気だったのか?

いや怖っ)






 一瞬の出来事に驚き、止められなかったダルフは、すぐ気付いて止めてくれたセシルに感謝した


 セシルが止めていなければ間違いなくディーンは腕を斬られていたと、ダルフ自身でも分かっていたのだ







 「と、とにかくそこまでよ!ディーンも、勝負がついたのは分かるでしょ?」



 

 「ハイ!!俺の一撃が通用せず、反撃には全く反応出来ませんでした。俺の完敗です!」




 『アハハハ!随分素直なんだね。少し気に入ったよ。これからもっと頑張りたまえ』




 

 

 ディーンもSクラスに入るだけあって、己とリベルの実力差が分かっていた


 なのでセシルに止められると潔く負けを認めて引き下がる


 


 リベルはそんな様子を気に入ったのか、ディーンの肩を叩き、まだまだこれからだと言っている


 挑発のようにも聞こえるがリベルは励ましているつもりで、ディーンの事を少しだけ気に入っていた




 



 『さぁ、次は誰かな?まさかもう諦めるなんて事ないよね?』

 


 「その前に……次からリベルは武器禁止よ」



 『ん??聞き間違いかな?なんて?』



 「は、禁止です」



 『……え??』






 (俺にリベルの担任なんてできるのか?もう無理そうなんだが……。フッ、俺なんかが考えるだけ無駄だな。無理だ)






 突然の武器禁止宣言に、リベルは疑問の表情でセシルを見つめている


 そんなリベルにセシルが必死に説得する様子を、ダルフは物思いにけてただ諦めた様に見つめていた——



 



 

  *****






 





 

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