第16話 友人も『人生ハードモード』でした

 転生した。


 ……


それに気付いたのは、1年前の『祝福の儀』の直後。

 魔力なしと判定された私を、両親はためらいもなく捨ててくれた。

 驚き過ぎて、前世を思い出したよ。


 私は日本の女子高生、吉永美雨(よしながみう)、16歳だった。

 今世の名前もミウ。家名は忘れた。

 ……

 いや、長ったらしいんだよ、今世の名前。

 5歳の頭では無理だった。

 確か騎士爵。一代限りの下っ端貴族で、両親は娘に期待していたのだろう。

 だからって‼️

 期待に沿わないからって‼️

 捨てるか⁉️普通。

 前世の私の最後の記憶は、歩道に飛び込んだ暴走車と、運動神経が格段に良かった、親友が守るように前に出る横顔。

 努力のカイなく私は死んで、転生。

 糸は?

 助かったのだろうか?


 5歳プラス16歳の頭で考えるに、今はとても危ない状況だ。

 捨てられたのはスラム街で、私はこの場にそぐわない。

 長い黒髪には櫛が入り、明らかなイイトコのお嬢さん。

 服も……所詮下っ端貴族だから特に華美なこともない普通のワンピースだが、スラム基準なら最上級だ。

 偶然真後ろにあった雑貨屋に飛び込んだ。

 人目を避けたかっただけだったが、この店主が至極まっとうな人間だったことが幸いだった。

 「髪を売りたいので、ハサミを貸してください。そしてその髪代て、私にここで生きるに相応しい男の子用の服を。」

 真っ直ぐ目をみて言う私に、

 「随分利口だね、嬢ちゃん」と、ニヤリと歯を見せ老婆が笑う。

 ここで私は、据えた臭いの古びた少年用の服と、丸刈りにした頭を手に入れた。

 「髪代と服代の差額だ。」

 下取りに出した着ていた服と髪代から、今着ている服を引いた。

 銀貨9枚を手にいれて、ミウはスラムの路地に消える。

 あとで分かった。

 貰った金額も相場通りで、彼女には感謝してもしきれない。


 けれど、銀貨9枚はしょせん銀貨9枚だ。

 幼過ぎて働けない以上、増えることは決して無い。

 1日の食事を2回にして……

 後の方では1回にして食い繋ぐ。

 現金を持っていることがバレれば余計トラブルを生むから、慎重に慎重に、路上生活2か月目、

 「どうしたの、少年?お腹すいたの?」

 お金も底をつき諦めかけた、道端で座り込んでいた私に声をかけたのがサチだった。

 以来彼女の庇護下に入る。

 

スラムには、2種類の子供がいる。

 スラムに暮らす両親を持ち、スラムに生まれた生粋のスラムっ子と、私のように捨てられた子だ。

 一定の教養と優しさを持つ、サチは後者なのかもしれない。

 一緒にいるようになって3か月後、サチは更に2人の少女を拾ってきた。

 ショック状態がひどく口を利かないから、名前さえ知らない。

 ロリコンの餌食になりかかった。

 間一髪、サチに救い出されたのだ。

 「これっくらいの石で、思い切り殴ってきた。」

 説明しつつ震えている、血塗れの手。

 私はサチが、何をして私達に食わせているか、分かっている。

 時々あの声が聞こえてくる。

 5歳の体に16歳の心、マジきつい。

 心が潰れかかっていた。

 16歳の私が踏み出す前の行為に、この前13になったと言った、幼いサチが臨んでいる。

 そうして稼いだパンで育つ自分が……

 辛い。

 

 しかし、捨てられて1年後。

 ここまでも最悪だった。しかし、それを上回る恐怖の化身に遭遇する。

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