第24話 虎の威を借る狐以下

 「何持ってんの、イオ……」

 反射で鑑定魔法を使った。

 少年が担いでいたのは、ワイバーン。レッサードラゴンと言うべきA級の魔物で、そうそう出てきたら困る、数100人単位の死傷者が出る、人類の脅威。

 死体とは言え、その恐ろしさに息をのむ。

 「知らねえ。なんか、外にいたから捕まえた」と、少年はさらりと言うが……

 イオ、鑑定魔法使えるよね?

 知る気もないというか、倒す方が楽しかっただけで、相手の正体を気にしていない。

 らしいと言うか、雑というか。

 でも、王都周りでワイバーン?

 それ、結構拙いことになっていないか?

 考え込むサチを尻目に、

 「今からギルドに卸に行くからさ、付き合ってよ、サチさん。時間外の鑑定代は、オレが払うからさ」と、イオは勝手に話を進め……


 ギルドマスターが地雷を踏む。


 「どうなっているんだ、このギルドは‼」

 夕暮れの冒険者ギルドで、ショーンが怒鳴り声をあげていた。

 ギルド入り口付近のオープンスペース。

 受付嬢がいて、依頼の張り紙があり、仕事前後の冒険者が集う飲食スペースもある、そこで、だ。

 こういう配慮の足りなさが、自分は偉いんだと必死にアピールする浅はかさが、救いようがないと古くからの冒険者も、この4年ずっと受付を担当するイリア女史も分かっている。

 ただ一応、曲がりなりにも子爵家3男。

 扱いにくい、故に放置していた。

 「10歳の、本来なら登録もできない子供がS級だと‼しかも2人も‼そのうえ17歳の小娘の鑑定士もいるし、どれだけ甘い審査なんだ‼」

 気分良く吠えていたショーンだったが、

 「おーい。なんかでかいの捕まえたから、買い取ってくれ」と入ってきた、あまりに小さな少年にギョッとした。

 ショーンにしたら、あまりに子供子供していたから。

 イリア女史や冒険者たちも腰を浮かせる。

 火薬庫に火種が投げ込まれたから。

 「鑑定士もつれて来た。ワイバーンだってよ。」

 事も無げに言われ、飛び出したギルド前には扉をくぐるはずもない、巨大な魔物が横たわる。

 子供の横には、自分が目の敵にしている鑑定士の少女もいる。

 愚か者の素晴らしさは、ここまで証拠を並べられても認められないところにある。

 「嘘だ‼」と、ショーンは叫んだ。

 「子供にこんな魔物が倒せるハズがないじゃないか‼ワイバーン?鑑定できるわけがない‼これもどうせ作り物だ‼」

 作れるならその技量を褒めたいとは、全員の心の突っ込み。

 「この子爵家3男、ショーン・マイルズを騙そうとしやがって‼」

 彼が家名を叫んだ瞬間、サチが微かに顔をしかめた。

 雑なのに鋭い、イオがチラリそれを見て、

 「苦労したな」と呟く。

 サチは舌打ち。

 「鑑定したな、イオ。」

 「まあね。」

 鑑定は、普通他人には了承を得ない限り使わない。

 失礼に当たるからだが……

 ともあれ、ギルドマスターは地雷を踏んだ。

 少年から揺らめくよう、殺意にも似た覇気が立ち上る。

 横暴で愚か者だが、無能力ではない。

 ショーンはあまりの恐怖に膝をついた。

 あおりを食らって震え上がる冒険者達とギルド職員達だが、

 「サチさん‼ミウさんを‼」

 これまでも何回かあった、慣れたくないが慣れているイリアが叫び、サチも頷いて駆け出していく。

 「さあ、やりますか」と、イオは嗜虐的に笑い……

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