第127話 春の月67日/エリナ・グレニーとレンは食堂でナイジェルとトトに合流する
「ナイジェル様、トト。私、レンを探してくるね。もしかしたらレンは『Ⅰ-3』教室に行ってるかもしれない」
「そうだね。俺とトトは食堂で待っているよ。エリナ嬢だけに行かせて悪いけれど」
「トトもいくよ?」
テーブルの上に立ち上がって言うトトに、エリナは微笑んで首を横に振る。
「トトはナイジェル様とお喋りしてて。私、走ってレンのところに行ってくる」
小さな小人族のトトの歩調に合わせていると、レンのところに行くのが遅くなってしまう。
トトはエリナの言葉に肯いた。
エリナは食堂を出て、まずは学舎の屋上に向かう。
屋上に到着した。
だが、屋上には誰の姿も無い。
「レン、もう『Ⅰ-3』教室に、行っちゃったのかな……っ」
階段を駆け上がって来たエリナは、息を切らしながら肩を落とす。
立ったまま息を整え、そして、エリナは『Ⅰ-3』教室に向かった。
『Ⅰ-3』教室にやって来たエリナが、トトとの会話を見とがめた生徒たちがいるかどうか少しびくびくしながら教室内を覗くと、教室から出ようとしているレンと目が合う。
よかった。レンに会えた。
ほっとして微笑むエリナに、レンが近づいてくる。
「エリナ。ナイジェル様とトトは?」
「今、二人とも食堂にいる。ちょっといろいろあって『Ⅰ-3』教室を出たの。それで、私はレンを迎えに来たんだ。セーラは一緒じゃないんだね」
「セーラ嬢は図書室に行った。何があったんだ?」
「ちょっとここでは話せない。食堂で話すね」
声をひそめて言うエリナに、レンは真顔で肯いた。
エリナとレンが食堂に着き、ナイジェルがいるテーブルに視線を向けると、テーブルにはカップが二つ置いてあった。
「ナイジェル、トト。レンを連れて来たよ」
エリナは『魔力循環』で自分の両目と両耳に魔力を通しながら言う。
小人族のトトはテーブルの上に裸足で立ち、細長い管でカップからお茶を飲んでいた。
「トトはその細長い管があれば、大きなカップからお茶が飲めるんだな」
レンはそう言いながら、エリナのためにナイジェルの正面の席の椅子を引き、そして自分はその隣の椅子に座った。
「レンと私のお茶を取ってくるね」
エリナはレンが自分のために椅子を引いてくれたことに気づかず、そう言ってテーブルを離れる。
レンはエリナの後ろ姿を見送って、エリナのために引いた椅子を元に戻した。エリナが戻ってきたら改めて、彼女のために椅子を引けばいい。
席に着いたレンはナイジェルに視線を向けて口を開く。
「『Ⅰ-3』教室で、何かあったとエリナに聞きました。彼女は食堂で話すと言っていたのですが、ナイジェル様は何があったかご存知ですか?」
「うん。俺が、エリナ嬢以外の生徒がいる教室内で、うかつにトトと話してしまって、それを見とがめられたんだ。それで居づらくなって、食堂に来た。小人族のことを他の生徒に話していいか、俺とエリナ嬢には判断できなかったから」
ナイジェルはテーブル内にだけ聞こえる声量でレンに言い、ナイジェルの話を聞いたレンは考え込む。トトはお茶を飲むのをやめ、ナイジェルとレンの顔を見比べている。
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