第39話 エリナ・グレニーは『Ⅰ-3』教室で『錬金窯』に魔力を注ぐ

春の月58日。

朝食を食べ終えたエリナは『Ⅰ-3』教室にいた。

『Ⅰ-3』教室には水が入った瓶が並んでいる。

瓶の大きさは、グレニー食堂で仕入れているぶどう酒の樽と同じくらいだ。


今日は錬金術師ニナ・スブラッティは『Ⅰ-3』教室にいて、ニナの養子で弟子のシリルは『Ⅰ-1』教室を担当する。

『Ⅰ-2』教室で配布された布の小袋に自分の名前を刺繍をしている生徒たちは、自習という形だ。


『Ⅰ-3』教室にはエリナを含めて12人の生徒がいた。

水が入った瓶は31個置かれているので、生徒たちはそれぞれに、好きな瓶の前に立っている。

エリナは三列目の右から二番目の瓶に立っている。

エリナの隣、三列目の一番右側にはロレッタ・デヴァイン子爵令嬢がいる。

ニナは『Ⅰ-3』教室にいる生徒たちを見渡して口を開いた。


「今、生徒の皆さんの前にあるのは『錬金窯』です。まずは『錬金窯』に手を触れ、魔力を注いでみてください。『魔力循環』の課題を終えたあなたたちなら、問題なくできるはずです。『錬金窯』の色が『白から青に変わるまで』魔力を注いでください」


ニナの指示を受けた生徒たちは、それぞれ、目の前の『錬金窯』に手を触れて魔力を注ぎ始めた。

生徒たちが魔力を注ぐと、白い錬金窯の色が、薄青に染まっていく。


「疲れる……っ」


思わずエレナが呟いた直後、ニナが口を開いた。


「疲れたら休憩してね。自分の魔力を注いだ『錬金窯』以外に触れたら痺れる仕様だから、教室を出る時は自分の『錬金窯』の位置をよく覚えておいてちょうだい」


ニナはそう言って『Ⅰ-3』教室を出て行く。

『Ⅰ-1』教室や『Ⅰ-2』教室の生徒の指導に行くのだろう。

こんなに疲れてしまうのは、昨夜、セーラに魔力を注いだり、自分の足に魔力を循環させたことが原因かもしれない。

エリナはいったん女子寮の自分の部屋に戻って少し仮眠を取ることにした。


女子寮の自室で仮眠を終えたエリナは『Ⅰ-3』教室に戻り、自分の『錬金窯』に魔力を注ぐ。

エリナの『錬金窯』の下部、四分の一ほどが濃い青色に染まった頃、昼食の時間になった。


「お腹空いた……」


立って魔力を注いでいるだけなのに、食堂の手伝いをして、忙しく動き回っていた時よりも疲れているような気がする。


「エリナ様。わたしは『Ⅰ-1』教室に行ってから食堂に行こうと思うのだけれど、ご一緒なさる?」


エリナの隣の『錬金窯』に魔力を注いでいたロレッタに問いかけられて、エリナは首を横に振った。同室のセーラが『魔力循環』の課題を達成できたのかは気になるけれど、オリヴィア・ウィリアムズ侯爵令嬢に会いたくはない。

和解したとはいえ、オリヴィアに理不尽に頬を叩かれたことは、エリナの心の傷になっている。


「そう。では、また昼食後に」


ロレッタはそう言って教室を出て行った。

エリナは一人で食堂に向かう。

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