パンやのときめき
パン屋ではトングをカチカチしてしまう方、夕雪です。
パン屋の前を通り過ぎようとすると、まず香りに、続いて窓や戸口から覗くパンたちの姿に引き留められて、ついつい店内へと足を運んでしまいます。
そして店内に入ってしまえば、もうすっかり買う気満々になって、トングをカチカチさせながらトレイを持っているというわけです。
街のパン屋さんと私の出会いは結構古いです。というのも、父が大のパン好きだったからです。
幼い頃は時折、父に連れられてパン屋におもむき、『甘食』を買ってもらっていました。他のパンももちろん買っていたのですが、幼い私の記憶に鮮明だったのは『甘食』だったのです。
そのパン屋の『甘食』はカリッとした外側の食感と、ふわっとした中の食感が両方絶妙なバランスで成り立っていて、甘みもちょうど良くて、今思い出しても美味しかったなあと思い、食べたくなるくらいです。
……甘食の話はこの辺りにして、ほかのパンの話もしましょう。
幼い頃は惣菜パンより、なんと言っても菓子パンです。
可愛いキャラクターを模したものなんか、特に目を惹かれて、親にねだることもしばしばでした。
ちなみにそのパン屋ではケーキも一緒に扱われていましたが、ケーキは誕生日とクリスマスのものと決まっていたので、そちらは初めから目に入らなかったのです。
一度に買ってもらえるパンの個数は決まっていたので、いつもそれはもう真剣に悩みました。
今思うと、とても恵まれていた、ありがたく幸せな悩みだなあと思います。
大人になった今、やはりパン屋には時折赴きます。
パン屋の棚に陳列されている様々なパンたち。その姿は見ているだけで可愛くて、愛おしくて、美味しそうです。
今の私としては、スイーツみたいな菓子パンはもちろん、洋風の伝統的なパンのお味も気になりますし、惣菜パンも美味しそうで目移りします。そうそう、私はクロワッサンが大好きで、クロワッサンがあるとつい買ってしまいますし、美味しいといっそう嬉しくなります。
そんな風にパン屋に赴いた時には、子供の頃と同じような悩みを抱きながらトングをカチカチしています。
一度に食べられるパンには限りがあるし、カロリーもあるし、予算もあるし……。
でもこの悩みは楽しい悩みです。
そしてやっぱり、ときめきを含んだとても幸せな悩みなのです。
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