第136話 春の月67日/エリナ・グレニーたちは夕食のメニューを選びに行く
エリナは、にこやかに話をしながら歩き出すロレッタとナイジェルの後に続くレンの袖を軽く引っ張る。
「エリナ。どうした?」
レンは足を止め、エリナに視線を向けた。
「今、トトは一緒にいるの?」
エリナは前を歩くロレッタに聞こえないように声をひそめて問いかける。
「トトは厨房で料理を作る手伝いをしている。もうすぐ夕食を食べる生徒たちが多く訪れるから、忙しそうだった」
「そうなんだ。よかった」
エリナはレンの言葉を聞いてほっとした。小人族のトトは、両目や両耳に魔力を流さないと知覚できない。
おそらく小人族を知らないであろうロレッタに、トトのことをどう説明したら良いかわからなかったエリナは、トトが別行動だと知って胸を撫でおろした。
「エリナは髪を下ろしているのも似合うな」
「本当? セーラに髪を梳かしてもらったの。セーラは髪を梳かすのがすごく上手だったよ」
「そうか。令嬢の長い髪は手入れが大変そうだ」
「シリル様も髪が長くて綺麗だよね。いつも三つ編みにしてる」
「そうだな。長い髪の令息もいるな」
生徒たちで賑わう食堂の片隅のテーブルを確保したロレッタとナイジェルが、エリナとレンを待ってくれている。
「少し早いけれど、夕食にする? 俺はお菓子を食べたからそんなにお腹が空いていないんだけれど」
エリナとレンが合流すると、ナイジェルが言った。
ナイジェルの言葉を聞いたロレッタが苦笑して口を開く。
「『白紫の錬金学院』の食堂はいつでもおいしいお菓子が食べられるから、誘惑を退けるのは大変ですよね」
「軽食だったら食べられそうですか? 私、適当に選んで持ってきましょうか?」
エリナは実家のグレニー食堂を手伝っていたので、条件反射ですぐに身体が動く。
「エリナ様。わたしも一緒に行きます」
ナイジェルが答える前にロレッタが言う。エリナとロレッタが楽しそうな様子なので、ナイジェルは彼女たちに任せることにした。
「好き嫌いはないから、メニューはエリナ嬢とロレッタ嬢にお任せします。でも、レンは軽食では物足りないよね?」
「俺は自分の分は自分で選びます。だから、気になさらないでください」
「レンはあんまりお菓子、食べてなかったもんね」
「俺は菓子より肉が好きだ」
「私はお肉もお菓子もおいしいと思う」
「わたしはお肉よりお菓子が好きです」
レンとエリナ、ロレッタはそれぞれに食の好みを語りながら料理を選びに行った。
テーブルで一人待つナイジェルは『収納の小袋』の中から『錬金手帳』を取り出して目を通している。
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