第26話 戦争が起こりました(異世界すごい)

 「何でいきなりこんなことになるんだよ?」

 王都の南側に布陣したウィルランド軍(王宮軍)にて、呼び出されたイオは文句を言う。

 「仕方ないよ。国王も弱ってきてるし、恒例行事さ」と、ハルト。

 さすが異世界なのか?

 遅くにできた子供らしいハルトは15歳だが、親である国王は60歳を越えた。

 国のトップが、肉体的にか精神的にか陰りを見せ始めると、我こそはと謀反を働く者が出る。

 今回は王都の南に領土を持つ、長い名前の侯爵様だった。

 「面倒だなぁ。」

 ぶつぶつ言いつつも招聘に応じたのは、王太子、ハルト・ウィルランドをイオが個人的に気に入っている、それだけだ。

 S級冒険者の義務とかでなく、負けるとも思わないから、やりすぎ防止でミウも連れて来ている。

 「でも、ハルト。オレ、個人的に恨みがないなら人間殺すのは面倒だぞ。」

 「わかってるよ。でも、ここはイオ君の戦場だと思うよ。」

 「?」

 「見てご覧よ。」

 ハルトの指し示す先、なんたら侯爵の戦闘員はその正面すべてが魔物だった。

 ゴブリン。その上位種。

 オーク。その上位種。

 リザードマン。その上位種に……

 「侯爵領はティムで有名なんだよ。」

 つまり、魔物の使役に特化しているらしい。

 「あ、じゃ、あれ全部やっつければいいのか。」

 イオは過去に苦労しているせいか、魔物には血も涙もない。

 「ああ、それでワイバーン……」と呟いたのは、彼女も付いて来たらしい、サチで。

 「ワイバーン?」

 「ええ。イオ君が捕まえてきました。王都付近でワイバーンなんてと思いましたが、つまり侯爵が戦争の切り札で用意したんでしょう。」

 「ああ、それがフラフラ散歩してて、オレが倒した、っと。」

 「え?真面目に?真面目にワイバーン討伐済みなの?」

 「ああ。」

 こともなげに言われ、ハルトが笑いを噛み殺す。

 「ああ、それは侯爵、慌ててるだろうね。」

 「で、やっていいのか、あれ?」

 「待って待って。手を出させてからじゃないと、王宮としてはやりにくい。」

 「ああ、なるほど。じゃ、先陣になるべく死ぬなって言ってくれ。オレが魔物を倒して侯爵軍を丸裸にする。味方の方は、死ななきゃミウが治すから。」

 この時、王太子とミウは初めて出会った。

 「初めまして。兄がお世話になっています。イオの妹、ミウです。」

 「あ、ああ。僕はハルト。ハルト・ウィルランドだ。」

 

 その後戦場に吹き荒れた嵐は、長く語り継がれることとなる。

 「一度使ってみたかったんだ‼」とはしゃぎ、広範囲への火魔法で魔物達を焼き払う兄と、

 「イオ‼味方まで火傷するでしょ‼」と叫びながら、まるで慌てることなく前線を走り回り、回復に努めた妹と。

 『爆炎の白銀』と、『癒しの黒銀』。

 恥ずかしい2つ名まで付いて、兄妹は侯爵領をそのまま押し付けられた。子捨ての罪で平民落ちした、子爵領(隣接していた)もおまけで付いて。

 「マイルズ領はサチに返す‼」と言ったが、拒否されてそれも叶わず。

 結果、イオ・リバーウェル伯爵と、戦場での活躍で彼女自身も爵位を得た、ミウ・リバーウェル女男爵が誕生する。

 あの馬鹿ギルマスを放っておいた罪とばかり、冒険者ギルドから昔馴染みの鑑定士3人を引き抜いて。

 ちなみに、リバーウェルとは、かわ(リバー)い(ウェル)。

 「ロングリバー(吉ながとかわ合)とかにしとく?」と言ったイオに、

 「リバーウェルがいい」と、ミウが言った。

 いっそ、河合になりたかったミウの気持ちに……

 今のイオは気付かない。

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