第7話 迎えに来られた

 10日後、イオは王都への馬車旅の途中にある。

 くそう、面倒臭い。

 変な情けなんかかけなきゃ良かった。

 さすが王族用の馬車というか、座席がふわふわで座り心地がいい。

 イオは窓から景色を見つつ、自前の携帯食料、荒れ地で捕まえたホーンラビットの焼き足を齧っている。

 相変わらずの擦り切れかけた服のままで。


 ギルマスに切った期限まで、町からかなり離れた荒れ地でサバイバル生活をしていたイオだ。

 糸が入り、自在に魔法が使えるようになった少年にとって、荒れ地での生活は恐れるものでもなくなった。

 食料も、肉ならいくらでも手に入る。必要分狩ればいい。危険もない。

 寝るのも、それまではいつ襲われるかと怯えながらだったが、今魔王種よりも強大なオーラを垂れ流すイオに、襲い掛かる魔物もいない。

 快適だった。

 このまま放っておこうかとも思ったが、それでも嘘つきにはなりたくなくて町に顔を出した1週間後……

 「君がオーガを倒してくれたイオ君だね。」

 えらくキラキラしい、金髪緑目の少年に手を出された。

 旅装束だから華美ではない。しかし質のよさそうな衣装で、どう考えても危険人物である自分に屈託なく笑いかける。

 この国の王太子、ハルト・ウィルランド、11歳だった。

 イオの名前は……

 例の事件から調べたのだろう。

 王都から辺境まで、馬車で10日以上かかるとイオの記憶が教えてくれる。

 だからこその『1週間』だったのだが、昼夜問わず移動する強行軍で来たのだろう。

 確かに『礼を尽くせ』と言った。

 が。

 王族が迎えに来るとは思わなかった。

 「国王は、さすがに50を超えているし、迎えに来られない非礼を許していただきたい。」

 なかなか手を取らないイオに、困り顔で言うハルト。

 いやいや、どう考えても60歳近そうな、豪華なローブ姿の壮年男が息も絶え絶え、疲れ果てて座り込んでいる。

 「彼はユースフ・ローランド。この国の教皇だ。」

 は?

 王太子のみならず、教皇まで来たの?

 「わが教会の不始末で、君には……」

 背後でブンブン首を振るには、あの日見たギルマスだ。

 おそらく、名前を呼べず怒らせた旨、一行に伝えてあるのだろう。

 「イオ殿には迷惑をかけた。申し訳ない。」

 ここ10数年は頭を下げたことがなさそうな、偉い(らしい)男に謝罪されたよ。

 「原因を作った痴れ者は捉えてある。いかようにも処分されよ。」

 兵士達に引きずられ出てきたのは、あの日、『祝福の儀』を執り行った町の司祭と、イオ自身の両親だった。

 3人共憔悴しきっていて……




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