第30話 イオの(野生の)叫び

 月に3日、王太子妃候補であるミウをハルトの待つ生徒会室に送り届け……

 毎度胸の内がもやもやして、落ち着きがなくなるイオだった。

 あくまで婚約者候補。ハルトは絶対無茶をしないと分かっていて……

 イラつく。

 下手に前世の記憶があるばっかりに……

 イオにとってミウは前世の親友。女の子同士。惚れたはれたはあり得ない。

 なのに‼

 今は青年であるイオは、たまらなくミウが可愛いのだ。

 実は朝の騒動も、生理現象ではない。

 いや、朝だから元気だったわけだが、魔力を移す口実で一緒に寝て10年。

 途中から役得だと思うことにして抱き締めていた細い体が、この日は腕の中になかった。

 無意識に探す。寝返りを打った瞬間、偶然ミウも寝返りを打った。

 突然の0距離、柔らかそうな唇が、かわいい寝顔が目の前にあり……

 暴走しそうだったから、逆に抱き締めたのだ。視覚情報を無くした。体の柔らかさを感じるのはいつものことで、ここに色々見えたらヤバイ。

 結果、無神経だと殴られたが、悔いはない。

 手を出さずに済んだ……

 って言うか、私、どうなってる?

 あえて久しぶりの女言葉だ。

 ミウは親友。大切な友人。

 なのに何故、こんな気分になるんだ?

 オレはあいつに何をしたい?

 思っただけで反応してしまいそうで、

 「ああ、男の体面倒くさい‼」と、愚痴る。

 イオは今、王立学院の屋上で空を見ている。

 約束の時間まで30分余りだ。

 クールダウンだ、クールダウン。

 そうだ。オレとミウは親友で、オレはミウを王太子妃にするためにこれまで努力してきた。

 ここで惚れたら本末転倒、まさに『マイフェアレディー』の世界になる。

 前世のせいで素直になれない。

 イオは必死で本音を殺す。

 抱き締めたいのも、もっともっと進みたいのも、全部気の迷い。オレとミウは親友でしかない。

 反応する体は……

 「いっそプロにお願いするしかないのかな?」

 身も蓋もないつぶやき。

 ただそれは、今度は女の子だった前世が幸いする、踏み切れないイオだった。


 けれどこの日、だいぶん落ち着いてきていた兄妹と昔馴染み3人との生活に、事件が起こる。


 「ただいま。」

 「ういーっす。」

 実は王都とリバーウェル伯爵領はそれなりに離れている。

 馬車なら半日は掛かるはずが、空間魔法もいけるイオと、その魔力を映したミウは転移も出来る。

 一瞬で屋敷に帰ってきた2人に、アルルとローサが飛びついてくる。

 「イオ君‼」

 「ミウちゃん‼」

 ぼろぼろに泣き腫らした目で2人は叫ぶ。

 「サチが攫われた‼」

 と。

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