第10話 エリナ・グレニーは錬金術師ニナ・スブラッティに会えて喜ぶ

春の月15日。もうすぐ10歳になるエリナ・グレニーが窓辺で待ちわびていた錬金術師ニナ・スブラッティがグレニー食堂に現れたのは、空が夕暮れになる頃だった。


「錬金術師様、いらっしゃいませ……!!」


食堂で給仕をしていたエリナは、白いローブを着たニナに駆け寄る。

ニナは駆け寄ってきたエリナの背が伸びたことに驚き、成長を嬉しく思いながら微笑んで口を開いた。


「久しぶりね、エリナ。また身長が伸びたみたい。去年も可愛かったけれど、今年はもっと綺麗になったわね」


「ありがとうございます。錬金術師様に褒めてもらえて、嬉しいです。あの、お食事を用意しますか? ぶどう酒は召し上がりますか?」


エリナはニナをカウンター席に案内しながら問いかける。

夕食にはまだ早い時間帯だから、店内には客がまばらで、カウンター席には誰も座っていない。

ニナは少し考えて口を開いた。


「お腹が空いているから、煮込み料理をいただこうかしら。ぶどう酒もお願いするわ」


「かしこまりました」


エリナはニナに一礼して台所に向かう。

そして一角うさぎのトマト煮込みとパン、ぶどう酒をトレイに乗せて店内に戻って来た。


「お待たせしました。一角うさぎのトマト煮込みとパン、ぶどう酒をお持ちしました」


エリナはそう言いながら、カウンターテーブルに一角うさぎのトマト煮込みとパン、ぶどう酒を並べる。

一角うさぎのトマト煮込みは湯気を立てている。


「おいしそう!! 私、グレニー食堂の料理を楽しみにしていたのよ。いただきます」


ニナがそう言って木のフォークを手にしたその時、食堂に狩りを終え、解体場からやってきた狩人たちが店内に入って来た。

エリナはニナと話したい気持ちを抑えて新たな客の元に向かう。


やがてすっかり日が落ち、グレニー食堂には夕食や晩酌をする客で賑わう。

田舎町ディーンに毎年現れるニナは、顔見知りの住人と話に花を咲かせている。


「エリナ。給仕は私がやるから、錬金術師様と話しておいで」


台所から現れた母親が、エリナに言う。

母親の言葉をエリナは若葉色の目を輝かせて肯き、カウンターに座るニナのところに向かった。


「錬金術師様、お話してもいいですか?」


エリナは、ニナと住人と話が途切れた頃を見計らって話しかける。

ニナはエリナに視線を向け、『錬金素材手帳』微笑んで口を開いた。


「あら、エリナ。仕事はもういいの?」


「はい。お母さんが給仕を代わってくれました」


「そう。じゃあ、あなたの『錬金素材手帳』を見せてちょうだい」


「わかりました。あの、よかったら私の部屋にいらっしゃいませんか?」


「いいの? じゃあお邪魔するわね」


ニナはグラスの底に残ったぶどう酒を飲み干して席を立つ。

そしてエリナとニナは、二階に向かった。

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