第12話 エリナ・グレニーは『白紫の錬金学院』の話を聞く

『白紫の錬金術師』というのは錬金術師ニナ・スブラッティの髪と目の色をなぞらえてつけられた通り名だ。

そして、エスター王国とグウェン帝国、西方諸島連合国から資金の提供を受けてニナが建てた錬金術師育成のための学校の名前は『白紫の錬金学院』という。


ニナは傍らに立つエリナを見つめて口を開く。


「『白紫の錬金学院』にはエスター王国とグウェン帝国、西方諸島連合国の各国から推薦された18歳以下の生徒が入学することになっているわ」


「19歳以上の人は『はくしのれんきんがくいん』に入れないんですか?」


「退学になった学生がいた場合、代わりに受け入れる学生の年齢制限はしないことにしているわ」


「あの、たいがくっていうのは『はくしのれんきんがくいん』をやめる……ということですか?」


「そうね。私が出した課題をクリアできない生徒は『白紫の錬金学院』をやめることになるわ。厳しい課題に取り組んでもらう代わりに、学費や食費等はすべて無料よ。でも、お金が必要になる場合もあるから、資産がある家の生徒が有利かもしれないわね」


ニナの話を聞きながら、エリナは今までお手伝いをして貯めた銀貨87枚と銅貨501枚のことを考えた。

今まで貯めたお金を全部持って行けば、きっと大丈夫だろう。

ニナは『白紫の錬金学院』についての話を続ける。


「コルム島に行くには、この街を出て南に向かい、港町レトから帆船に乗ります。私の船があるから、港町に到着して、天候が良ければすぐに出発できるわ」


「ふね? お客さんから聞いたことがあります。うみを渡る乗り物のことですか?」


「ええ、そうよ。西方諸島連合国の首長から帆船を貰ったの。私は明日、リンザの森で素材採取をして、明後日には港町レトに向かう予定です。あなたのお祖父様やご両親に『白紫の錬金学院』のことを話したいから、明日の早朝……そうね、7;00ごろに時間を取っていただけるかしら? トマスさんとリックさんが狩りに行く前に話せたらと思っているの」


「わかりました。今、ちょっと行って、お母さんと話してきますっ」


エリナはそう言って部屋を出て行った。

エリナの部屋に残ったニナは、自分の右肩に視線を向けて微笑み、口を開く。


「なあに? 贔屓している? あら、あの子は今のところ弟子ではないわよ。弟子志願っていうところね。私の唯一の可愛い弟子は、あなたのお気に入りのシリルよ」


ニナと話しているのは、妖精のララだ。

ララはニナの右手ほどの大きさの少女で、背中にはトンボの羽のように透明で、蝶の羽のような形の羽がついている。

妖精は、錬金術師にしか見えない。

今、この世界でララを視認できるのは『白紫の錬金術師』ニナ・スブラッティただ一人だけだ。


「まだ『白紫の錬金学院』のことを怒っているの? 『白紫の錬金学院』を作ったのは、あなたたち妖精と、私の弟子で養子のシリルを守るためだと、何度言ったらわかってくれるのかしら。私は『白紫の錬金学院』で、嘘と真実を織り交ぜた錬金術を生徒に学ばせるつもりよ。ええ、シリルには私の助手をつとめてもらって、真実の錬金術を伝えるわ。生徒の中で有望な子がいたら、その子にもね」


ニナはそう言って、手に持っているエリナの『錬金素材手帳』を開いて目を落とす。


「エリナは、どんな錬金術師になるのかしら。その前に、彼女の『白紫の錬金学院』の入学を、保護者の方が許可しなければ、あの子が錬金術師になる道は潰えるかもしれないけれど……」


『白紫の錬金学院』が開校すれば、ニナは、学校を建てたコルム島に常駐することになる。

ニナ自らが田舎町ディーンに赴き、リンザの森で素材の採取をするのは今回を最後にするつもりだ。

エリナか、彼女の保護者が、今『白紫の錬金学院』へのエリナの入学を躊躇えば、エリナが錬金術師になる道はおそらく潰える。

だが、エリナが長閑な田舎町ディーンで、愛する家族や友人に囲まれて、グレニー食堂で働き続けることは、錬金術師を目指すよりも幸せなことかもしれない……。

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