第115話 春の月67日/エリナ・グレニーたちは『見えない誰か』が小人族という名だと知る

『魔力循環』で目に魔力を通したエリナが解体場を見回すと、エリナの膝丈くらいの小人が7人、エリナたちを楽しそうに見ている姿が見えた。

色とりどりのとんがり帽子をかぶり、緑色のベストと白いシャツ、そして先のとがったブーツを履いている。


やんちゃな少年のような小人、気取った少女のような小人もいれば、髭を生やした中年男のような小人も、髪が白い老婆のような小人もいる。

びっくりしたエリナの集中が途切れ、目に魔力が行き渡らなくなると、小人たちの姿は見えなくなった。


「『見えない誰か』たち、見えた……」


エリナの呟きを聞いたレンも肯く。


「俺も見えた。『見えない誰か』たちはずいぶん小柄なんだな」


「そうね。『見えない誰か』たちは可愛らしいのね。……ナイジェル様は話しているみたいだけれど、私には声が聞こえないわ」


目に魔力が行き渡らせたままのセーラが『見えない誰か』たちと話しているナイジェルを見て首を傾げる。


「ナイジェル様の目も耳も光って見える。あっ。耳にも魔力を行き渡らせているのね」


セーラはそう言って自分の魔力を両目だけでなく両耳にも巡らせる。


「セーラは『魔力循環』が上手になっていてすごいね」


「いつも眠る前に『魔力循環』の練習しているもの」


「私は『魔力循環』の練習しないで寝ちゃうことも多かったよ。今夜から『魔力循環』の練習を頑張る」


「俺も腹筋や腕立て伏せだけでなく『魔力循環』の訓練もしよう」


エリナとレンが『魔力循環』の訓練をすると決意して肯き合っていると『見えない誰か』たちと話していたナイジェルが、話を切り上げてエリナとレンのとこに歩み寄って来た。

セーラは自分の両目と両耳に『魔力循環』させることに成功し、楽しそうに『見えない誰か』たちと話をしている。


「レン、エリナ嬢。小人族の皆が素材を錬金術に使うための下処理をしてくれると約束してくれた」


「こびとぞく? それって『見えない誰か』たちのことですか?」


エリナの問いかけにナイジェルは微笑んで肯く。


「そうだよ。彼らは妖精の鱗粉から作った『目くらまし粉』を飲んだり、身体に振りかけたりしているから、目に魔力を通さないと姿が見えないし、耳に魔力を通さないと声が聞こえないそうだよ」


「でも、床を木靴の踵で叩くような音が聞こえたことがありましたよ」


エリナは図書室で『見えない誰か』に本を探してもらったことを思い出しながら言った。


「そうなんだ。音が聞こえることもあるのかな。聞いてみるね」


ナイジェルは『魔力循環』で自分の魔力を両目と両耳にも巡らせて、小人族にエリナの疑問について尋ねた。

『魔力循環』をしていないエリナとレンには、ナイジェルが一人で喋っているように見える。


「こびとぞくの人たちと話す時は私たち以外の人がいない時にしないと、一人でずっと喋っている人って思われちゃうね」


エリナは小さな声で、隣に立つレンにこっそりと言った。エリナの言葉を聞いたレンは苦笑して肯く。


「そうだな。俺も気をつける」


「エリナ嬢。音が聞こえた理由がわかったよ」


『魔力循環』で自分の魔力を両目と両耳にも巡らせて、小人族と話していたエリナに視線を向けて言った。


「靴底の『目くらまし粉』を拭き取ると音が聞こえるようになるんだって。エリナ嬢に気づいてほしくてそうしたって言ってるよ」


「そうなんだ。あの時、図書室で本を見つけてくれたこびと族の人が今、ここにいるんだね。もしかしてトト?」


エリナは名前を教えてもらったことを思い出しながら尋ねると、エリナの金色の髪が一回、引っ張られた。

トトがこの場にいるようだ。

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