第138話 春の月67日/エリナ・グレニーたちはシリルから問題がある生徒は全員退学になるという話を聞く

「シリル様。解体場のことや彼らのことを、他の生徒に話しても問題は無いのですか?」


ロレッタに解体場のことをあっさりと話したシリルに、ナイジェルが問いかける。

シリルは口の中の食べ物を飲み込み、少し考えてから口を開いた。


「春の月70日には問題がある生徒は全員退学になるから、それ以降ならいいよ」


シリルは軽い口調で言って、鶏肉の照り焼きをナイフで一口の大きさに切り、口に入れる。


「あの、問題がある生徒が退学になるというのは……どういうことでしょう……?」


家が裕福で無い下位貴族のロレッタが、青ざめた顔でシリルに問いかけた。

未だに婚約者がいないロレッタはどうしても錬金術師になり、一人で暮らしていけるようになりたいのだ。

鶏肉の照り焼きを飲み込んだシリルはロレッタに微笑んだ。


「ロレッタは今のところ問題はないみたいだから、安心して。今晩、問題がある生徒の部屋の机に『退学勧告』の書類を置くように話を通してる」


魔力を目に通さないと見えない小人族のことを知っているエリナとレン、ナイジェルは、小人たちが『退学勧告』を机の上に置くのだろうなと想像した。

ロレッタは自分が退学にならないことを知って、安堵の息を吐く。

シリルはうんざりした顔をして話を続けた。


「『白紫の錬金学院』への入学希望者が多すぎて、調整が難航してる。夏の月1日には予定より多く生徒を受け入れなくちゃいけなくて大変なんだ。第一回目の入学者は未成年に絞ったんだけど、これからは成人も受け入れなくちゃいけなくて憂鬱。大人の生徒が僕の言うことを聞いてくれるか、今から不安だよ」


「シリル様。問題がある生徒って、どうやって判断してるんですか?」


エリナはこれからの自分の行動を気をつけたくてシリルに問いかけた。


「『白紫の錬金学院』の生徒の行動は、実は記録しているんだ。問題がある生徒に錬金術の真髄は教えたくないし、錬金術師になってから問題を起こした時に脅す……じゃなくて話し合う材料にするつもりで。問題がある行動っていうのは『持ち出し禁止の図書室から本を持ち出して部屋に放置』『食堂にあるお菓子を持ちだして自室のベッドで食べる』『一日中詩を書いていて錬金術の勉強を全くしない』『男子生徒なのに女子寮に忍び込もうとする』『複数の生徒で一人の生徒に暴言を吐く』『港に来ていた商人の娘を部屋に連れ込む』とかだね」


たいしたことがなさそうな問題行動から、重大な問題行動までいろいろあるようだ。


「『食堂にあるお菓子を持ちだして自室のベッドで食べる』というだけで退学勧告するのは、あまりにも厳しいのでは……?」


お菓子を食べることが大好きなロレッタは、同士を庇う気持ちでそう言った。

シリルはロレッタに視線を向けて口を開く。


「『持ち出し禁止の図書室から本を持ち出して部屋に放置』と『食堂にあるお菓子を持ちだして自室のベッドで食べる』生徒は同一人物だよ。問題を起こす生徒は、いろんな『やっちゃいけないこと』をやってる」


「『複数の生徒で一人の生徒に暴言を吐く』のは、なんとかしてあげてほしいです」


エリナは自分が理不尽に頬を叩かれた時のことを思い出しながらシリルに言った。

シリルはエリナの言葉に肯く。


「そうなんだよね。でも、僕やお師匠様の見ていないところでやってることだから、注意できなかったんだ。被害生徒からの申告もなかったし」


「『退学勧告』ということは、退学にならない道もあるということですか?」


ナイジェルは疑問に思ったことを口にした。

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