芽吹きの春、まるかじり(山編)

 風も暖かくなり、お日さまはサンサン。

 緑が芽吹く季節になってきました。

 暖かくなると冬に縮こまってしまった体も緩んでいくようで、なんだかほっとします。

 暑さはもちろんですが、寒さだって、思いのほか体に負荷をかけているものですね。


 春と言えばやはり食べ物です。食い意地は通年変わらず張っている私です。

 あれもこれもと目移りしますが、そんな中でもまずは山の幸から思い浮かびます。

 目に眩しいような新緑のことが思い出されるからなのかもしれません。

 山の幸もいろいろありますが、特に馴染み深いものをいくつかあげてみます。


 たけのこ。たけのこは私の大好物です。

 一般的なたけのこと言えば、孟宗竹のたけのこ。これはもちろん大好きです。また私の実家では根曲り竹(姫竹)もよく食べていました。どちらも実家の裏に生えていて、春と言えばたけのこ取り。お手伝いでする皮むきの作業もなかなか面白かったです。大量に取れるので、アク抜きして水煮にした後で瓶詰めにまでなっていましたが、今思うとかなり贅沢な話でした。

 味噌汁、煮付け、たけのこごはん……実家で家族が作ってくれた料理はオーソドックスでシンプルなものでしたが、どれも今でも大好きです。

 春になるとたけのこ食べ放題だった日々が懐かしく恋しく思えます。


 タラの芽。ふきのとう、ふき。

 タラの芽やふきのとうは天ぷらにして食べるのが好きです。ほろ苦さになんとも言えない春を感じて。

 子供のころは良さが分かりませんでしたが、大人になると毎春ごとに食べたくなります。

 実家にはふきのとうもよく生えて、育ってふきになると煮て筋を取り、煮物や味噌汁になっていました。これも子供のころより今の方が好きな食べ物のひとつです。

 そういえば私の地元である秋田には、その名も『秋田蕗』という名前のフキがあります。茎の長さは一メートル以上、葉っぱの直径も一メートル以上となる大きなフキです。直接の名産地は私の住んでいた地域とは少しズレますが、県の名産です。


 ゼンマイやわらび。みつば。

 山菜採りに野山に分け入る祖母の後を、探検気分でついて行った記憶があります。わらびをたくさん採って得意顔になっていたのも良い思い出です。

 ゼンマイやコゴミは食べられるものとそうでないものの区別がつかなかったので採らせてもらえませんでした。

 ゼンマイやわらびは採るのはともかく、食べるまでの下処理の過程が大変な山菜です。それでも祖母たち大人は苦もなく淡々と作業していました。たけのこもそうですが、今自分が作る側になると尊敬してしまいます。

 アク抜きした後、私の周りでは大体天日干しにされていました。おうちの軒下なんかにゴザやザルなどに乗せられてカラカラになるまで干されます。

 ゼンマイは油揚やニンジンなどともに煮物にされることが多くて、甘辛い味わいが結構好きでした。

 わらびは味噌汁にされることが多かったのですが、こちらはイマイチ……でも今食べたらきっとどちらも美味しいだろうなと思います。

 みつばもやっぱり実家の裏に生えていました。ちょっと裏に行って採ってきて食べられる気軽な山菜。……やっぱり振り返るとなかなか贅沢です。


 大人になって味覚が変わると、春の味わいもまた別の一面が発見できてより楽しいものになったと思います。

 多彩な味が楽しめるようになったのは、年をとって良かったなと感じることのひとつです。

 思い出とともに、いろんな味とまた再会したい気持ちになります。



 山の幸だけでずいぶん長く書いてしまいましたが、春の恵みにはまだ畑のものも海のものもありますね。

 そちらの話は次回以降に書いていこうと思います。

 山の幸のお話はこのあたりで。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る