第2話 幼いエリナ・グレニーはリンザの森の木々を見上げて目を輝かせる
リンザの森は、夜に月明かりを浴びると活動を始める魔樹トレントが点在する森だが、月が隠れている朝や昼の時間帯は比較的安全に狩りや採取ができる。
トレントは太陽の光の下ではおとなしいが、攻撃を受ければ反撃してくるので、木材として入手するのは困難だ。
だが、エリナの祖父のトマス・グレニーは斧を二刀流で両手に持ち、トレントを伐採して木材として入手し、グレニー食堂を作り上げた。
リンザの森の入り口に到着すると、トマスはいつものように斧を二刀流で両手に持って一角うさぎを探しに行き、幼いエリナを抱いていた父親のリックは、抱いていた娘を地面に下ろした。
そしてリックはエリナの金色の髪を撫で、若葉色の目をじっと見つめて口を開く。
「エリナ。森では、絶対にお父さんの側を離れてはいけないよ。約束できるね?」
「約束する。私、もう大きくなったから、ちゃんと約束守れるよっ」
真剣な顔でそう言って肯くエリナに微笑み、リックは背負い袋からロープを取り出した。
そして、彼は自分の腰に3メートルほどの長さのロープを巻き付け、それをエリナの腰にしっかりと巻いた。
エリナは自分の腰に巻き付けられたロープに触れ、不満げに唇を尖らせる。
「お父さん。これ、邪魔」
「エリナ。このロープはエリナが迷子にならないために必要なんだよ」
「迷子にならないもんっ。大丈夫だよっ」
「本当に? 可愛いシマシマリスを見つけても、追いかけていかないって言えるかい?」
「シマシマリス見たい、どこ……っ!?」
エリナは父親が手作りしてくれた紙芝居に登場するシマシマリスが大好きだ。
シマシマリスというのは茶色い毛の白い縞模様があるリスで、身体の大きさは大人の男の握り拳ほどである。
冬の月には冬眠していたシマシマリスは、春の月になると活動を始める。
エリナの斜め後方の木の枝にも、シマシマリスが一匹いるのだが、エリナはまだ気づいていない。
リックはシマシマリスが一匹いることに気づいていたが、娘には黙っていた。
グレニー食堂の料理に使う食材になる一角うさぎの狩りはトマスに任せ、リックはエリナと共に滋養草を採取することにした。
リックは背負い袋から、自分が使う鉄製のシャベルと、子ども用に作った木のシャベルを取り出す。
エリナは森の木々を見上げて目を輝かせている。まだ斜め後方の木の枝にいるシマシマリスには気づいていない。
「エリナ、一緒に滋養草を採取しよう。おいで」
「うんっ」
父親に手招きされたエリナは、笑顔で肯いた。
リックはエリナに子ども用に作った木のシャベルを渡して口を開く。
「これはエリナのシャベルだよ。万屋のダンさんがエリナのために作ってくれたんだ。大切に使うんだよ」
エリナは父親に渡された木のシャベルをじっと見つめた。
シャベルの持ち手の感触は滑らかで、エリナはとても気に入った。
「私、このシャベル大事にするっ。ダンおじいちゃんに会ったらお礼を言うねっ」
リックはエリナの言葉に微笑んで肯いた。
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