第14話 肥溜めの、さらに底の部分

 「オルト‼」

 名を呼びながら、少女は混乱の極致にいる。

 オルトは、このスラム街を統べる組織の構成員の1人だ。

 少女の身を挺して稼いだ金の、半分以上を奪い取る。

 稼ぎが悪いと殴られる。時に彼自身の欲望の処理に付き合わされる。

 そういう関係。

 だが、今までも決して人間扱いされなかったが、殺されそうになるのは初めてだった。

 「へへ、サチ。客をくわえ損なった役立たずには、きっついお仕置きをしてやらなきゃな。」

 オルトは嗜虐的な薄笑いで、青龍刀を構えなおし……


 「悪い。オレの因縁に巻き込んだ。」

 謝罪するイオ。

 って言うか、オルトとかいう男、マジ気持ち悪い。

 スラム街だし仕方がないが、不衛生ゆえの男臭さが鼻につく。

 脂ぎった顔も、ムカつく。

 気付けば10数人に囲まれていた。

 いや……

 最初から気が付いていた。

 スラム街で両手の指の数を超える、男共を叩きのめした。

 『生意気な小僧め』とか、『金を出せ』とか、絡んでくる方が悪いのだが……

 そろそろ復讐に来ると思った。

 因縁を断つつもりでいたが、少女との関係を知り手加減は不要と知る。

 「ごめん、サチさん。少し離れてて。」

 少女を庇い包囲網に進み出たイオは、

 「オレはお前らみたいなクズが嫌いだし、この肥溜めみたいな状況でさらに女を支配しようって言う、どうしようもない馬鹿は万死に値すらぁ。」

 言うだけ言って、本気のオーラを開放する。

 町で暮らすようになり抑えていた、オーガの魔王種を超える強者の覇気を。

 微かでも魔法の素養があれば……

 耐え切れない。


 「うわぁぁぁっ‼」

 「ぎゃぁぁぁっ‼」

 自分以外の男達が、次々と倒れていく。

 半狂乱というのが相応しい。

 「許して‼助けてくれ‼」

 泣き叫ぶオルトは、失禁、脱糞の上、泡を吹いて倒れた。

 誰も何もしていない。ただ目の前の少年が異様な気配を醸し出した、それだけだ。

 いつか立っているのはアラン1人きりだった。

 「完全な無能力はお前だけか。」

 言った少年の目が、一瞬だけ青みを増す。

 「お前がこのスラムの裏組織のトップか。」

 言い当てられパニックする。

 「小僧……」

 声が震える。

 一体俺達は、何に手を出してしまったのか?

 蛮勇を振り絞った。

 手にしていた大振りなナイフで少年に切りかかり、

 「ぐぁっ‼」

 熱にも似た激しい痛みを感じる。

 慌てて見た、右手は手首から先が無くなって……

 地面にナイフを握った、自分の手が落ちている。




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