第7話 田舎町ディーンに響いていた鐘の音が止み、自警団員たちは街に戻る

鐘の音が止んだ。

ジュディに口の中に入れてもらった砂糖をまぶした干し葡萄を大切に舐め、噛みしめていたエリナは干し葡萄を飲み込んで、隣にいるジュディを見た。

ジュディの母親であり、マーサの薬屋の女主人のベティ・マーサは回復薬の調合のために店の奥の作業場で作業をしている。


「音がしなくなったね。エリナ」


ジュディは、エリナと視線を合わせて言う。

出て行った父親を待つために、店の入り口に座り込み、動こうとしないエリナに付き合って、ジュディも床の上に座り込んでいたのだ。


「鐘の音が止んだね」


店の奥の作業場で回復薬の調合をしていたベティが店に現れて、言う。


「母さん。リックおじさん、戻って来るよね?」


ジュディは母親に視線を向けて尋ねた。

母親はジュディに肯く。危険が去ったから、鐘の音が止んだはずだ。

そう思うけれど、ベティは不安が拭えない。


「私、お父さんを迎えに行く……っ」


エリナは父親に会いたくて、店を飛び出した。


「エリナ、待って……!!」


ジュディがエリナを追って駆け出し、ベティは慌てて子どもたちを追いかけた。

エリナもジュディも、普段は大人の言うことをよく聞く聞き分けの良い子だったので、まさか、勝手に店を飛び出すとは思わない。


自警団員たちと、怪我をした義父、そして持って行ったCランク相当の回復薬だけでは癒せない深手を負った義父を癒してくれた、森の奥から現れた白いローブを着た錬金術師と共に街に戻って来たリックは、マーサの薬屋から飛び出したエリナに気づいた。


「エリナ!!」


リックは娘の名前を呼び、駆け出す。

そして父親の姿を見て安心して泣き出したエリナを抱き上げた。

エリナを追ってきたジュディは、父親に抱っこされているエリナを見てほっとすると同時に、寂しい気持ちになる。

ジュディは、父親の顔を覚えていない。

父親と離婚した母親には、父親のことを尋ねることもできなかった。

だから時々、父親に抱っこされているエリナが羨ましくなる。


「ジュディ!! 勝手に店を出たらいけないよ!!」


ジュディは、子どもたちを追いかけてきたベティに叱られ、抱き上げられた。


「だって、エリナが走って行ったから、小さい子ひとりにしたらいけないでしょ?」


ジュディは母親にぎゅっと抱きついて言う。


「そうだね。でもジュディは母さんの宝物なんだから、危ないことはしないでちょうだい」


「あたし、母さんの宝物?」


「そうだよ。宝物だよ」


ベティはそう言って、娘を地面に下ろした。

9歳のジュディは、ずっと抱っこし続けるには重いのだ。

娘の重さは、母親には誇らしいものだけれど、でも抱き続けるのは難しい。


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