第3話 幼いエリナ・グレニーは滋養草を採取する

滋養草は魔樹トレントの根元に生える回復薬の材料になる草で、料理にも使える。


滋養草は、春の月には双葉を出し、夏の月には鈴なりの愛らしい白い花を咲かせ、秋の月には白い花びらを散らし、赤くて丸い実をつけ、冬の月に入ると枯れてしまう。


リックはトレントの根元に生えている滋養草を見つけて、エリナに視線を向け、滋養草を指さした。


「エリナ。あれが滋養草だよ。わかるかい?」


「うんっ。お父さんの紙芝居に出てきたから私、覚えてるよ。滋養草、春の月は双葉なんだよね?」


「そうだよ。今の季節の滋養草は双葉と根が回復薬の原料になるんだよ。茎は」


「茎相撲の材料になるっ」


エリナは元気よく言う。

祖父と父親が薬屋ヴィラで滋養草の双葉と根を売った残りの茎を持って帰ると、茎と茎を交差させ、互いに引っ張り合って遊ぶ茎相撲ができる。

どちらかの茎がちぎれたら、ちぎれた茎を持っている方が負けだ。

エリナはいつも、太くて丈夫そうな茎を選んで茎相撲をするので、父親にも祖父にも勝つ。エリナは自分のことを茎相撲の名人だと思っている。


リックはエリナを見つめて口を開いた。


「さっきエリナの渡した木のシャベルで、滋養草の周りの土を掘ってごらん。優しく掘るんだよ」


「わかったっ」


エリナはトレントの根元に生えている滋養草の側にしゃがみ込み、さっき父親から貰ったばかりの木のシャベルを使って、滋養草の周りの土を掘り始めた。

父親はエリナの様子を見ながら、周囲にも気を配る。

リンザの森の入り口付近はシマシマリスや一角うさぎのような、小さくて危険が無い魔物としか遭遇しないが、不測の事態は起こり得る。


リンザの森の奥には巨体で鋭い爪と牙を用いて狩人を襲うグレートベアが生息している。

リンザの森の奥に進めば進むほど、強い魔物が出てくるというのは、狩人や田舎町ディーンに暮らす大人たちには周知の事実だ。


エリナは滋養草の周囲を木のシャベルで丁寧に掘り、そして父親を見上げて口を開いた。


「お父さん、土、掘ったよ」


「そうか。エリナはシャベルを使うのが上手だね」


リックはエリナを褒め、背負い袋から採取袋を取り出し、腰のベルトに採取袋の紐を結ぶ。

それからリックはエリナに微笑み、口を開いた。


「じゃあ、お父さんが滋養草を取り出すからね」


「私がやるっ」


「次はエリナにやってもらうよ。まずは、お父さんのやり方をよく見て、覚えるんだよ」


「……わかった」


エリナは父親の言葉に不承不承肯く。

リックはエリナが周囲を掘った滋養草を慎重に引き抜いた。

滋養草は双葉と根が回復薬の原料になるから、根を引きちぎってはいけない。


エリナは地面から引き抜かれた滋養草の長い根を見て若葉色の目を輝かせる。

リックは根についている土を払い、エリナに見せた。


「エリナ。滋養草の引き抜き方はわかったかい? 根がちぎれないように、慎重にそーっと引き抜くんだよ」


「わかったっ。私、できるよっ」


エリナは採取した滋養草を見つめて元気に言う。

リックはエリナに肯き、丁寧な手つきで、採取した滋養草を採取袋に入れた。


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