第27話 アルルの独り言
「イオ‼いい加減起きてぇ‼当たってる、馬鹿ぁ‼」
毎朝恒例……
と言うか、今日はだいぶ問題のある声が聞こえてきた、リバーウェル伯爵邸だ。
ここが家々が密集する住宅街じゃなくて本当よかった。
台所に立っていたアルルは苦笑いして、横のローサをチラ見する。
勿論ローサも苦笑いしていた。
アルルとローサ。10歳と9歳から一緒にいて、今は20歳と19歳。
縁があって昔からずっと助けてくれる、今は貴族にまでなりあがってしまった雇用主の兄妹と、やはりずっと助けてくれた、凄腕鑑定士のサチと共に暮らしている。
伯爵邸のメイドだが、鑑定魔法を授かって使いこなせる2人だが、実は料理や掃除などの方がずっと好きだ。
ここに来れてよかったと思う。
2人は、イオとミウの兄妹に、サチに心から感謝している。
2人がスラムに捨てられたのは、出会った日と同じで10歳と9歳の時だった。
『祝福の儀』は5歳で終わり、無能力は確定していたが(実際は鑑定魔法持ちを見逃された)親に奴隷のようにこき使われ……
アルルは妹、ローサは弟が5歳になり、それぞれ『水の属性持ち』、『火の属性持ち』と確定したところで捨てられた。
『スペアに食わせる無駄飯はない』と、言うことだろう。
2人はスラムで出会い、身を寄せ合って震えて眠った。
3日目の夜、気持ちの悪い中年男に追い回された。
9歳ながら少し釣り目のしっかりした顔立ちのローサは好みではなかったようで、男に殴られ昏倒した。基本童顔、年より幼く見えるアルルはストライクだったようで、抑え込まれ下履きをはぎ取られそうになり……
「ガッ‼」
瞬間舞った血の赤は忘れられない。
倒れた男の頭が割れて、血がどくどく出る。
呻いているから死んではいない。
でも?
どうして?
「こっち‼」
アルルとローサの手を引いたのがサチだった。返り血でベタベタな手も、泣きそうに震える唇もキレイだった。
サチが助けてくれたから、石で殴ってくれたから、その後も自らを犠牲に守り続けてくれたから、今の私達がある。
同じ頃現雇用主の妹の方、ミウにも会った。
その後全てをひっくり返す強大な炎のような、イオにも出会い……
「しょうがないだろ‼男の生理現象なんだから‼」
「……馬鹿ぁ‼無神経‼」
続くバチーン‼と言う音。
あ、イオ君、殴られた。
アルルは、イオに、ミウに、そしてサチに感謝しているが……
妹を半泣きにするのはどうかと思う。
今朝のスープは、イオ君の好きじゃない野菜のみのスープにしよう。
でもそうすると、『肉・肉・肉』ってうるさいよな。
じゃ、1人2本つけるつもりだった腸詰を、イオ君だけは5本あげよう。
テキパキと調理をこなしながら、ふと思う。
この家で一緒に住むと決まった時、
「鑑定士相手に嘘言っても仕方がないし、レジストし続けるのも面倒だから」と、イオが昔馴染みにぶっちゃけた。
「オレら、本当の兄妹じゃないから。」
鑑定させてくれた結果、イオは辺境の平民の子、ミウは王都の騎士爵の子だ。
まるっきり他人の2人が、なぜこんなに仲良しなのか、よくわからない。
6歳当時、イオが『昔馴染み』といったセリフを覚えている。
6歳の昔馴染みって?
ただ、本当に仲良しで信頼しあっている2人なのに、イオはミウを王太子妃にしたいらしい。
兄妹じゃないんだから、そんなまどろっこしいことをしなくても自分で幸せにした方がいいと思う。
アルルは、恩人である兄妹と、サチの幸せを自分以上に祈っている。
やっと食堂に来た兄が、
「あーっ、野菜のスープじゃんかあ⤵️あ、でもオレのとこ、腸詰5本もある‼食っていいの‼」と、頬に真っ赤な手形をつけて騒ぎ、
「馬鹿イオ」と、妹はまだ膨れている。
ミウちゃんは、完全にイオ君が好きなんだけどな。
アルルは2人の幸せを祈っている。
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