第36話 エリナ・グレニーはオリヴィア・ウィリアムズ侯爵家令嬢と和解する
セーラはオリヴィア・ウィリアムズ侯爵令嬢とロレッタ・デヴァイン子爵令嬢を部屋に迎え入れ、ベッドで丸まっているエリナに歩み寄る。
「エリナ。オリヴィア・ウィリアムズ侯爵令嬢とロレッタ・デヴァイン子爵令嬢がいらっしゃったわよ。布団をかぶっていないで、出ていらっしゃい」
「私を叩いた人が部屋に来るなんて聞いてない……っ」
「エリナ様。オリヴィア様の話を聞いて差し上げてくださいませ。お願いします……っ」
ロレッタはエリナのベッド脇で跪き、両手を胸の前で組み合わせて懇願する。
オリヴィアはベッド脇で両手を胸の前で組み合わせて跪くロレッタを見つめて唇を噛み、そして自分もロレッタと同様にベッド脇で跪き、両手を胸の前で組み合わせて口を開いた。
「あなたの頬を叩いたことを跪いて詫びます。どうか、わたくしを許してちょうだい」
オリヴィアの謝罪の言葉を聞いたエリナは布団から顔を出して口を開く。
「もう私のこと叩いたりしない?」
「しないわ」
「私、あなたのこと大嫌いだし、絶対に頭を下げたりしないけど、叩いたりしない?」
「しない。約束するわ」
「じゃあ、それを錬金術師様の前でちゃんと約束して。偉そうにしてる人の口約束は信じたらダメってお祖父ちゃんが言ってたから」
「わかりました。今から、ニナ様の部屋に行きましょう」
オリヴィアはそう言って立ち上がる。
ロレッタはオリヴィアに倣って立ち上がり、エリナに視線を向けて口を開く。
「エリナ様。わたしの持ち物を収納袋に入れてきました。あとで気に入った物を選んでくださいね」
「いいえ、私、いらないです。ロレッタさんの大事な物でしょ? 私は偉そうなこの人に叩かれたり、頭を下げないっていう理不尽な理由とかで怒られることがなければいいです」
エリナはそう言って、ベッドから出た。
セーラはエリナとオリヴィアの諍いがおさまりそうな雰囲気にほっとしながら口を開く。
「私も一緒にニナ様の部屋に付き添います。私とロレッタ様は当事者ではないので、ニナ様の部屋の前で待ちましょう」
オリヴィアとロレッタがいるのでセーラは畏まった口調だ。
ロレッタはセーラの言葉に肯き、そしてエリナたちは揃って部屋を出た。
エリナたちは錬金術師ニナ・スブラッティの部屋の前に到着した。
オリヴィアとエレナが部屋の中に入り、セーラとロレッタは部屋の前で待機する。
「正直、オリヴィア・ウィリアムズ侯爵家令嬢が平民のエリナに謝罪するとは思いませんでした」
セーラは心配そうな顔で扉を見つめているロレッタに言う。
ロレッタはセーラに目を向け、口を開いた。
「オリヴィア様も、錬金術師になる道を絶たれることを望まなかったのです。『白紫の錬金学院』を退学になることは、エリナに跪いて詫びることより屈辱だと、そう考えられたのだと思います」
「我が国にも、グウェン帝国の皇太子殿下の婚約破棄騒動の噂は流れています。オリヴィア・ウィリアムズ侯爵令嬢に重大な瑕疵があり、婚約破棄だと聞いていました。でも、オリヴィア・ウィリアムズ侯爵家令嬢側にも言い分がありそうですね」
「ええ、そうなんですっ。そもそも家同士の婚約を、恋愛感情を理由に破棄するなんて有り得ないことですわ。でも、あの厚かましく図々しい男爵家令嬢の取り巻きたちは、あの女を『優しい淑女』だと言ったり『優秀な王太子妃になる』と持ち上げたりして。わたし、本当に悔しい思いをしました。家柄を誇ることを悪しざまに言う口で、生まれ持った顔立ちを褒めるのです。家柄も、顔立ちも、本人の努力で得たものではないのは同じでしょう?」
セーラが胸にたまった鬱屈した感情を吐き出すロレッタの話を肯きながら聞いていると、扉が開き、オリヴィアとエレナが現れた。
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