第13話 エリナ・グレニーはニナを見送り、食堂の給仕を手伝う
エリナは母親と父親、祖父に『明日の早朝7;00に錬金術師様から話がある』と早口で伝え、そして、二階の自室に戻った。
エリナの自室で『錬金素材手帳』に目を通していたニナは、戻って来たエリナに視線を向け、口を開く。
「私が明日の早朝7;00にこちらに来ることは、伝えてくれた? ご家族は了承してくれたかしら?」
「はい。伝えました」
エリナの家族は、エリナに一方的に『明日の早朝7;00に錬金術師様から話がある』と伝えられ、困惑していたのだが、エリナはすっかり家族に伝えた気になっていた。
だが食堂の接客や調理が忙しかったので、エリナに言葉の意味を問い直すことをせず、仕事をすることを選んだのだった。
ニナは『錬金素材手帳』エリナに返し、椅子から立ち上がった。
「私はそろそろ宿に戻るわね。エリナ、また明日会いましょう」
「錬金術師様、私、宿まで送りますっ」
ニナは意気込んで言うエリナに苦笑し、口を開く。
「私はひとりで大丈夫よ。食堂は今、忙しい時間帯でしょう? 気を遣わないで」
「じゃあ、食堂の外まで送りますっ」
エリナはそう言って、ニナと共に自室を出た。
エリナはニナと食堂を出て、宿に戻るニナを見送り、食堂に戻る。
「お母さん。私も給仕、手伝うね」
エリナはぶどう酒の配膳を終えた母親のユージェニーに歩み寄り、言う。
ユージェニーは娘の顔を見て眉をひそめ、口を開いた。
「エリナ。さっきの話はどういうことなの? 錬金術師様は、いったい何の話をしに来るの?」
「私が『がっこう』に行く話をしにいらっしゃるの。私、錬金術師になる勉強をするのよ」
「それじゃ、エリナは錬金術師様の弟子として認められたっていうことなの?」
「ううん。まだ弟子じゃないよ。貰った手帳100ページ埋まってないから、弟子にはしないって言われた」
「エリナちゃん!! こっちの席にぶどう酒追加で!!」
「はあい!! 今持ってきますね!!」
食堂の客からぶどう酒の追加注文が入り、エリナは軽やかな足取りで台所に向かう。
ユージェニーは全く理解できない娘の話を思い返しながらため息を吐き、食事を終えて席を立った客に見送りとお礼の声掛けをして、テーブルを片づけ始めた。
そして翌日。春の月16日の早朝7:00になった。
着替えて朝食を済ませたエリナは、祖父や両親と共に、テーブルの一角に座ってニナを待つ。
錬金術師になる勉強ができると期待に胸をふくらませ、若葉色の目を輝かせているエリナとは対照的に、エリナの保護者たちの表情は曇っている。
子どものエリナが、錬金術師に憧れているのは、ただ一時の感情だと思っていた。
トマスもリックもユージェニーも、エリナと錬金術師ニナ・スブラッティが長く交流を続けるとは考えていなかった。
ニナは、今日、これから何の話をしに来るのだろうか。
エリナの話を聞いても、さっぱり要領を得ず、直接、ニナに尋ねるしかないということになり、今、家族揃ってニナの訪問を待っている。
グレニー食堂の扉が開き、白いローブを着たニナが現れた。
「錬金術師様、おはようございますっ」
エリナは明るい声でそう言いながら、ニナを出迎える。
「おはよう、エリナ。トマスさん、リックさん、ユージェニーさん。今日は会う時間をいただき、ありがとうございます」
ニナは柔和な笑顔を浮かべてそう言って、エリナ以外の家族が座っているテーブルに向かった。
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