第140話 春の月67日/エリナ・グレニーは寮の自室で『羽ペン』を使って遊ぶ
夕食後の雑談を終えたエリナたちは、それぞれ、寮の自室に戻ることにした。
エリナは『羽ペン』で空中に書いた『レン・クリプトン』という文字が消えているのか確認したかったけれど、今、一緒にいるロレッタを解体場に連れていくことができないので解散することに賛成した。
男子生徒のレンとナイジェルは男子寮へ、女子生徒のエリナとロレッタは女子寮に向かう。
「早く明日にならないかなあ。『たいがくかんこく』の紙が机の上に置いてない状態で明日になってほしい」
エリナはそう言ってため息を吐く。レンが大丈夫と言ってくれたけれど、やっぱり心配なのだ。
「そうですね。わたしもそう思います。でも、もし退学になっても錬金窯や『収納の小袋』はそのまま使わせてもらえるでしょうから、それはよかったと考えようと思って」
「ロレッタ様、すごいっ。私もそう考えるね。なんだか心が軽くなった気がする」
エリナはロレッタに笑顔を向けて言った。悲しいことや困ったことがあった時は誰かと話すと良い考えを教えてもらえたり、気持ちが軽くなったりするものだ。
今日の夜『退学勧告』の紙が机の上に置かれるかもしれないという状況は変わらないのに、心が軽くなったのは不思議だと思う。
エリナはロレッタと別れて女子寮203号室の自室に戻る。セーラがいるかもしれないので、ノックは忘れない。
以前、ノックをしないで部屋に入り、セーラに怒られたことがあるのだ。
「セーラ、いない? 食堂にいたのかな。気がつかなかった」
エリナはそう呟いた後、錬金した『羽ペン』を使ってみようと思い立ち『収納の小袋』から『羽ペン』を取り出す。
魔力を込めた『羽ペン』を握り、両目に魔力を通して空間に文字を書いた。
エリナが書いた文字は、自分の名前だ。
「すごい。『エリナ・グレニー』って光ってる……っ」
解体場でレンが書いた『レン・クリプトン』という文字が白い光を放っていたのを見たばかりだけれど、自分が錬金した『羽ペン』で書いた文字が光って見えると感動する。
「消す時は羽ペンの羽の部分でこする」
エリナは『錬金手帳』の『羽ペン』のページに書いてあったことを呟きながら『エリナ・グレニー』の文字を手にしている『羽ペン』の羽でこすった。
『エリナ・グレニー』の文字が消えた。
「すごい!! 本当に消えた!!」
エリナは『羽ペン』で書いた文字が消えたことが嬉しくて、飛び跳ねて喜ぶ。
「次は絵を描こう。何にしようかな。野菜にしよう」
エリナは実家のグレニー食堂でよく見ていた野菜を描き始める。
今よりもっと幼い頃、天気が良い日はグレニー食堂の前にしゃがみ込み、地面に絵を描いて遊んでいた。
グレニー食堂の前で遊んでいると、リンザの森から戻って来る祖父や父親を一番に出迎えられて、幼いエリナはそれがすごく嬉しかった。
「お祖父ちゃんとお父さん、お母さんは元気かなあ……」
エリナは遠く離れて暮らす家族を想って、少し寂しい気持ちになる。
「そうだっ。お祖父ちゃんとお父さん、お母さんのことを描こうっ。お祖父ちゃんとお父さんは私が見上げるくら背が高いから、椅子に乗って描こう」
エリナは自分の椅子を移動させ、靴を脱いで椅子の上に乗った。
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